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05 岩崎菜々美

 迷宮探索隊(自衛隊のダンジョン調査隊の名称)が持ち帰ってくる、ドロップアイテムや鉱石が話題になっている。ドロップアイテムは用途がわからないので盛り上がりに欠けるが、鉱石に関しては様々な研究が行われていた。

 金、銀、銅、鉄などの金属が魔力を帯びている物で、特性が違うらしい。

 日本以外にダンジョンが発見されていないので、米国などが研究に参加しようと圧力をかけている。今の所拒否しているが、これから先どうなるかわからない。


 とりあえず大学に入ったが、ダンジョン探索に夢中で大学生活に乗り切れていなかった。

 専攻は、工学部の機械工学科だ。

 講義の最中、ダンジョン研究室で見つけた魔法の本を読んでいる。頭のスペックが上がっているので、講義を聞きながらの本読みぐらいは楽勝だった。

 サークルなどには参加せず、講義が終わればさっさと家に帰っていた。


 大学から帰って来ると、母さんがコーヒーを出してくれたので、テーブルに付いて一休みする。


「圭吾、大学はどうなの」


「思ったより簡単かな」


「それは良かったわね。高校3年の頃から急に成績が上がったわね。今の大学では物足りないのかしら」


「それは無いよ。ダンジョンについても調べているから丁度良いかな」


「ダンジョンはそんなに面白いの」


「今までの常識と全く違うからね。どれもこれも面白いよ」


「くれぐれも危ない真似はしないでね。無茶もダメよ」


「わかっているよ。母さんに心配かける真似はしないし、無茶もしないよ」


 帰宅した後3時間くらいダンジョンの探索、戻って夕食や風呂をすませると自分の部屋でダンジョン研究、たまに大学の勉強をしてから寝ると言う日課を続けている。

 ダンジョン研究とは俺専用の言葉で、ダンジョンで知った異世界、魔法、生命の腕輪などの研究を指している。

 ダンジョン研究で頭が一杯になり、新しい友達を作るどころか、高校時代の友達ともほとんど交流が無くなった。

 現在の探索階は地下38階だ。

  LV48 HP181 MP108


 モグラモンスターを倒しながらマップを埋める作業を繰り返している。気を抜いてはいけないが、モンスターに驚異を感じなくなった。

 日記の人、最近は師匠と呼んでいるが、師匠の資料でも自分のレベルと同じ階層なら一人で探索出来ると書いて有り、地下38階なら十分に余裕が有った。


 5月の連休明けにダンジョン探索の終わりが来る。地下41階が最下層だったらしく、今までのモグラよりずっと大きい奴、ラスボスが現れた。

 爪を繰り出す攻撃は大きさの割に素早い。まともに受けたらたまらないので、槍で受け流す。俺の槍攻撃も、爪で弾かれてしまうので互角と言った所だ。

 これだけ大きな相手なら、命中精度の悪い魔法攻撃でも当たりそうだ。

 防御や槍攻撃の間に火球を打ち出す。モグラモンスターは火に弱いはずなのに、なかなかしぶとい。槍攻撃も決まらないので、持久戦状態だ。魔力切れになる前に、相手が弱るのを祈るばかりだ。

 爪がかすってヒヤリとするが、ダメージはまだ受けていないので俺の方が優勢なはずだ。焦ってもいけないし、集中力を途切れさせても駄目なのだが、MPの減少と共に苦しい状態に追い込まれる。ラスボスがこんなにも強いとは予想外だ。


 火球の効果が出て来たらしく、モンスターの動きが悪くなる。ここまでくればこっちの物だ。槍攻撃も決まり出したので、なんとかラスボスを倒せた。

 モグラを倒すとダンジョンコアが現れたので、最下層で間違い無いだろう。ただし、このコアを取ると、ダンジョンが壊れてしまうのでそのままだ。ダンジョンが壊れたら、研究室も使えなくなってしまう。

 疲れたから今日は帰ろう。



 学食で昼食を取っていると声を掛けられた。


「高橋君、ここに座っても良いですか」


 顔を上げると、優しげな印象ながらも眼差しが知的な女性が微笑んでいる。

 明るい茶色の髪が柔らかくカールしている姿は、ファッション誌で見るように決まっている。長身でスレンダーに見える体型なのに、服を押し上げている胸が凄かった。巷で話題になっているスレンダー巨乳の、美人さんらしい。

 思わず胸に視線が止まってしい、ガン見したら不味いだろうと思ったが上手く誤魔化せなかった。

 確か、1、2度、講義で一緒になっている。


「どうぞ。名前が出て来なくて申し訳ない、どなたでしたか」


 目の前の女性は椅子に座ると、ちょっとすねた可愛らしい表情をする。


「忘れられてショックです。フランス語で一緒になった時、お話ししましたよ。法学部1年生の岩崎菜々美です」


「岩崎さんだったね。フランス語で隣に座ったのを思い出したよ。岩崎さんのような素敵な方を忘れるなんて本当に申し訳ない。機械工学科の高橋圭吾です」


「素敵だなんて、高橋君は相変わらず口が上手いですね」


「本当ですよ。俺って思った事、直ぐに言っちゃうタイプだから」


「高橋君は、話すと面白いですよね。

 でも、女子の間でへんてこなあだ名がついていますよ、知っていますか」


 岩崎さんが面白そうに話している。輝くような笑顔で、クラっとするほど可愛かった。こんなに素敵な人を忘れるなんて、どうかしていたのかも知れない。もしかしてダンジョン研究の弊害だろうか。


