24 クリスティーナ王女
新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
冒頭に、クリスティーナ王女の髪の色、瞳の色を追加しました。
待つほども無く、クリスティーナ王女が入って来た。間違いなく美少女だが聞いていた15歳と言う年齢より幼い感じがする。王家の血筋を思わせる美しい金髪をしていて、ブラウンの瞳が俺を真っすぐ見据えている。彼女が結婚の相手だとすれば、質の悪い悪い冗談だ。
王女は、執事っぽい男性と、年配の婦人を伴っていた。
「ノルマンディ子爵様、ナナ様、王都では色々お気遣い頂き、とても感謝しております。本日は、国王の名代として、お礼に伺いました。
お礼の品を持って来ましたので、お納めください」
執事っぽい人が、剣らしい物を持って来た。直接俺に出す訳では無く、モーリスさんが受け取る。中身や、箱に危険な物が無いか確かめるのもモーリスさんの仕事だ。
「王家に伝わる、騎士の剣にございます。
また、国王から手紙を預かっておりますので、ご覧いただきたく存じます」
なんだがすぐに読まなければならないらしい。ちらっと、フランス語だったらどうしようと思ったが、普通に日本語だった。
内容は、先ほどのマリエッタさんの話通りだ。
「これを、ナナに見せても良いですか」
「ノルマンディ子爵様にお渡しした後は、ご自由になさって構いません」
後ろの執事が何か言いたげだったが、クリスティーナ王女が遮った。
手紙を菜々美さんに渡した。
手紙の内容は、魔道馬車のお礼、先日の献上品のお礼、その返礼品の騎士の剣について、そしてクリスティーナを第1夫人として婚姻を結びたい旨が書かれている。 菜々美さんは読み終えた手紙を俺に返してきたが、平静を保っていた。
「王女は、この手紙の内容をご存知ですか」
「はい、お礼の他、わたくしとの婚姻の件と聞いています」
「それでは、この手紙の内容が、私やナナを不愉快にさせるとは思わなかったのですか」
俺の言葉に、クリスティーナ王女の後ろに控える執事と婦人が何か言おうとする。 先ほどと同じく、クリスティーナ王女が止めたので、大人しく元の位置に戻った。たぶん、王女を侮辱されたと感じたのだろう。
「先に結婚されているナナ様を差し置いて、第1夫人の地位を要求しているのですから、お怒りもご尤もです。
私本人は、何も気にしておりませんが、王家の威信と言う、目に見えない力が働いています」
なんだが話の争点がずれている。王国の人は、一夫多妻に違和感が無いらしい。
「クリスティーナ王女には申し訳ないが、お断りします」
クリスティーナ王女が目を見開いて驚いている。俺が断るとは思わなかったのだろうか。
「お待ちください。先ほどからの無礼、これ以上王家や姫様を侮辱なされるなどただでは済みませぬぞ」
執事の人が怒り出してしまった。先に喧嘩を仕掛けたのはあんた達だろうと言いたい。
「あなたと話しているのでは無い。クリスティーナ王女、礼を言いに来て喧嘩をするなど、どういったつもりですか」
どうせ断るのだからと、強い姿勢で問い質した。
俺の言葉に、執事は言葉を詰まらせている。礼に来たのを忘れていたらしい。
「申し訳ありません。諍いを起こすつもりなど、全くありませんのでご容赦下さい」
クリスティーナ王女が詫びて来た。
「婚姻の話など、お礼のついでに話す内容とも思えません。
礼儀がなっていないのは、貴方達です」
ちょっと言いすぎたかもしれない、クリスティーナ王女が青くなっている。
「ノルマンディ子爵様のおっしゃる通りです。ご無礼をお許しください。
婚礼の話は撤回いたしまので、重ねてお詫び申し上げます」
「姫様、それでは姫様があんまりです」
後ろに控えていた婦人が取り乱している。何か事情が有るのだろうか。
「ケーゴ様、少しよろしいでしょうか」
マリエッタさんが見かねてヘルプをしてくれる。俺は、マリエッタさんに頷いた。
「王女様がこの件を撤回すれば、王女様が国王様に断らなければなりません。
