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22 進路指導は不要です

いつも読んでいただき、ありがとうございます。今年中にもう一話お届けしたいと思います。

 王様との謁見を無事に済ませ、名実ともにノルマンディの領主になった。

 領地運営や迷宮前の開発は始まっているが、全てマリエッタさんに丸投げだ。彼女はとても優秀で、部下達を上手く使っている。モーリスさんも、マリエッタさんの働きには感心していて「仕事が出来て、気遣いも出来る。若いのに大したものだ」と言っていた。


 岩崎教授や山下副指令と会うために、しばらく留守にすると告げて、日本に戻る。 第1迷宮探索基地では、内山田班長が待ち構えていた。そういえば、しばらくレベル検証をしていなかった。


「圭吾君、お帰り。首を長くして待っていたよ。レベル検証をしてくれないか、いつが良いかな」


 内山田班長の気迫に押されて「明日はどうですか」と言ってしまった。


「そうしてくれると助かるよ。じゃあ、明日よろしく」


 そう言いながら、どこかへ行ってしまった。「ノルマンディ領の報告が……」と言ったが間に合わなかった。

 山下副指令と、岩崎教授に連絡を取る。2人とも急いで来てくれたので、ノルマンディ領の報告会を開いた。


1.無事にノルマンディ領の領主になった。


2.迷宮前に、研究施設、宿泊施設、倉庫の建設が始まった。


3.オフロード車が好評で、継続して生産、販売したい。


「高橋君、ご苦労様。まさか、こんなに早く実現するとは思いませんでした。本当にありがとうございます。

 王国からの輸入を主体に考えていたのですが、オフロード車のように輸出品が有れば素晴らしいです。早速、報告しておきます」


 山下副指令の話に、一同が頷いた。


「岩崎教授から何かありますか」


「そうですね、本格的に交易が始まる前に為替レートと税金について決めておくべきでしょう。前回、人件費を参考に金貨1枚を10万円に設定していますが、金貨と金が等価交換とすれば金貨1枚は約2万円です。このままではまずいでしょうね」


「わかりました。専門家に検討をお願いしましょう。

 他には有りませんか。

 無いようでしたら、終わりたいと思います。ご参加ありがとうございました」


 その後、岩崎教授と3人で今後の方針を話し合った。


「本当にご苦労様でした。菜々美もよく頑張ってくれてありがとう。

 これほど早く領有出来るとは思って無かったからね。研究施設や宿泊施設の完成予定はどうでしょう」


「4か月で造ると言っていました」


「そちらも早く進んでいますね。この調子だと、年内に交易が始まりますね」


「自衛隊のレベルアップが進んでいないので、建物が出来ても無理だと思います。

 明日、レベル検証を行いますが、急に上がるとは思えません」


「そうですか、そちらの問題が有りましたね。レベル上げの効率化に、何か方法は有りませんか」


「倒しているモンスターに比べて、レベルの上りが低く感じられます。

 俺の場合は特別ですが、現地の兵士に比べても低いです。ギルドで職業に付けばスキルが得られますし、パーティを組めばもっと良くなるかも知れません」


「自衛隊の人達を、街まで連れて行ったら不味いでしょうね」


「迷宮前の拠点に、領主館の出張所を造っています。そこに、ダンジョン移転魔法の習得、収納魔法の習得が出来る魔道具を置く予定ですから、職業が選択できる魔道具の設置も進めてみます」


「それは素晴らしい、ぜひそうしましょう」


「オフロード車の生産はどうなっていますか」


「車体の生産は問題有りませんよ。月産10台なので、ほとんど手作りになります。

 それよりも、迷宮周辺の魔力が有る場所が取り合いで、走行テストをする場所が無くなって困っていますね」


「迷宮の利用ですか」


「回復薬の臨床実験所が、第1迷宮探索基地に出来ています。回復薬は、魔力が無い場所では効果が無いですからね。

 他の迷宮も開発計画が進んでいるので、利用が難しくなっています」


「原動機を載せる作業と試運転は王国でやりましょう。原動機の改良にも手を付けていますからちょうど良いかもしれません」


「良い考えですね、お願いします」


「やってみます」


「お父様、私もお話が有るのですがよろしいでしょうか」


「何ですか」


「大学ですが、通えそうに有りません、どうしたら良いでしょうか」


 俺も少し気になっていたので岩崎教授の意見を聞きたい。


「ここまで来てしまうと、大学に通うのは無理でしょうね。退学の他に、休学にする手もあります。もし、君たちが行きたいと言えば反対しません。

 私の意見を言わせてもらえは、仕事が決まった以上大学に行く必要はないでしょう。大学の本質は、将来を考え、就職の準備をする場所です。領主と言う仕事に着いたのだから、それを優先すべきですね。

