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アスカとイチカの花火大会


 「ただいまより、カワチ対ヤマト 予算争奪花火大会を開催します!」


 夕日が地平線へと帰り、残した橙が紫へと変わり空が黒一色に塗りつぶされた頃、大会の開催が宣言された。

 普段であれば魔物の襲来を恐れ自宅へと篭る時間だけど、今日ばかりは村じゅうの人々が中央広場へと集まっていた。広場には光の魔法を宿した魔石が提灯を灯し、出店の屋台がおいしいそうな香りでやってくる客達を迎えていた。その広場には舞台が設置されていて、そこには拡声器というには少しお粗末なメガホンのようなものが設置されており、舞台に立つ者の声を広場じゅうに伝えていた。


 「今日はご来場いただき、ありがとうございます。今回のイベントの開催にご協力いただいた魔導士ギルド、商人ギルド、冒険者ギルドの皆様におかれましては……」


 村長が舞台に上がり開催の挨拶をするが、関係者と少数の村人以外は屋台に夢中だ。私も関係者ではあるけれど、屋台で売られていた串焼きのお肉をほおばりながら聞いていた。元の世界ならフランクフルトになるんだろうけど、ソーセージを作る習慣がないようだった。他にもフルーツの盛り合わせや、焼きとうもろこしもあって屋台のレパートリーのこだわりが伺える。自称”旅するおじいちゃん”ことハシミが商人ギルドと協議して屋台の出店を依頼したと聞いていたけれど、彼の異世界式屋台への力の入れようは故郷に対する想いの強さなのかもしれない。


 「それでは今回のイベントの説明を行いますね。今からカワチ組、ヤマト組の順に花火を打ち上げます。えっと異世界の人は分かると思うのだけど、知らない人も多いでしょうから花火の説明からしますね。花火っていうのは空に打ち上げる火の玉だと思ってください。だけどそれはただの火の玉であれば良いというわけじゃなく、その美しさを鑑賞するものです。そして今回はその花火の美しさや素晴らしさを評価していただいて、カワチ・ヤマトどちらがよかったかを投票していただきます。難しく考えずに、気に入った方に投票してもらえればオッケーですからね~。そして投票数が多かった方にどーんと予算をあげちゃいます!って企画です!」


 舞台の上のイチカは緊張のせいか少し早口で今回の祭りの説明を行った。雑な説明だとは思うものの、これ以上に説明できないし、花火を観た事が無い人にとっては説明しても無意味。それに百聞は一見にしかずとかなんとか言い訳を私自身にしつつ、最低限伝われと願いながらイチカの台本作成依頼をこなしたのだった。イベント説明の台本を作る頃には運営の手伝いでヘトヘトになっていたのも原因のひとつだ。




 それはイチカへ大人の悪知恵を吹き込んだ翌日だった。



 「先生!おはようございます!」


 朝食を食べている私に、いつも以上に上機嫌なイチカが駆け寄ってきた。


 「おはようイチカさん。とってもご機嫌だけど何かいいことあったの?」

 「それがですね!昨日話していた事を一晩寝ずに考えたんですよ!それでこの企画書書いたので読んでください!」


 そういって数枚の紙に書かれた暗号を私に差し出してくる。こちらの世界の紙は魔力が宿っており、その魔力が書いた内容を変質させてしまう。そのため適性が無い人が書くと全て暗号化されてしまう。けれど私は”読む”、”書く”双方の適性を持ち、さらに”書いた人が意図する事を読み取る力”を持っている。これはかなり稀有な適性であるらしいが、何らかの強い力が付与されることの多い異世界人にとってはそこまで珍しいものではないらしい。けれどそのおかげで”書く”適性を持たないイチカの暗号化されたこの企画書も問題なく読み取る事ができた。



