25 王女との結婚は避けられないらしい
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晩さん会は楽しくそれなりの盛り上がりを見せている。紋付袴と着物姿の親父達は、マリエッタさん達から喝采を浴びていた。
クリスティーナ王女がいる一角が、微妙に暗い感じで参った。婚姻の話を受けはしたが、晩さん会での発表を見送ったのが原因だろう。
クリスティーナ王女の執事とお付きの婦人は納得出来ない顔をしていたが、今日は親父達を歓迎する晩さん会だ。急に来た貴方達を迎える会では無いと断ったのがいけないらしい。
どんな話でも一度こじれると元に戻すのは大変だ。正直それで国王が機嫌を損ねるのであれば、婚姻話を断れば良いだけだ。
「圭吾、とても楽しい晩さん会で、お母さんとても嬉しいわ。
想像以上に立派なので、驚いてしまったの。本当にありがとう」
「母さん水臭いな、お礼なんていいよ。
それに、ほとんど成り行きで、俺が立派なわけじゃないさ。菜々美さんや、マリエッタさん、モーリスさんが手伝ってくれているおかげさ。
本当に良い人達に恵まれている」
「まあ、圭吾ったらすっかり大人の発言ね。親として鼻が高いわ」
「母さんに認めてもらって嬉しいよ。
これからは、少しは親孝行するからね」
「期待しないで待ってるわ」
大人しいと思っていた母が、今日はとても陽気だった。俺と話した後も、親父や、岩崎夫婦、マリエッタさんとも話をしている。思った以上に楽しんでくれて嬉しかった。
次の日、女性陣は買い物に出かけて、屋敷に残っているのは親父と岩崎教授だ。丁度良いタイミングだと思い、クリスティーナ王女の件を相談した。
「相談と言っても、こちらの様子がわからないからな」
案の定、親父はあてにならなかった。親父は、この手の話は俺と一緒で苦手で、他人事だと思ってあまり真剣に聞いていない。ここは、岩崎教授に期待するしかなかった。
「難しい話ですね。日本の常識にとらわれている圭吾君や菜々美では、今後も苦しむでしょう。
解決策は2つ有ります。
1つは、領主を辞めて日本に帰る。簡単ですが、出来ませんね。
もう1つは、日本の常識を捨てて、王国の習慣になじむ。頭で理解するだけでは解決出来ませんから、王国人に成り切りましょう」
日本人なのか、ノルマンディ領の人間か、確かに中途半端な気はしている。
「逃げ出せないから、王国人に成らなければダメですね。
何か上手い手は有りませんか。こう、簡単に王国人に成れる方法とか」
「圭吾君も面白い事を言いますね。人間、そんなに簡単に変われませんよ」
「ええ、変われないからダメなんですよね」
「そうですね、簡単には変われません。しかし、変わったふりは出来ます。
菜々美とマリエッタさんを交えて、日本と王国を比べて違いをはっきりさせたらどうでしょうか。
その上で、日本でのルールと、王国でのルールを明確にする。
行き来する時、はっきりそれを意識するだけで、王国人らしく出来るかもしれません。急には変われませんが、形から入るのも良い方法ですよ」
「ありがとうございます。さっそく実行してみます」
親父達の観光旅行も無事終了し、日本に送って行った。
迷宮探索隊基地で内山田班長と会い、親父達のレベルが高いので羨ましがっている。もっと頑張って下さいと声を掛けておいた。
レベルと言えば、クリスティーナ王女はどれくらいだろうか。
「菜々美さん、クリスティーナ王女のレベルってどれ位か知っていますか」
「確か、お母さんと同じくらいでしたよ」
「それって、俺と差が有り過ぎますよね。王国の常識からすれば、結婚を断る理由に出来ませんか」
「それについてはマリエッタさんに聞かないとわかりません。圭吾さんとエッチ出来ないのはわかりますけど」
「えっと、菜々美さんの言い方に棘が有ります。やっぱり結婚はやめましょう」
「ごめんなさい。クリスティーナ王女の結婚について理解していますが、圭吾さんが他の女性を抱くと思うと我慢できなくて」
「やはり、無理が有るんですよ。結婚前ですから、中止しましょう。レベル差が正当な理由なら、クリスティーナ王女は責められないでしょう」
