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異世界生活~2人の冒険譚~  作者: 八尋
序章 終わり
1/2

1 元日の出来事A

新作です。

いつかはそんな日が来ると分かっていた。






(今年で、もう30歳か。本当に時間が流れるのは早いな。)


今日は、1月1日。新年の幕開けである。


そんな日に絶望的な気分になっている男が一人。


新年の始まりと言っても、思うことは人それぞれだろう。一年の始まりを祝う者もいれば、正月くらい、と言って、ゆったりと過ごす者もいることだろう。


色々な思いが行き交う中、その男は一人、真っ暗な道を歩いていた。


天涯孤独、男はその境遇から、暗い気分になることが多かった。


両親を生まれて1月も経たずに交通事故で亡くし、自分を育ててくれた唯一の肉親である祖父は、男が中学を卒業する頃に病に倒れ、亡くなった。


それからは、一人でも頑張ろうと、あらゆることに一生懸命に取り組んだ。


その甲斐もあってか、高校での成績は常にトップ。運動に関しても、幼い頃から祖父に鍛えられていたので、問題はなく、性格も良い。男は周囲の者達から尊敬されていた。大学も良いところに入り、会社でも上手くやっていた。


そんな男にも苦手なことがあった。それは、家族の話題になった時だ。兄弟どころか両親すらいない男にとって、その話題は拷問にも近いものがあった。


勿論、人に嫌がらせや、嫌われることを一度もしたことがない、好かれてすらいる男に、そんな思いをさせる者等いるはずかない。


しかし、初対面の者は違う。何となく家族構成について質問されることがあるのは、仕方のないことだ。別に相手も嫌な思いをさせようと聞くはずもなく、話題がなく、たまたま「ご兄弟はいらっしゃるのですか?」とか、「ご家族の方は?」など聞いてしまうこともあるだろう。


確かに、男もその程度の質問であれば簡単に答えることができるだろう。だが、男が嫌がるのは深く追求してくるタイプの者だ。


成績が良く、運動神経もずば抜けていて、性格も良い。そんな者がいたら気になってしまうのは、もはや必然だろう。時には温厚な性格である男を、イラつかせる程質問攻めにしてくる者もいる。


だが男は、どんなに腹が立っても怒鳴ることなどはなく、それどころか、一切顔に出してさえいなかった。


それが相手に、まだ質問してもよい、と思わせてしまう原因であったのだろう。感情を表に出さないことは、男の長所であり、同時に短所でもあった。


感情を表に出さない、それは相手に心情を悟らせない。それと同時に、気持ちがわからないのである。


自分がどんな気持ちであろうと、相手には伝わらない。面倒事や賭け事等であれば、それは大いに役立っただろう。しかし、相手が身内であった場合、もしくは感情を読み取ってほしい時等は、非常に困るのだ。


男はそんな能力のためか、作り笑い等の類いは不得意であった。過去に何度か作り笑いをしたことがあったが、どれも一瞬で見破られてしまった。


そういう理由もあって、男は極力人との交流を避けていた。しかし、社会に出ると言うことは、必然的に大勢の人と関わることを意味する。


まさに昨日、男は取引先の御偉方との接待をしたところだ。相手は、小規模の会社ではあるが社長。失態の無いよう振る舞うのは非常に疲れる。


特に昨日は12月31日、大晦日であった。そんな日にまで仕事があるのは、自分が課長という立場に就かせてもらえているからだ。


せめて部下達には休んでほしいと、各自、仕事が終わり次第休み。ということにして、遅い者でも3日前には休暇に入った。


本当は自分も休みたかったのだが、誰もいない家に帰っても、特にすることもないので、自分は残っていた。


初めは一人で残るつもりだったのだが、急遽接待が入り、部下の一人もそれに付き合わせてしまうことになった。


本人は「気にしていない...」と言っていたが、誰が大晦日まで仕事をやりたがるだろうか。それが嘘であることはすぐに気がついた。


その部下とは駅で別れ、男は暗い道をひたすら歩く。家に向かうわけでもなく、ただひたすらに。気の向くままに歩いていく。


歩き続けていた男は、いつの間にか見知らぬ住宅街にいた。辺りの家々はどこも明かりが点いておらず、暗い道を照らすのは、幾つかの街灯だけだった。


しかし、男はその街灯を見ておかしく思った。外灯一つ一つの距離が離れすぎている。100mはあるだろうか。街灯同士の間はほとんど真っ暗で何も見えない。


さらに、どれだけ進んでも、同じ場所を進んでいるようにしか感じなかった。不安になった男は、一軒のインターホンを押した。だが反応はなく、他のどこの家も反応はなかった。それどころか、生き物の気配一つ感じなかった。


空を見上げても星一つなく、ただ闇があるだけであった。


(私の人生はここで終わるのか。)


男は諦めたように肩を落とし、いつかは来ると()分かっていた日()に向けて歩みを進めた。






どれ程の時が過ぎただろうか。相変わらず辺りは暗いままだが、やがて明かりの点いた家が見えてきた。男は希望を胸にそこを目指し走り始めた。


別に男も自分から死にたいと思っているわけではない。ただ、自分の境遇から、死というものは当然訪れることを人一倍知っているだけだ。

 

だがその家に近づくにつれ、次第に男の足は重くなっていく。その家は辺りの家とは明らかに違った。家というよりも小屋に近い。山小屋のようなものだった。住宅街に建っているのは場違いにも程がある。


男はほかに頼れる当てもなく、扉を叩いた。しかし中からの返事はなく、静かな闇に扉を叩く音だけが響き渡る。


男は、「誰かいませんか」と尋ねるが、勿論返答はなかった。辺りにその小屋以外に何も無くなった世界に男の声だけが響いた。


そこで男は不思議に思う。先程まで住宅街だった場所に何もなくなっているのだ。地面も空も、何もかもが闇に包まれている。そんな空間に小屋だけは残っていた。窓はなく、木でできたそれは、更に辺りの不気味さを増加させる。


男は他に方法はないと思い、勇気を振り絞ってその小屋の扉を開いた。


この作品は月1連載を予定しています。多少ずれることもあると思いますが、応援よろしくお願いします。

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