         ☆きかくしょ☆

イベント内容……カワチ組・ヤマト組による花火大会

 目  的 ……各組の技術力の客観的評価を行うため

 方  法 ……村民と来客による投票で勝ち負けを決定する

 場  所 ……村外発射場より打ち上げ、観客は中央広場にて見物



 こういった書き出しで企画書はつづられていた。他にも打ち上げ場所の案を記載した地図や、広場で屋台を出して村の収益とすること、三大ギルドへの協力要請に関する内容、魔物の討伐スケジュールなどなど、一晩で考えたにしては詰められた内容となっていた。きっと深夜のテンションであれもこれもと書き足していったんだろうな、と思うと文化祭の企画を立てていた頃を思い出して微笑ましくなった。


 「面白いアイディアね。村の人も楽しめるしいいんじゃないかしら?」

 「先生もそう思いますか!?これで予算問題も解決するなら一石二鳥ですねっ!」

 「あとは村長や関係各所への協力が必要だから、許可を貰いに行かないといけないわね」


 異様なまでにテンションの高いイチカを少し落ち着かせた方が良いのではないかと思ったけれど、こういうのは乗っている時に行ける所まで突っ走ってしまった方が良い。途中まで進めてしまえば燃料切れになっても最後までやり切る事になるのだから。

 そしてその後イチカは朝ごはんを目にも留まらぬ速さで食べ終わると、村長の所へと駆け出していった。若いっていいなぁ、青春なんだろうなぁ、などと他人事のように見送った私だったが、結局その後巻き込まれる事になった。何事も安易に賛成するものじゃない、そう後悔したのはしばらくしてからだった。


 その後はカワチ組・ヤマト組双方の代表と村長、イチカ、ハシミ、私での話し合いが行われ、ルールの策定作業を行った。ハシミはこの村での滞在歴が長く、元神官という事もあり村人の信用を得ている。彼が花火の説明や安全性を保障すれば話が進めやすいと思い同席してもらった。けれどイチカはちゃんと考えていたようで、説明を行えば意外なほどに話はすんなりと進んだ。私は話し合いの概要を纏め、書き留める書記役だ。これは話し合いの参加者は読めないし読む必要もないのだが、三大ギルドへの送付用だ。


・花火は魔法単体で打ち上げるのではなく、物質に魔力を込めて空で発火させるものとする。

・上空への打ち上げは風魔法の適性がある者が行う。

・打ち上げは各組5名を選出して行う。

・ヤマト組の水魔法適性のある者で消防部隊を編成、カワチ組は警備隊を編成する。

・花火の実験はイチカの立会いで行い……


 イチカは各項目を読み上げると共に理由を述べていた。物質での花火に限定したのは科学を専門とするカワチ組への配慮だ。それでも魔術専門のヤマト組にとっては魔力を魔石に込める事など容易であり、説明を聞くたびに”勝ったも同然”という表情をしていた。しかしカワチ組にとって一方的に不利な内容とならないようにイチカは考えていたようで、競技内容を打ち上げ花火にした理由を聞いた時にそれについても教えてくれた。


 「花火にした理由は、こっちの世界に来る前に友達と花火大会行きたいねって話をしてたのが最初の理由なんです。あとは私がこの村に来てすぐくらいに火事があって、それの原因を調べてみると、カワチ組って火薬や油の研究をしてたみたいなんですよ。それなら花火くらい作れるんじゃないかなって思ったのが二つめの理由ですね。その上で魔法単体での花火を禁止すれば、もしかするとカワチ組もいい勝負できるんじゃないかな~って思ったんですよ」


 村に来てすぐの火事、それはイチカが国分くにわけつかさに任命される要因となった事故だった。出火場所はカワチ組の研究室で、イチカによるとそこでは石油の研究が行われていたらしい。そして石油の扱い方など知らぬこの世界の住人では、その火事を防ぐ事はできなかった。その上悪い事に、油火災の対処法も理解できていなかったのである。

