03 レベル上げ
親父は自動車メーカーに勤めていて米国工場に単身赴任で出向していたが、3年間の任期が終了し帰国が決まった。
母さんは片付けの手伝いと称して親父の所に遊びに行っている。そんな理由で両親が居なかったが、2人そろって元気で帰って来た。
親父は高橋良介46歳、自動車メーカーの課長で生産管理の仕事をしている。母さんは高橋瞳42歳、専業主婦だ。
久しぶりに家族そろっての夕食で、母さんが面白そうに旅行の話をしている。旅行じゃなくて片付けの手伝いだろうと突っ込みたい。
食事もひと段落したので、そろそろダンジョンの話を持ち出してもいいだろう。
「親父、日本にダンジョンが出現した話、聞いているかな」
「ああ、あっちでも凄いニュースになっていたな」
「どんなニュースだった?」
「巨大なネズミ、モンスターが出るらしいじゃないか。東京や富士山に有ると聞いた。圭吾は見に行ったのか」
「外には見に行ってないよ」
「そうか、モンスターが出て危ないからな」
「実は、ダンジョンについてなんだけど」
「何か新しいニュースでも有るのか」
「うん。どうも家の物置にダンジョンが有るんだ」
「な、何だ、それは」
親父は驚いたのか、大きな声を出して聞き返してきた。
慌てる2人を落ち着かせて、今までの経緯を説明する。先月のダンジョン発見、生命の腕輪、魔法についても正直に打ち明けた。
「その腕にはめているのが生命の腕輪か」
「そうだよ」
「外れないのか」
「駄目みたいだ。ピッタリ締まって動かない」
「圭吾、体は大丈夫なの」
母さんが、思わず聞いてくる。いつもは、親父と話し中に割り込んだりしないが、心配で思わず聞いたのだろう。
「母さん、大丈夫だよ。体に害は無いよ。ただ、ちょっと魔法が使えるだけだよ」
「魔法が使えるのはちょっとの話じゃ無いぞ。
それでも、困ったな。このまま警察に知らせても、良くて見世物、悪くすればモルモットにされかねないぞ」
親父の考えを聞いて青くなった。
言われて見ればその通りだ。好奇心に負けて、取り返しがつかない失敗をした。
「圭吾をモルモットになんかさせませんよ」
「私もそんなつもりは無い。
しかし、どうした物かな……
しばらく黙っていて様子を見るか……
圭吾と同じようなケースがニュースになれば良いが……
うーん、しばらくは、ダンジョン、圭吾の腕輪、秘密にするしか無いだろうな」
親父は一言々考えながら、ダンジョンを秘密にすると決めた。
俺と母さんは、強く頷いた。
親父達に話してすっかり気持ちが軽くなった。
何かあったら相談すれば良い。いざとなったら親父がいる。当たり前だけど、それがわかって安心した。
それでも、まだダンジョンの探索を諦めたくない。どう説得しようか。
親父に意見を聞いたら、無理しなければ入って良いと言うので、思わず「いいの?」って聞き返してしまった。
親父は苦笑いしながら「今更だ」と言った。
毎日2時間探索しているが、地下4階で足踏み状態だ。
この階のモンスターが手強いので、簡単に倒せるまで暫く修行している。怪我でもして、ダンジョン探索が禁止になったら大変だ。
次のレベルアップまで、8日かかった。
LV7 HP25 MP12
学校では、文化祭に向けて盛り上がっていた。
陸上部の俺は特に参加する予定は無かったが、入場ゲートの復旧に参加している。季節外れの台風で入場ゲートが壊れてしまい、復旧に陸上部の余っているメンバーが駆り出された。
夕方の参加は魔力切れできついので、朝早く起きて作業している。調子の良い朝なら、何でも来いって感じで頑張った。
入場ゲートの完成に、生徒会長が喜んでいた。彼女は、ストレートの長い髪と、意志の強そうな目が印象的な美人さんだ。とても感謝され、お礼を言われたので頑張った甲斐が有った。
それ以外は、受験を控えた高校3年生とは思えないほど毎日ダンジョンに入っている。授業をサボってないし、勉強だってしっかりやっている。1学期の成績は良かったので両親から何も言われなかった。
魔力切れの状態でこんなに頑張れるなんて、俺ってやれば出来る子だった。
夏休みに入った頃にLV12になった。
最近、日常生活に問題が出始めている。レベルが上がるにつれて力が強くなっているので、ジャンプ力がアップし、短距離走のタイムが伸びた。
