28 山梨1号迷宮の探索
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今日は、親父達に新年の挨拶に行く。午後には顔を出すと言ってあるので、そろそろ時間だ。何と言っても、ダンジョンを経由して移転できるから10分もかからない。だったらもっと顔を見せろよと言われそうだが、一応国が違うからと誤魔化していた。
準備が出来た菜々美さんとティナは、日本向けの服に着替えている。ティナが、ミニスカートに戸惑っているらしく、しきりに裾をいじっていた。
まだ15歳なのだから、日本で言えば高校生になる。可愛らしいというか、まだまだ子供らしさを感じてしまうので、本当に嫁と紹介して良いか心配だ。変態、ロリコンと指を差されそうだ。
大使館へ移転して、出入国の手続きを済ます。かっこつけて言っているが、ティナのパスポートを見せて自慢しているだけだ。
日本側のダンジョン入口は塞いだので、移転魔法が使えないと通れなくなった。自衛隊迷宮探索隊300人が移転魔法を習得したタイミングで塞いである。冒険者が入る東京3、4号迷宮は、特別に扉が付いていた。
ダンジョン前公園は、すっかり様変わりしていた。自衛隊の基地の他、病院や研究施設の建設や増設が行われている。ダンジョン入口は建物に覆われてしまって、全く見えなかった。
「ケーゴさん、ティナに街を見せて上げましょうよ。そのまま自宅に移転したら、つまらないと思います」
「そうだね、電車とタクシーで行きましょうか」
東京タワーに上ろうとしたが、あまりの人ごみに挫折した。その後六本木ヒルズを見てから電車に乗る。ティナは、ビルが立ち並ぶ景色や、沢山の人に驚いていた。
ティナが驚き疲れてしまったので、自宅近くの喫茶店でコーヒーを飲みながら休憩している。土地の買い上げが進んでいるらしく、更地になった土地や、壊している途中の家屋が有った。
「高い建物ばかりで驚いてしまいました。見上げるだけで、目が眩みました。
それに人が沢山います。本当に違う世界ですね」
「明日は、スカイツリーに行きましょう。とても高い建物ですよ」
「はい、楽しみにしています」
しばらく休んだ後、歩いて自宅に向かう。来週に引っ越しが有るので、この家に来るのも最後だ。
玄関で、親父と母さんが迎えてくれたので、新年の挨拶をする。一応ティナにも会っているが、8月の晩さん会の時なので、正式に紹介した。
「今度、ノルマンディに嫁に来てくれるクリスティーナです」
「圭吾の父です。よろしくお願いします」
「圭吾の母の瞳と言います。クリスティーナさん、よろしくね」
「クリスティーナと申します。ケーゴ様や、ナナ様には良くして頂いております。
不束者ですか、よろしくお願い致します」
「まあ、とっても可愛らしいのね。圭吾、こんな素敵なお嫁さんが増えて良かったわね」
母の言葉は、喜んでいるのか、それとも嫌みを言っているのか判断がつかない。とりあえず、曖昧に苦笑いするしかなかった。
新年早々に、内山田班長から緊急連絡が入る。隊員が行方不明になったので救助の協力を頼まれた。
場所は山梨1号迷宮、倉岳山だ。近くにゴルフ場やキャンプ場が有るので、山岳部に有る迷宮ながら、陸路が確立している。俺の家から60キロメートルなので、直接移転出来る距離だ。
年末にレベル上げと探索を目的に迷宮探索に入った6人グループが、3日経っても帰って来ない。救助隊を迷宮に送って調査したが最下層のボス部屋が残った。
ボスベアは、探索隊のレベルでは到底太刀打ちできない。確認だけで入るにはリスクが高すぎるので、代わりに調べてほしいと言う依頼だ。
親父に状況を説明して、急いで着替えると、山梨1号迷宮に移転する。ほとんど使っていないが岩崎迷宮探索㈱の出張所が有り、移転魔法陣が設置して有った。
受付で、内山田班長に連絡してもらうと、直ぐにやって来た。
「正月早々申し訳ないな。こっちに来てくれ」
内山田班長はそう言ってティナを見たが、何も言わずに奥に入って行く。付いて行くと、『山梨1号迷宮第3グループ捜索本部 』の看板が有る部屋に入った。
