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軍法会議

 県庁はシルバーコードの産業廃棄物収集運搬業及び処分業の許可取り消しを決定し、社長のお千代さんに聴聞の通知を発送した。聴聞は許可取り消しや業務停止、改善命令や措置命令など、相手方に不利益な行政処分を発する際に、弁明の機会を付与するために前置きされる行政手続きである。他の自治体ですでに処分されていたり、刑事処分が確定しているなどの場合を除き、省略することはできない。

 聴聞は健康上の理由など、正当な理由がなければ忌避できず、延期もできない。事情を知る当事者から弁明を聴く尋問の意味もあるので、代理人の出席は許されないが弁護士等の補助は許される。

 聴聞の日、お千代さんは県庁の会議室に出頭した。晴れの席でもないのに、例によって上等のスーツを着てきた。関係ないはずの持田が補佐人を買って出て一緒についてきた。あんなに毒ついていたのに一緒に警察署で尋問されたりしているうちに親しくなったようだった。産業廃棄物課の船形主幹が行政庁として処分理由を読み上げる間、お千代さんは放心したように主宰者の逸見課長の顔を見つめていた。聴聞は裁判官役と検事役を役所が兼ねる軍法会議であり、一回で裁定が出され当事者適格の間違いを除いて結論が覆されることはまずなかった。

 「胎児の焼却を受託したのは事実ですか」

 「堕胎した胎児を焼却したのは認めますけど、堕胎児は死体じゃなく産業廃棄物です。切断した組織と同じなんです。警察でも何度も説明しました」

 「墓地埋葬法の期限を過ぎれば死体ですよ」

 「これも警察で言いましたけど期限を過ぎてたなんて私は知りません」

 「薬剤師さんですし、製薬会社に胎盤や臍帯を販売する事業もされてたんでしょう。見れば何か月の胎児かわかるんじゃないですか」

 「見れば分かりますよ。プロですから。だけどさ、容器をわざわざ開けないでしょう。医療系を入れるペール缶は開けずに燃やすのが決まりでしょう。開けなかったらわからないじゃない」

 「容器ごと燃やすのが原則というのはその通りです。でも容器を回収して洗って使い回していたんでしょう」

 「だからといって胎児を見たと言えるの」

 「あなたは炉の前に線香を焚いていたそうですね」

 「それは事情と言うものよ。法律じゃないわ」

 「人骨の発見はどういう経緯ですか」

 「冗談じゃないわよ。正直に人骨を見つけて報告したのに死体を埋めたのかなんて疑われて。いい面の皮だわ」

 「刑事処分にはならなくても行政処分には十分になりうる事件ですよ」 「どうしてよ?」

 「刑事処分は過失は罰せずですが、行政処分は過失は罰するです」

 「だからどうしてよ」

 「スポーツのルールと同じですよ。例えばサッカー、過失でもファールにもなるし、オフサイドにもなる」

 「ちょっとやめてよ」

 「なにかほかに弁明することはありますか」最後に逸見課長が末吉に声をかけた。

 「許可取り消しは動かないのね」

 「それは聴聞の結果から最終的に決めます」

 「私は会社も失い、夫にも離婚され、医療看護短大の講師も辞任し、産廃のためにすべてを失いました」そう話し終えるやお千代さんは聴聞の最中だというのに泣き崩れてしまった。いつもは多弁な持田は一言も発言しなかった。

 涙のかいもなく、翌週のはじめ県の産業廃棄物課はシルバーコードの許可を取消した。

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