08 収納魔法
読んでいただきありがとうございます。
公園からの帰りは、多くの人にじろじろ見られてしまった。ハロウィンには早すぎたらしい。
自宅に帰ると母さんに「思ったより早く帰って来たわね」と言われた。王国でエンジョイしてると思ったらしい。それでも、無事の帰りを喜んでくれた。
お土産を見せると、緑色のネックスレスが気に入ってくれた。
「エメラルドに似ているけど、沢山付いているからガラスよね」
「わからないよ」
適当に買ったからいくらだったか覚えていない。それでもそんなに高い物は無かった。
その後、王国の話を色々聞かれたのですっかり夜更かししてしまった。親父はワインを飲みながら「意外といけるじゃないか」と言っていた。
ちょっとサボりすぎてしまったが、1週間ぶりに大学へ行った。
昼食を取っていると、岩崎さんがやって来た。
「高橋君、お久しぶりです。
電話に出てくれないから、少し心配していました」
「ごめん、旅行に行っていたんだ」
「それなら良かったです。病気でもしたのかと思っていました」
「それは申し訳なかったね」
「どちらに旅行されたのですか」
行先まで聞いて来るなんて想定外だ、いいわけが思いつかない。まさか異世界に行ってました何て言えない。
「え、ええと、カーンだったかな」
思わず答えてしまってから、しまったと思った。
「カーンと言えば、ノルマンディに有る都市のカーンですか」
「よく知ってるね。そのカーンだよ」
それからしばらく岩崎さんの質問と言う名の尋問が続いた。冷汗をかきながら答えているが、どんどん話のつじつまが合わなくなる。
もう彼女の口撃に、為す術が無かった。
俺は仕方なく降参すると、自宅でダンジョンを発見し、公園のダンジョンから異世界の都市カーンに行ったと、洗いざらい白状させられた。
何故こんな事態に?と疑問を持ちながら、俺の家で母さんと岩崎さんが楽しそうに話す様子を、テーブルの隅でぼ~と見ている。
2人は、俺の買って来た王国のお土産を手に取って盛り上がっていた。
「圭吾、こんな素敵な彼女が居るのなら、もっと早く紹介しなきゃダメでしょう」
「ごめん」
岩崎さんは彼女じゃ無いと思ったが、何故か違うと言える雰囲気じゃ無かった。
「私も異世界に行ってみたいな。圭吾君、今度連れて行ってくれますか」
何だか名前で呼ばれている。それに異世界に連れて行けとまで言われた。
「生命の腕輪が無いと駄目なんだ。ごめんよ」
俺は悪くないと思いながらも謝ってしまった。
翌日の早朝、怪しげな雨合羽姿で港区のダンジョンが有る公園のトイレに向かう。岩崎さんから頼まれた生命の腕輪を手に入れる為だ。
ついでに、アイテムボックスの魔法を習得する予定だ。この魔法は金貨30枚で習得出来るので、大金貨50枚と、金貨50枚持って来た。正直金貨だけで2kg以上の重さになっている。
早朝のダンジョンで、御者の言い値を払ってカーンに向かう。カーンには昼頃に到着した。
前回止まった宿で同じ部屋を頼み、マリエッタさんの案内をお願いする。
「ケーゴ様、今日はどの様な御用事でしょうか」
「実は、前回話のあった収納魔法を習得したいですね。
マリエッタさんの所で、紹介をお願いします」
「そうですか、それはありがとうございます。今日、領主館へ向かいますか」
「お願いします。それとですね、生命の腕輪って手に入りますか」
「それも、領主館で手に入ります。ケーゴ様のような外国人向けに、領主館で販売しております」
「それは有りがたいです。母から手に入れるように連絡が来たものですから」
「それでは早速参りましょう」
馬車で領主館へ向かう。街の中心部に有る領主館は、お城と言うか、大きな屋敷と言った感じだ。石造りのとっても頑丈そうな建物だ。
領主館に入ると、中は思ったよりも狭い。カウンターの奥に10人位の人がいて、事務作業をしていた。
奥に進むと、ちょっと高級そうな雰囲気の所に出る。マリエッタさんが1人の男性に声を掛けて何やら話し始めた。
「手続きをしますので、あちらの席でお待ちください」