「俺にあだ名が?」


 全く身に覚えが無い。


「高橋君は長身でガッシリした体型ですし、イケメンですから人気です。

 でも、授業中は真面目でわき目も振らないし、終わったらさっさと帰ってしまうから“唐変木”と言うあだ名がついています」


「褒められたような、けなされたような。何で唐変木なんですか」


「女子たちが熱い視線を送っているのに、全く気が付かないからでしょうか。

 気の利かない変人って意味らしいですよ」


「う、痛すぎる」


 岩崎さんがクスクスと笑っている。大人っぽいと言うのか、育ちの良さなのか、俺が知っている女子学生とは人種が違うらしい。


「今日はコンパのお誘いに来たのですが、お話を聞いて頂けますか」


「コンパですか」


「そうです、そうです。今年の新入生で親睦を深めようと企画しました」


「ごめん。そういうのはちょっと苦手なんで、断らせてもらうよ」


「えー、もう振られたのですか、早すぎます。

 男性受けが良いからって勧誘役に選ばれたのに役目失格です」


「それは有りません、岩崎さんはとても魅力的です。何ていうかな、上品でさわやかな美しさが有ります。会話も上手で、相手を楽しませるサービス精神も有りますからね」


「ありがとうございます。褒めて頂ける代わりに、コンパに参加して頂けませんか」


「すみません。岩崎さんとのデートならOKですが、コンパは苦手でして」


「サラっと口説いていますか?

 ……仕方ありません、コンパは諦めます。

 もう一つ、お願いが有るのですが、聞いて頂けませんか」


 岩崎さんが、ニヤッと悪そうな顔をしたのでドキッとした。


「何か、悪い事を企んでいますか」


「それは有りません。

 高橋君は、ダンジョンに興味有りますか」


「今世間を騒がせているダンジョンですよね。一応男なので、ファンタジーの冒険には憧れていますよ」


「ちょっと冒険まではいきませんが、ダンジョンで鉱石採集の仕事が有ります。

 実際には荷物運びになりますが、お願いできますか」


 思いがけない提案だった。

 ダンジョンは政府が管理しているので、一般の人間が観光目的や採集をしたくても入れない。これは、他のダンジョンを見る絶好のチャンスだ。


「ダンジョンに入れるんですか」


「父が政府機関の研究員をしています。鉱石採集で私も2回入っています。

 前回の採掘の時、若い研究員が鉱石を持ち逃げしてしまったので、続けて不祥事を起こせないからと、父から信用できる友達を紹介してと言われています」


「わかりました。ぜひ参加させてください。力なら有り余っていますから、荷物運びにぴったりですよ。勿論、持ち逃げなんかしませんから信用出来ます」


 俺の物言いが面白かったのか、岩崎さんが笑っている。やっぱり素敵な女性だ。


「有難う御座います。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 バイトがらみでも、岩崎さんの連絡先をゲットできて嬉しい。出来たら写メを着信に使いたいだが、そこまで図々しいお願いは出来なかった。

 鉱石採集までに、戸籍全部証明と住民票、自動車の免許証が無かったら健康保険証、学生証を用意してほしいと言われた。証明書類が欲しいなんて、やっぱりお役所の仕事だ。



 某大学の研究施設で、岩崎さんのお父さんに会っている。別にお付き合いのお願いでは無く、鉱石採集の事前説明だ。

 岩崎さんのお父さんは大学の教授をしていたが、ダンジョンの発生に伴って、政府機関で鉱石の研究をしているらしい。


「桜沢大学機械工学科1年の高橋圭吾です。よろしくお願いします」


「菜々美の父の岩崎です。

 噂は菜々美から聞いています。とても優秀な学生さんに、鉱石採集の仕事をお願いできて助かります。こちらこそよろしく」


 どんな噂なのか気になる。唐変木の話で無ければいいんだが。

 岩崎父は、一言で言えばナイスミドルだ。もうすぐ50歳になると聞いたが、見た目はもっと若く、目元が岩崎さんと似ていて知的だ。鉱物研究では、日本の第一人者らしい。

 俺が参加する鉱石採集は、岩崎父と、助手の鈴木さん、岩崎菜々美さんを含めた4人グループで指定された区域の作業を行う。作業内容や安全に関する注意事項、当日準備してくる物の話が有った。

 作業前の説明会が5月23日に港区の区役所で行われるので、参加しなければならない。


 説明会の当日区役所のホールに集まった人は、政府関係者20名、自衛隊10名、鉱石採集グループは25グループ100名がいる。思ったより人数が多くて驚いた。

 鉱石採集までの日程が説明された。

 明日の24日、自衛隊の討伐班がモンスターを倒し採集場を安全にする。モンスターは、もう一度現れるまでに数日かかるのでほとんどいなくなる。

 鉱石採集日は、明後日の25日。採集前に、階層全体に自衛隊の戦闘員が配置され、俺達鉱石採集グループの安全を確保する。

 自衛隊が配置についた後、鉱石採集グループが配置につき作業を始める。採集時間は4時間で、時間厳守だ。

 階層の地図が出てきて、グループごとの担当エリアが発表される。作業エリアを間違えないように念を押された。

 驚いたのは防具だ。防弾チョッキと同じケブラーやアラミド繊維などで出来たボディスーツを着て、その上に金属製の鎧もどきの防具を付ける。最後にフルフェイスのヘルメットを被ると、誰だかわからなくなってしまう。

 あまりの重装備だが、俺ん家のダンジョン用に欲しいと思った。


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