タイムが伸びるのは朝練だけで、昼頃にMPが切れて、放課後の練習は悲惨になる。かなりちぐはぐな感じなので、陸上部の仲間から変に注目されたが、急いで部活を辞めたのでセーフだろう。
MPが有る時の力は2倍、速さは1割増しだった。
最初のレベル LV5 HP18 MP9
現在のレベル LV12 HP45 MP22
地下5階のモンスターを簡単に倒せるようになり、地下6階に進んだ。
余裕を取り過ぎたらしく、それからは順調に進み、地下10階、LV14に上がった。
今度は、地下11階へ降りる階段が見つからなくて足止めを食らっている。マップには進めそうな所は無いのに、階段を見付けられなかった。
少し不満ながらも、地下10階でレベル上げを続ける。
俺がレベル上げをしている間に、港区のダンジョンでセンセーショナルな事件が起きた。
『迷宮調査隊、異世界人と遭遇』
『異世界人と戦闘、自衛隊員7名死傷』
9月3日11時頃、港区のダンジョン内で、調査中の自衛隊チームが異世界人と遭遇し、偶発的な戦闘が発生する。
自衛隊のチームは16人で、戦闘員12名、研究員4名で構成され、マシンガンと対物ライフルを装備していた。
対して異世界人は5人で、剣と弓、盾を装備していた。
自衛隊の方が人数は多かったが被害は甚大で、3人死亡、4人重傷だ。それでも、異世界人を撃退出来たので、重傷者や遺体の回収を行えた。同時に、異世界人の死体と、剣1本、盾1個を回収している。
港区のダンジョンは他に比べて調査が進んでいるので、日本とつながっている階層のマッピングは終了し、上下の階層につながる階段も発見されている。今回異世界人と遭遇した場所は、上の階に上がってすぐの所だった。
俺の家でも異世界人と遭遇した話が取り上げられた。
親父と母さんがダンジョンの危険性を問い質してくる。
「圭吾、ダンジョンはモンスター以外に異世界人の脅威も有るのか」
「別の世界とつながっているから異世界人が来てもおかしくないよ」
「物置のダンジョンは安全なの」、母が心配そうに聞いて来る。
「他のダンジョンは知らないけど、ここは秘境のダンジョンだから異世界人は来ないよ。地下1階でも今まで遭遇していない。
それに、もし来たとしても地下32階だから簡単に来られないよ」
「そうは言っても危険が有るでしょう」
「母さん大丈夫だよ。無茶はしていないし、ケガもしてないだろう。少しずつレベルを上げて、ダンジョン内を調べている。上手くいけば生命の腕輪について新しい発見が有るかもしれない」
自分でも苦し紛れのいい訳だと感じている。両親の顔を見ても、到底納得していなかった。
「圭吾は、これからもダンジョンに入りたいのか」
「今は止められないかな。生命の腕輪について何とか情報を掴まないとね。
もし危険が有れば、ちゃんと止めるよ」
「圭吾の方が良くわかっているだろう。これ以上は言わないが、気を付けるんだぞ。しっかり判断して、自分やこの家、それに母さんの安全も考えてくれよ」
「他のダンジョンの情報も合わせて慎重に行動するよ。危険を感じたら、親父に報告する」
「そうしてくれ。くれぐれも無茶はするなよ」
何とか親父たちに納得してもらい、ダンジョン探索を続けられる。少し調子に乗っていたので、気を引き締めなければならない。
警戒しながらも探索を続け地下11階へ降りる階段を探しているが、一向に見つからない。数えきれないほど10階を回っているが、新しいルートを発見出来なかった。
壁や天井の調査を始めた。もしかしたら隠し扉か、秘密の通路が存在しているかもしれない。
何日か捜査を続けていると、ついに隠し部屋を発見した。
そこは、他の壁と微妙に色が違っていて、通り抜けることが出来る。物置とつながっている壁と同じ色合いだったのに、なぜ今まで気付かなかったのか。自分の馬鹿さ加減に呆れてしまった。
部屋に入ると、部屋の中央にモンスターが居た。
モンスター LV11 HP43 MP14
モンスターを難なく倒すと、後ろに階段が現れた。
「おお、これってボス部屋だったのか」
ついにやったという達成感に、おもわず声が出てしまった。
2ヶ月近くも地下10階をうろうろしていれば嫌気もさしてくる。本気で困っても、ヘルプや攻略本は無いのでとても辛かった。
レベル20 HP77 MP38