マリエッタさんの言葉に従い、木製の長椅子に座る。待っている間に、リアルメイドさんが紅茶を出してくれた。
ロングドレスを着た本物のメイドさんは、高校生くらいでとても礼儀正しい。何か話しかけてきたが、何を言っているのかわからなくて、もっと早くフランス語の勉強をしておけばと、とても後悔した。
30分位待った頃、マリエッタさんがやって来た。
「お待たせしてすみません。こちらにお越しください」
マリエッタさんに連れられて別の部屋に入ると椅子を勧められる。
「本日は、当領主館をご利用頂き有難うございます。担当する魔導士のジールと申します。収納魔法は樽2本の広さ、金貨30枚の物で間違いございませんね」
親父と同年齢ぐらいのおじさんに聞かれた。この人がアイテムボックスの魔法を習得させてくれるらしい。
「はい、そうです。よろしくお願いします」
椅子に座ると、台に乗った血圧計? 多分魔道具だと思われる物に、生命の腕輪を付けた手を入れさせられる。
魔導士が何か操作すると、台が動いて生命の腕輪が固定された。
「今から魔法陣を書き込みます。少しの時間ですので、動かないで下さい」
おれは頷くと、おとなしくじっとしている。
「それでは始めます」
機械がブンと音を出し、腕の辺りが温かくなって来る。少しずつ温度が上がっている気がして、このままじゃ腕を焼かれてしまうと焦りだす。
「はい、終わりました。今外しますので、お待ちください」
やっと終わった。固定を外してくれたので、腕を引き抜く。腕をほぐしていると、おじさんに銅貨を渡された。
「手に持った銅貨を見て、収納と唱えてください。思うだけでも構いませんよ」
早速、銅貨を見ながら「収納」と言ってみる。
するとどうだろう、手の上に有った銅貨がすっと消えてしまった。
「上手くいきましたね。それでは収納閲覧と唱えてください」
言われた通りにすると、ダンジョン地図が出て来る時と同じように、目の前の空間に
“銅貨 1”と表示された。
「はい、銅貨1と出ました」
「それでは、それを見ながら取出しと唱えてください」
取出しも上手くいって、手の中に銅貨が戻って来た。
「大きなものは、床の上に出すように思い浮かべてください。間違って手の上に出すと、落ちて壊れます。
もう一つ、魔力が枯渇すると収納された物が溢れ出て来ますのでご注意ください。本日はありがとうございました」
心の中で 「異世界魔法半端無い、スゲー」 と絶叫した。
その後向かったのは、生命の腕輪を販売している所だ。
1級の腕輪 金貨20枚 貴族向け
2級の腕輪 金貨12枚 上級市民、騎士、魔導士向け
3級の腕輪 金貨 8枚 上級市民向け
4級の腕輪 金貨 4枚 上級市民向け
5級の腕輪 金貨 1枚 一般向け
級によって、レベルアップに違いが出るらしい。
岩崎さんの分を購入すれば良いのだが、親父や母さんが何か言ってくるかもしれないので3個が良いだろう。
「1級の腕輪を3個下さい」
「ありがとうございます。貴族様むけの腕輪を3個ですね。でしたら、騎士様や使用人の分も必要だと思いますよ。ご一緒の購入をお勧めします」
王国の常識を知らないので、素直にその話に従った。
「どれくらい買って行けば良いですか」
「そうですね、騎士様分10個、使用人分30個くらい有れば十分ではないでしょうか」
「わかりました。2級の腕輪10個と、3級の腕輪を30個下さい」
「上級の品を沢山お買い上げ頂き、ありがとうございます」
1級、2級、3級を別々の袋に入れてくれたので、収納魔法を使ってみる。手に持った袋がすっと消えて収納出来た。
想像以上に素晴らしい。思わずガッツポーズをとってしまった。
マリエッタさんは、俺の喜んでいる様子が面白かったらしく、クスクス笑っている。やばい、凄く恥ずかしい。
その後は、前回諦めた武器や防具、服などの購入だ。岩崎さんの服も必要なので、マリエッタさんのアドバイスを受けながらお店回りをした。収納魔法は樽2個分の上限が有るので注意が必要だが、満杯になる前に買い物を済ませられた。