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21 謁見と晩さん会

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

 新学期に間に合わないと焦り出した頃に、国務大臣から謁見の知らせが来た。

 謁見は、4月4日の、午後2時から行われ、夕方の晩さん会に夫婦で参加しなければならない。ダンスなんか出来ないぞと思ったが、立食のパーティで世間話や交易の場だった。


 王宮には、午後2時の謁見に合わせて、1時間以上前から来て待っていた。

 今日のメンバーは俺と菜々美さん、マリエッタさん、モーリスさんの4人に、メイド頭のクリステルと、メイドのロザリーが来ている。2人は着物の着付け要員で、献上の際に着方を教える場合に備えていた。

 菜々美さんは振袖を着ている。「振り袖って、未婚の女性じゃないの」と聞いたら 「微妙ですね、でも振袖が素敵で、着たかったのです。王国では誰もわかりませんよ」と言っていたので確信犯らしい。

 マリエッタさんは、振袖姿の菜々美さんから目が離せないでいる。「王国にはこれ程、色とりどりに美しい衣装は有りません。とても素晴らしく、斬新で、国王陛下や王妃様も興味を示すでしょう」と言ってくれた。

 部下を呼ぶときに、さんを付けないようにと言われたが、マリエッタさんとモーリスさんを呼び捨てにするなんてハードルが高すぎる。領主代行と、騎士団長の地位に有るからダメでは無いらしく、そのまま押し通した。