 本来ならもっとゆっくり学ばせてあげたかったのですが、領主をお願いした私にも責任が有ります。

 2人には本当に申し訳ないと思っています。君達の進路ですから、2人で話し合って決めて下さい」


 そうだよな、異世界の領主だろうと立派な仕事だから、教授の話は尤もだと思う。



 2人で話し合った結果、退学を選んだ。領主が上手くいかなかったら、もう一度大学に入ると言う方法もある。今は、領主に専念する時だ。

 順番が逆になってしまったが、区役所に婚姻届けを出す。披露宴をする時間が無いので、菜々美さんのウエディングドレス姿を見られないのが残念だ。


 ついでと言ったら内山田班長に怒られてしまうが、第4回迷宮探索隊レベル検証を行う。結果は、ほとんど変化無しだった。



 菜々美さんと入籍したので、両家族合わせての食事会をする。菜々美さんの弟の正樹君や、妹の由紀ちゃんには会っているが、お母さんとは初めて会うのでドキドキだ。

 弟の正樹君は高校3年生で、大学受験を控えている。最近の草食系男子といった感じだが、教授に似て優秀だ。

 妹の由紀ちゃんは中学3年生。菜々美さんとよく似た美少女で、読者モデルをしている。お姉さん大好きで、同じ読者モデルになったらしい。唯一俺達の結婚を「まだ早すぎる。もっとお姉ちゃんと一緒にいたい」と言って反対していた。

 菜々美さんのお母さんは総合病院の理事をしている。実質的な理事長で、バリバリのキャリアウーマンと聞いているので怖そうなイメージだった。

 始めて見る彼女のお母さんは、お姉さんと言っても通じるほど若々しい。確か47歳と聞いていたが、とてもそうは見えなかった。


「圭吾君、初めまして。いつも菜々美がお世話になっています。我儘な娘で申し訳ないけれど、よろしくお願いしますね」


「ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。高橋圭吾と申します。よろしくお願いします」


「私が忙しいから時間が取れなかったのですから、圭吾君は悪く無いですよ。

 前からとても会いたかったの。やっと会えて嬉しいわ」


 親父達は、何度も会っているので、会話が弾んでいる。話題の中心は、異世界運営の話だ。


「私達も、一度王国に行きたいですね。

 圭吾がどんな顔して領主をやっているか見てみたいわ」


「圭吾君なら、立派に領主が出来ますよ。山下副指令や、迷宮探索隊の方々とのやり取りを上手にこなしています。

 一人前の青年実業家ですよ」


 母さんの言葉に、岩崎教授が俺を褒めてくれる。何だが居心地が悪くて仕方なかった。


「私も行って見たいわ。圭吾君や菜々美の暮らしぶりも心配ですから」


「そうですね、皆さん一緒に行きませんか。圭吾、何とかならないか」


「親父。とんでもない話を出さないでくれよ。

 生命の腕輪を付けないとダメなんだ。用意出来るけど、外せないよ」


「付けたからと言って体に害は無いんだろう。お前達の暮らしぶりが見られるのなら、腕輪くらい付けてやろうじゃないか」


「いや、親父、喧嘩に行くんじゃ無いからね」


「私だってつけますよ。圭吾の住む所が見たいわ」


「私も賛成します。生命の腕輪、綺麗ですもの。そんなに悪事は働いていませんから大丈夫ですよ。あなたも一緒に行きましょうよ」


「そうですね、菜々美や圭吾君の活躍を見るのも楽しいでしょうね」


 岩崎教授まで乗り気になっている。このままの流れでは、異世界観光の準備をしなくてはならない。


「教授、本気ですか」


「山下副指令と話してみますよ。政府から反対が出るとは思いません。

 ですが、王国側で拒否すれば行けませんね」


 岩崎教授らしからぬジョークを言っている。王国側で拒否するって、領主の俺が拒否しなければ行けるって言っていた。俺に断るなとサインを送っているのかも知れない。

 話がまとまった所で、由紀ちゃんが手を上げた。


「私も行きたいです。お姉ちゃんが住んでいる所を見に行きたいです。

 私も連れて行って下さい」


 由紀ちゃんは、訴えるように俺の顔を見ている。どうしたら良いかわからず、教授と響子さんの方を見た。


「由紀も行きたいのね。私は賛成ですよ」


「そうですね、一緒に行きましょう。正樹はどうしますか」


「僕は、勉強が有るから遠慮します。大学に入ってから考えます」


「圭吾君、申し訳ないけれど由紀の分もお願いします」


「わかりました」


 異世界旅行は決定した。

 両親達には、魔力切れの辛さを味わってもらおう。親父が我慢している姿を思うと、ちょっと楽しみになった。

 生命の腕輪の手配とレベル上げも有る。菜々美さんが初めて行った時はLV20だったはずだ。


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