「そうね。とりあえず、マリエッタさんに聞きましょうか」
クリスティーナ王女との結婚を中止出来そうなので、急いでマリエッタさんに会いに行った。
「レベル差による結婚の問題ですか。
確かに、一般の方が結婚される場合注意が必要で、時には破談になることも有ります。ですが、貴族の結婚では問題になりません。
貴族のご令嬢や、王家の姫様達は、騎士に近い高さまでレベルを上げています。
レベル差で結婚出来ないと言われる方が問題になるでしょう」
何だか藪蛇だった。
「クリスティーナ王女が子供を産まなかったら何か言われますか」
「ケーゴ様とクリスティーナ王女の間にお子さんが生まれて、両家の絆が出来たと認められます。
もし子供を産めなかった場合、クリスティーナ王女様の立場は微妙になります」
聞かなきゃ良かった。クリスティーナ王女のレベル上げまで手伝わなければならない。
「圭吾さん諦めましょう。クリスティーナ王女をバンバン孕ませちゃって下さい」
「うあー、それって女の人が言って良い台詞じゃ有りませんよ。
自棄にならないで下さい」
「そんなつもりじゃ有りません。開き直ったらどうですかという気持ちです。
圭吾さんはクリスティーナさんが気に入らないのですか」
さっきの言葉からは、もっと黒いオーラを感じた。菜々美さんでもそんな時が有るんだと思い驚いてしまう。ひそかに菜々美さんを怒らせたら危ないと、心にメモった。
「気に入らないかと聞かれると言葉に困るな。
間違い無く美少女だよ。性格も良さそうだしね。
例えるなら、テレビに出ているアイドルみたいなもんだよ。見ている分には問題無いけど、王国の王女なんて実際に関わったら面倒なだけだろう」
「でも、抱いてみたいと思わないの」
菜々美さんが一歩踏み込んだ質問をしてくる。
クリスティーナはドレスで誤魔化しているけど、胸は小さいし、ウエストのくびれもいまいちだ。正直、魅力を感じなかった。
「どうだろう、ちょっと無理かな。タイプじゃないんだよね。
可愛いけど、まだ子供だよ。菜々美さんと比べちゃ悪いけど、幼児体型でセクシーさが無いだろ」
「圭吾さん、それは言い過ぎよ。ちょっと嬉しいけど」
日本向けの研究施設、大使館及び宿泊施設、倉庫が完成した。全体を3メートルの塀で囲っているので、防御は万全にしている。日本側から直接移転出来るように、ダンジョン魔法陣の部屋も準備した。
日本人だけでは何かと不便なので、執事、料理人、メイドを30人程雇っている。隣の領主館の迷宮支所から通う予定だ。
日本向けの施設を先行させたので、領主館の迷宮支所は完成していないが、あと1か月もかからないだろう。完成すれば、職業選択及びスキル取得、ダンジョン移転魔法取得、収納魔法取得の魔道具が稼働出来る。
早速、山下副指令に報告する為に、第1迷宮探索隊基地に向かった。
第1迷宮探索隊基地は、探索隊指令本部に名前が変わっている。それ以外に、迷宮記念病院、迷宮開発研究所の建設が始まっていた。
「山下副指令、ご無沙汰しています」
「こちらこそ、高橋君には色々お世話になっています。
ここも日々変わって行くので、ちょっと見ないと別の所に来た感じがすると思います」
「そうですね。病院や研究所を造るって聞いて驚きました」
「これも、高橋君のお陰です。送ってくれる回復薬の需要が凄い事になっています。
上級の回復薬、万能薬の併用ならほとんどのガンを直せますが、魔力の無い所では効果が発揮されません。ですからここに病院や研究所が必要なのです」
「そうでしたか、皆さんのお役に立てて良かったです。
私も、山下副指令に報告が有ります」
「何でしょう、時期的に言って、あちらの拠点が完成したのでしょうか」
「はい、研究施設、宿泊施設、倉庫、全て完成しました」
「それはありがとうございます。早速、上に報告します」
「お願いします。土地建物の引き渡し及び権利書はあちらでお渡ししますので、その旨もお伝えください」
「わかりました。多分明日出来ると思います。決まりましたらご連絡します」
「明日とは早いですね。お役所の仕事だから、もっと時間がかると思っていました」
「皆さん、首を長くして待っておられます」
「お手柔らかにお願いします」