ケーゴ様に迷惑をかけず、王家の面目も保てます。
ただし、王女様は国王様の命令に背く訳ですから、それなりの罰を受けるでしょう。
良くて継承権を剥奪して幽閉、悪ければ王家からの追放となります。
その辺りをご配慮いただきたいと思います」
うわー、やらかす所だった。マリエッタさんがいないと交渉一つ出来無いらしい。
「そうとは知らず、失礼しました。
このような手紙を送って来た国王に怒っているだけで、クリスティーナ王女に怒っているのでは有りません。
国王には私から手紙を書きましょう。私は、王家の面目などに興味はありませんから。行き違いが有りましたが、皆さんは晩さん会を楽しんでいってください」
楽しめないだろうなと思いながら、謁見を終了した。
「マリエッタさん有難うございました。とんだ失敗をして、王女を苦しませてしまう所でした」
「事前に説明しなかった私の落ち度です。申し訳ありませんでした。
あともう一つ付け加えさせて下さい。先ほどのやり取りですと、クリスティーナ王女には結婚以外の選択肢が無いかも知れません」
「それって、国王にケーゴ様を落とせって言われているのですか」
菜々美さんが物騒な事を言っている。王女様ってキャバ譲だったの。
「そうでは有りません。15歳の王女ですから、嫁ぎ先は決まっていたはずです。
いくら王家とはいえ、急に破談にしたのですから無理もしたでしょう。破談にしてまで進めたケーゴ様との婚姻は、決して失敗出来ないはずです。
もしケーゴ様が断れば原因を王女に押し付けますから、継承権の剥奪や、王家から追放となるでしょう」
「それって、王女が可哀想なら結婚しろって言ってますか」
「そうなりますね」
「そんな馬鹿な。いくら王女が可哀想でも、俺は菜々美さんを選ぶよ。
まして、菜々美さんが第2夫人だなんて冗談じゃない」
「第2夫人の件は交渉出来ると思います。わざわざ手紙に書いていますから、王国としても譲歩する気が有るのでしょう」
「そんな交渉、どうでも良いけどね」
「ケーゴさん、クリスティーナ王女と結婚してくれませんか」
マリエッタさんと話していると、菜々美さんが訳の分からない発言をした。
「えっと、菜々美さん何言っているんですか」
「だって、クリスティーナさんが可哀想です。彼女、とっても良い子ですよ」
「俺だって、彼女が悪い子だなんて思っていない。でも、同情だけで結婚なんか出来ないだろう。菜々美さんと幸せな家庭を作りたいんだ」
「ケーゴさん、ありがとうございます。
でも、住む所が違えば、それに合わせる必要も有ると思います。今回の場合、悪意で動いている人は誰もいません。
ただ、風俗習慣の違いで行き違いが生じただけだと思います。
クリスティーナ王女を迎えて王家との絆が出来れば、ノルマンディ領の発展につながります。ケーゴさんを独占出来なくて寂しいですが、彼女となら上手くやれるかもしれません。ぜひ、引き受けてください。
後、私の名前はナナですからね」
菜々美さんが、泣き笑いの顔で言ってくれた。なんで菜々美さんが我慢しなくちゃいけないのか腹が立ってしまう。
「ケーゴ様、ナナ様の提案を受け入れてはどうでしょうか。今回結婚を取りやめても、第2、第3夫人の話は何度も出てきます。ノルマンディ領の発展を見れば、周りの領主が黙っていませんからね。
逆に、王女を迎えれば、縁談の話は少なくなりますよ」
少なくなるだけで、無くならないのね。菜々美さんが良いなら、もうどっちでもいい気がしてきた。
「クリスティーナ王女と、話して来ても良いですか。
ケーゴさんは、彼女と結婚してくれますよね」
「わかりました。ナナに任せます。ただし、第1夫人はナナですからね。それだけは譲れません」
「ありがとうございます。それも伝えてきます」
菜々美さんが、クリスティーナ王女の控室へと向かった。
ノルマンディの領主は大変だがやり甲斐が有った。マリエッタさん達と街を良くして行くのも楽しい。まさか、貴族になって後悔するとは思わなかった。