広い部屋だったが、今は誰もいなかった。
「早速来てくれて助かる。ヘリより早いって凄いな。そっちのお嬢ちゃんを紹介してくれないか」
「王国のクリスティーナ王女です。来月ノルマンディへ来てくれるので、両親に挨拶に来ていました。ティナ、この人は迷宮探索隊の内山田班長。いつもお世話になっているんだ」
「クリスティーナと申します。ケーゴ様の第2夫人になります。よろしくお願い致します」
“第2夫人”のインパクトは凄い。ちょっとぼかして紹介したのに、ティナがバラしてしまった。
案の定、内山田班長が驚いていた。
「内山田班長、馬鹿みたいに口を開けてないで、自己紹介してください」
「あ、悪かった。迷宮探索班班長の内山田三佐です。よろしくお願いします」
「内山田班長、昇進したんだ。おめでとうございます」
「ありがとう。それより、第2夫人たあ、どういう訳だ」
「王国と、政治的つながりを強めた結果ですよ。それより救助の話をしましょう」
もっと聞きたそうだったが、救助活動が先だと思い出したらしい。
「状況は、先に連絡した通りだ。ここは、地下37階につながっている迷宮で、外は森林だ。迷宮内で見つからず、外に出た形跡もない。後残るはボス部屋って訳だ。
俺達じゃ、ボス部屋に入ったらただじゃすまないからな。一緒に入ってほしい」
「今更ボス部屋に入っても、何も残っていませんよ。
勝ったら出てきますから、負けた可能性が高いですね。死体や装備は迷宮に飲み込まれています。まだ戦っている最中なら、入れませんよ」
「それだけでも確かめたいんだ。万が一戦っていれば、終わるのを待ってやれる。せめて死体だけでも持って帰ってやりたい」
「わかりました。私と、菜々美さんと内山田班長の3人で良いですね」
「あのお嬢ちゃんは良いのか」
「ティナには、ボス部屋は無理ですから」
「わかった」
急いで着替えて準備し、内山田班長をパーティに追加する。
「ティナ、悪いがここで待っていてくれ」
「わかりました。ケーゴ様、ナナ様、気を付けて行って来て下さい」
ティナに送られてダンジョン移転し、ボス部屋に向かって進む。俺が先頭、内山田班長が真中、菜々美さんが最後だ。
地図が有るので、2時間くらいで到着する。迷宮探索隊がモンスターを倒しているので、一度も遭遇しなかった。
「ここがボス部屋ですか、扉が普通の色ですね。戦闘は終わっていますね」
「わかった、中に入ってくれ」
中に入ると、3匹のイタチのモンスターがいた。真中が一番大きいので、ボスらしい。周りには何もなく、探索隊のメンバーが戦った形跡は見当たらなかった。
「とりあえずボスを倒します。菜々美さんは魔法での支援と、班長の護衛をして下さい。班長はくれぐれも前に出ないで下さい」
槍を持って前に出ると、3匹のモンスターが散会する。ボスと右の奴が俺を左右から挟んで来た。もう一匹は菜々美さん達に向かう。俺達にとっては理想の展開だ。
まず、右の奴を相手にする。ボス以外は弱いので、俺と菜々美さんが一匹ずつ倒すのにそれほど時間はかからなかった。
ボスの正面に立って槍を構える。後ろでは菜々美さんが火球の準備だ。
動物系のモンスターは魔法に対する抵抗力が強いが、比較的火球に弱い。無いよりもマシと言った程度だが、動きの素早いイタチモンスターの牽制出来る。
俺とモンスターの戦いは、ほとんど互角だったが、菜々美さんの火球の分だけこちらが有利だ。時間が経つに従って、モンスターの動きが悪くなっている。俺も何度か攻撃をくらっているが、かすり傷程度だ。
最後は槍で止めを刺し、モンスターは煙になって消える。なかなかしんどい戦いだった。
「本当に凄い戦いだな。早くて動きが見えなかった。高橋君ありがとう」
床に吸い込まれる前に、ボスのドロップアイテムを回収する。光っている床には何も残らないので、壁や、床から出ている岩を見て回り探索隊の形跡を探った。
調査の結果、岩の影に稲葉三尉の階級章とペンが見つかった。