 やっと俺達の番になって、謁見の間に通された。

 正面の玉座に国王陛下、横に王妃様がいる。左には王子、王女、右側に国務大臣を初め年寄連中が並んでいた。


「新たに、ノルマンディ領を治められる、ゲーゴ・タカハシ卿と夫人のナナ殿です。

 タカハシ卿、陛下に謁見のご挨拶をお願いします」


 国務大臣に紹介された。

 異国出身なので、礼儀は気にしなくても良いと言われている。マリエッタさんからレクチャーを受け、何度も練習したが、緊張で口の中がカラカラだった。


「初めてお目にかかります。ケーゴ・タカハシと申します。よろしくお願い致します」


 短くそれだけ言うと、頭を下げた。


「頭を挙げよ。この度、ケーゴ・タカハシ卿を、ノルマンディ領の子爵に叙する。

 以後、ケーゴ・タカハシ・ド・ノルマンディ子爵と名乗るが良い」


「ありがとうございます」


「ところで、タカハシ子爵の夫人はとても美しいドレスを着ているな。

 妃が、気になって仕方ないらしい」


「はい。私が生まれた国の民族衣装でございます。

 本日は、王妃様に献上致したくお持ちしました。お許しいただけるのでしたらお納め下さい」


「それは嬉しい。妃、良かったな」


「タカハシ子爵、有難うございます。とても美しいので、見惚れてしまいました」


 王妃様は、俺の母さんぐらいの年齢に思える上品な女性だ。

 マリエッタさんが、着物と日本刀を差し出した。


「ナナ、説明して下さい」


「はい。私が着ている物は、着物と申します。着方に手順が有りますので、後ほど説明申し上げます。

 もう一方の物は、故郷の剣でございます。カタナは、王国にも渡っていると聞いていますのでお持ち致しました」


「なんと、カタナか。英国に渡来した魔導士が持っていたと聞いている。我が国にも何本か有るはずだが有りがたい。

 これでは、何か褒美を取らさなくてはならないな。追って送らせよう。

 大儀であった」


 謁見が終わり、俺たち用の控室に案内される。この部屋は、晩さん会が終わるまで使えるのでくつろいで欲しいと言われた。晩さん会の始まる時間に、呼びに来てくれるらしい。

 菜々美さんと、着付け役のクリステル、ロザリーは連れて行かれたままだ。


「ケーゴ様、本日の謁見お見事でした。

 献上品も素晴らしい評価を頂き、合わせてお喜び申し上げます」


「マリエッタさんのお陰ですよ。モーリスさんも有難うございました」


「いやいや、マリエッタさんの言う通り、ケーゴ様は見事でした。

 これからはケーゴ様ではなく、ご主人様か御屋形様がよろしいな。

 どちらがお好みですか」


「モーリスさん、からかわないで下さい。ケーゴで良いですよ」


「そうですか、それではそうさせて頂きます」


 モーリスさんがニヤニヤしていたので、本気でご主人様や御屋形様と呼ぶ気は無いらしく、してやられた。横でマリエッタさんが笑いを堪えていた。

 しばらく経ってから、菜々美さん達が帰って来た。


「お疲れ様でした。こちらで休んで下さい」


「ありがとうございます。ケーゴさん聞いて下さい」


 何だか、菜々美さんが興奮している。


「王妃様と、王女様達が着物を着てくれたのですが、この後の晩さん会に着て出られるそうです。私も一緒に登場して下さいと言われました」


「それは凄いね。王女様達って、誰が着るんですか」


「誰だったかしら。沢山いらっしゃったので良くわかりません。クリステルは知っていますか」


「はい、奥様。今回着物を着られる方は、王妃様と、皇太子妃様、ジョセフィーヌ王女様、クリスティーナ王女様になります」


「さすがクリステルですね。ケーゴ様、わかりましたか」


「ありがとう。さっぱりわからないね。でも、その中にナナが入っても大丈夫なのかい」


「奥様が、一番綺麗です。身長も一番高く美しいですから、皆様の注目の的です」


 クリステルが、菜々美さんをヨイショしている。確かに菜々美さんは綺麗で、着物もよく似合っているが、王妃様や王女様と比べてはいけないだろう。


「目立ち過ぎて、問題になったりしないよね」


 思わず、マリエッタさんに聞いてしまった。


「貴族の方々は、夫人を自慢し合うものです。ケーゴ様は、ナナ様をご自慢なされば良いと思います」


 王国には、嫉妬や妬みは無いのだろうか。生命の腕輪が有ったとしても、ちょっと納得出来なかった。



 案内の人に連れられて、晩さん会の会場に入る。菜々美さんは違う所に連れて行かれたので、俺とマリエッタさんとモーリスさんの3人だ。

 大広間はとても広かったが、間に何本もの柱が有るので、体育館のように解放された場所では無い。強いて言うなら、ホテルのロビーを広くした感じだ。

 100人以上の人達が、綺麗に着飾っている。


「それでは、王室主催の晩さん会を開催いたします。

 国王陛下が入場なされます。拍手でお迎えください」


 中央のステージに有る扉が開き、国王様が入って来た。


「続いて、皇太子殿下の入場です」


 先ほどの場にいたような気がするが、よく覚えていない。


「続いて、王妃様、皇太子妃様、ジョセフィーヌ王女、クリスティーナ王女、そしてこのたび叙爵されましたノルマンディ子爵夫人のナナ様の入場です。

 皆さま、異国の衣装を着ております」


 会場が、わーと言う歓声と共に盛り上がった。菜々美さんがしたお辞儀がとても印象的で、最後に入場したにも関わらず本日の主役のように輝いて美しかった。

 菜々美さんが俺たちの元にやって来たのは、それからしばらく経ってからだ。すっかり注目の的で、王妃様達が放してくれなかったらしい。


「ナナ、ご苦労さまです。とても綺麗で、見とれてしまいました」


「ケーゴさんにほめて頂いて嬉しいです。着物を着た甲斐が有りました」


「王室の人達と一緒の感想はどうでしたか」


「とても緊張しました。皆さん、とても綺麗で、上品な方ばかりです。

 着物は初めてと言っていたのに上手に着ていました。さすがだと思います」


「それでも、ナナが一番綺麗に着こなしていました。歩く姿や、お辞儀がとても綺麗です。さすがモデルだなと感心しました」


「そんなに褒められると恥ずかしいです。でも、とても嬉しいですよ」



 暫く歓談が続き、俺達の所にも沢山の人が来て菜々美さんを褒める。マリエッタさんやモーリスさんに聞く暇もないので、プロフィールを見せてくれると有り難かった。

 正直早く終わってほしい。

 それから暫くして王様達が引き揚げて行った。

 会場に残った人達も帰り始めたので、晩さん会は終わったらしい。直ぐに案内の人が来てくれた。


「ノルマンディ子爵様、この後は自由参加になります。このまま参加なされてもかまいませんし、お帰り頂いてもよろしいです。いかがなされますか」


 菜々美さんを見たら、疲れて帰りたいという顔をしていた。


「マリエッタさん、帰りましょうか」


「それがよろしいかと存じます」


「帰りますので、案内をお願いします」


 やっと帰れるのでホッとする。良い経験になったが、もう出たく無いと言うのが本音だ。菜々美さんもぐったりしているので、余程疲れたのだろう。今日一番働いてくれたから、ゆっくり休んでほしい。


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