 火災に対するこの世界の消化方法、それは”水を掛ける”である。油火災では絶対にやってはいけない事、私達にとっては普通でもこの世界では普通ではないのだった。それを聞いたイチカは、自身の魔法適性”粒子操作”を発揮し、大量の土や砂を研究所にぶちまけたのだった。これは窒息消火と呼ばれる消火方法だ。物が燃えるには”燃焼物もえるもの”、”温度”、”酸素”の三大要素が必要である。そのうちの”酸素”の供給を絶つ事で火を消すという方法だ。てんぷら油から出火した際に”蓋をする”や”濡れタオルをかぶせる”という対処はこれと同じ原理だ。

 イチカの魔法は完璧で、炎への寸分の隙間も残さぬほどに徹底された精密な操作を行ったのだから、目撃した人々が崇めるようになるのも当然と言える。私自身も「これって使い方次第で建築業者上がったりでは?」と考えたくらいだ。なぜなら今まで道だった所に直径十数メートル、深さ三メートルほどの大穴が空いていたのだから。

 ちなみに”粒子操作”であるため、砂や粒子に分解できる土は操作できるが、石などは操作できないらしい。今は石の表面を削るイメージをする事でゆっくりではあるが削ってその粒子の操作を行えるとのこと。魔法適性ずるい。

 そういった事情があり、イチカはカワチ組に貸しがあり、ヤマト組からは有能な魔導士として歓迎された。カワチ組も消火方法は科学に基づくものだと理解してからはイチカを国分の司として認めるようになった。魔導にも科学にも精通している、それはこの役職に就く者としてはこれ以上無い条件だった。


 「それで花火に決めてからは、これをこの村の名物イベントにすればお客が集まって、お店や宿が儲かる。そうすれば分配できる予算自体も多少増やせるし、娯楽の少ないこの世界で退屈している人のためにもなるし、って考えるとどんどんアイディアが膨らんできたんですよね」


 「もちろん火を扱うので危険も伴いますが」という言葉を付け足されたが、言っている事はもっともだった。そして開催日が1ヵ月後と決まり、慌しく準備が進められていった。その間子供達の勉強会はお祭り準備会になったため、結局私の童話製作はしばらくお預けになった。子供達もなんだかんだ言いながらも提灯作りを楽しんでくれたのは助かった。




 イベント開催日となった昼、この村に最も影響力のある魔導士ギルドの面々の中には前任の国分の司が来ていたとの事だった。イチカは挨拶をしたとの事だったけれど、話に聞くほどの暴君ではなかったらしく、面白いイベントを企画した事を褒められたらしい。ただ、見た目は厳ついおじさんだったので、こんな縁でも無ければ話をする事はなかっただろうなという感想だった。

 ハシミは商人ギルドと最終打ち合わせをしていたし、私だけ準備が終わったからとぶらぶらもしていられないので三大ギルドのうち残る冒険者ギルドの面々に挨拶へと向かった。


 「イベント実行委員のアスカと申します。本日は魔物の討伐と警備にご協力いただきありがとうございます」

 「ご丁寧にありがとうございます。わたくし、冒険者ギルドのキュウと申します。本日はなにやら珍しいお祭りに参加できるとの事で、我々も楽しみにしておりました。もちろん警備はしっかりと行いますのでご安心ください」


 三人組の冒険者のうちの一人、弓を持つキュウと名乗る長髪の青年にとても丁寧に挨拶を返され少しばかり拍子抜けした。冒険者と言えばもっとガサツなオジサンだと思っていたからだ。けれど他の二人を見ると、一人は私のイメージするがっしりとした体型の剣を持つ冒険者だったけれど、残る一人は少し幼さが残る雰囲気であり、高校生くらいの年齢に見えた。そんな彼は仕事よりも屋台に興味があるようできょろきょろと見回している。その様子には、この三人をリーダー部隊として派遣した冒険者ギルドとこの村の関わりの薄さを感じさせるものがあった。

 私は討伐部隊の編成確認や巡回ルートの確認、それと屋台の配置や販売物を説明して、せっかくのイベントを楽しんでくださいと言い残し彼らと別れた。




 祭りは大きな問題もなく順調に進行し、花火の打ち上げも事故無く無事終了した。その後は村から招待した三大ギルドの人たち含め、希望する村民を交えた打ち上げの食事会となった。

 花火大会の結果を言えば、花火を知る異世界人にとっては非常にがっかりするような出来だった。火薬の知識があるはずのカワチ組の花火は花開いたものの、形は非常にいびつで球体には程遠く、通常の花火がひまわりのイメージなら、それはまるでイガ栗のような刺々しい形になってしまっていた。対する魔術知識による花火を作ったヤマト組にいたっては、もはやそれは花火と呼べる代物ではなく、ただの照明弾のようで周囲を昼間のごとく照らし出したのだった。打ち上げ順が逆だったならばカワチ組の花火は眩んだ視界のせいで見る事もかなわなかっただろう。


 「クッソ、火薬に含まれる魔力の影響を完全に除外できていなかったとは不覚っ!」


 酒をあおりながらそう悔しがるのはカワチ組の花火職人だった。それに対し反論するのはもちろんヤマト組の職人である。


 「こちらの花火もあれでは攻撃用魔法でしかありません。イチカさんの求める芸術性を実現するには燃焼時間を延ばす研究をもっと進めねばなりませんね」


 双方納得できていなかったようだ。彼らはイチカから詳しい”花火とはどういうものか”を聞いているし、職人としてそれを実現したいと考えているのだから、納得できなくて当然と言える。それでも花火というものを初めて観た人達にとっては、空で花開く炎の絵画は感動を覚えたようで、どちらの花火にも歓声が上がっていた。ちなみに投票結果はヤマト組が僅差で勝利しており、花火を理解していない人々は目立つ方に投票したという事だろう。


 「いがみ合ってたのに、なんだか仲良くなってません?」


 そんな職人同士の様子を見ていたイチカはあきれ気味だった。私はそのいがみ合っている様子を直接は見ていないけれど、イチカを悩ませた二つの派閥が同じ目標を持った事で意気投合しているのだから彼女にとっては「今までの苦労はなんだったの!?」と言いたくもなるだろう。


 「まぁ、これでイチカさんの悩みの種は無くなったわけだしいいじゃないの」

 「そう思ってたんですけどね……残念ながら毎年やることになりそうです……」


 どうやら各方面から再度花火大会をやってほしいと打診されたようだ。商人ギルドが出店の予想以上の売り上げにスポンサーをするから毎年やってくれと言ってきたり、魔導士ギルドも火薬の研究に興味を持っているらしい。あの冒険者ギルドでさえ「花火は魔物の追い払いに効果が期待できるかも知れません」などと乗り気だったのだから、こんな小さな村が三大ギルドに楯突くなど無理な相談だ。冒険者ギルドの三人は、純粋に楽しかったから理由をつけて他のギルドの話に乗ってきただけだと私は思っている。


 そんな訳でぐったりとうな垂れるイチカを残し、打ち上げ会も深夜まで盛り上がりをみせたのだった。

はじめましての方ははじめまして。

初めてじゃない方はいつもありがとうございます。

島 一守です。


今回で終わりませんでした!

パーティーはまだもうちょっとだけ続くんじゃ…。

というかですね、書いてるうちに

「今回で終わらすの無理やん?無理やん??」

ってなって、とりあえず花火大会の一本で纏めるべ~と考えたのですが

そうすると地味に短すぎたんですねぇ、こわいですねぇ。

そういうわけで入れるつもりのなかった三大ギルド設定や

冒険者ギルドの面々が出てきました。

全ては話の流れが火事の説明に流れたのが悪い、ボクワルクナイモン!

あと紙の設定も説明しないといけない流れになったのも原因。

(せっかく前回はごまかして省略した内容なのにね)

ホント話の流れをうまく調整できる能力がほしいです。


というわけで今回で終わる事が出来ませんでしたが

続きは本日中に投稿してとりあえず終了します!多分!

よろしくお願いしま~す!    (カズモリ)

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