19 領地の購入計画
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
領地の購入や、俺の家の周りの移転計画は少しずつ進んでいる。俺と菜々美さんは後期試験に集中しなければならない。
菜々美さんは、読者モデルの仕事を正式に辞めた。半年以上活動していないが、モデル兼冒険者として名前が出てしまい、世間を騒がせているのでけじめを付けたかったらしい。
試験の最中に窓の外を見ながら、この1年を振り返って大学に通う意味を考えた。
迷宮探索に忙しくて大学に通った時間は多くない。サークル活動もしなかったので新しい友達は出来なかった。中学、高校時代の友達との交流も途絶えている。
後期試験でとりあえずの成績を残しても、この先3年間大学に通う意味が有るのだろうか。
異世界と関係を持ってしまい今まででは考えられない体験をしている。俺の望む将来や、進むべき道は変わってしまったので、大学の勉強は合わないだろう。
ネガティブな考えばかりになってしまったが、菜々美さんと出会えた素晴らしい奇跡が有った。
色々考えたが、試験はそれなりの結果を残せたと思う。前期試験より良いはずだ。
この話を岩崎教授にすると「高橋君の可能性は色々有るから、今から狭めてしまう必要はありません。余り無理してはダメですが、大学も良い経験ですよ」と励ましてくれた。
菜々美さんに至っては「圭吾君でも悩むのですね」と、失礼な発言をしていた。
待ちに待ったと言うか、やっと王国の領主について連絡してきた。
『日本政府は王国の領有に関与しない。その上で、防衛省から岩崎迷宮探索株式会社に以下の件について依頼する。』
1.岩崎迷宮探索㈱に、交易拠点の調達を依頼する。
拠点は、迷宮の王国出口付近とする。
拠点には、研究施設、宿泊施設、倉庫を設ける。
2.拠点は、外交特権を有する。
3.代金は、300億円とし、納期については別途打ち合わせる。
出された依頼は、何だか良く判らないものになっていた。
「領地や領主の件はどうなったのですか。それと、外交特権って何ですか」
訳が分からず、思わず岩崎教授に聞いてしまった。
「日本政府は、王国領を領有する為の立法を諦めましたね。国際問題も気にしたのでしょう。
でも、王国の貿易拠点は諦めずに、大使館設置の手法を取りました。
そこで決まったのが、先ほどの条件です。領土や領主の問題は、こっちに丸投げしています。
しかし、この契約は会社にもメリットが有るのです。国が出す300億円は、研究施設、宿泊施設、倉庫の為に支払われるから、領有権や、領主について文句が言えません。後で文句を言って来る連中が沢山いるから困ったものですよ。
外交特権ですが、大使館内を治外法権にするだけです。特になにも有りませんよ、ああそうだ、体裁程度の警備は必要ですね」
「領主は俺がやるんですか」
「高橋君にノルマンディ子爵をやってほしいですね」
「でしたら私が子爵夫人ですね。頑張ります。」
菜々美さんは、超ご機嫌だ。到底断れる雰囲気じゃ無い。最近、やっても良いかなと思っているので、無理に断る必要は無いんだよね。
「これからどうすれば良いですか」
「港区の探索基地に、300億円分の金塊が用意されているので受け取って下さい。
それを持って王国との商談になりますね。実際の交渉や作業は現地の人、マリエッタさんに任せた方が良いでしょう。手伝えなくて申し訳ありませんが頑張って下さい」
「わかりました」
「他に、何か要望は有りますか」
「そうだ、道具や馬車が有れば良いと言っていました」
「どんな道具でしょうか」
「すみません、こうなると思っていなかったので、突っ込んだ話はしませんでした」
「そうですか、では馬車についてはどうですか」
「王国の市街地は石畳です。郊外は雨になると泥道になってしまうので、オフロードタイプが有れば最高ですね」
「馬車にオフロード用のタイヤは付かないでしょう」
確かに、馬車にタイヤは無理が有る。でも、普通の馬車だったら王都の豪華な馬車に敵わない。
「思い切って、オフロードの車を持って行ったらどうでしょうか」
菜々美さんが突拍子も無い案を出す。あっちの世界では、電気が使えないんだ。
「電気系統が動かなくて、使えないと思う」
「車体だけ持って行けば良いと思います。王国には魔導馬車や魔道飛行船が有りますから、自分達で動かしますよ」
それには気づかなかった。菜々美さんが冴えている。
「それ面白いね。オフロードのランクルが王国を走ったら面白いかも知れない」
「2人がそう思うのなら良いかもしれないね。オフロード車の車体を用意しましょう。
電気部品を取り外して、パンクしない車体を注文しましょう」
「王国に行ったら、魔道馬車の動力部を探してみます」
「是非頼みます」
急いで王国に行く支度をする。とりあえず何かお土産が欲しいと思い、着物と日本刀を用意した。
着物は1着100万円で、菜々美さんが着て行く分も合わせて5着用意する。日本刀も同じくらいの金額で3本用意した。
着物や日本刀は、値段に幅が有り過ぎてどれをチョイスすれば良いかさっぱりだ。100万円は、見た目がそこそこで、値段もそこそと思っただけだ。要らなかったら返してと、開き直ってしまおう。
準備が整ったので、第1迷宮探索基地に行く。中に入ると、山下副指令の出迎えを受けた。
お互いの近況を話し合った後、金の延べ板が保管してある場所に移動する。パレットの上に置いて有ったのだが、思っていたより少ない。
「6トン以上の金と聞いていたので沢山有ると思っていました」
「確かに、6トン以上有りますが、金は比重が大きいです。4kgの延べ板1630枚になります」
俺と菜々美さんで、半分ずつ収納する。何も無いと思うが、大金を持ち慣れていないので、万が一に備えた。
山下副指令に頑張って来て下さいと見送られながら、迷宮の中に入って行く。本当はそのまま移転できるが、見送られる儀式みたいな感じだ。
迷宮のダンジョン移転魔法陣から、カーンの領主館に移転する。
慣れた足取りで、マリエッタさんの宿屋に向かうが、郊外の移動より時間が掛かるって変な感じだ。
「ケーゴ様、ナナ様いらっしゃいませ。
いつも使って頂いてありがとうございます」
「マリエッタさんこんにちは。本国から、ノルマンディ領の購入依頼が来ました。手伝ってもらえませんか」
「まあ、本当ですか。とても素敵です。私は何かお手伝い出来ますか」
「領主には私がなります。ナナが空間移転魔法を使えますから大丈夫ですよね。
マリエッタさんには領主代行をお願いしたいのですが、引き受けて頂けませんか」
「私が、領主代行ですか。とても光栄ですが、私では務まりません。もっと経験豊富な方でないと無理でしょう」
「マリエッタさんが経験豊富な方を雇ってください。それなら大丈夫ですよね」
「確かにそうですが、下の者が付いて来ません」
「領主には、騎士爵の任命権が有りましたよね。マリエッタさんを騎士に叙任すれば誰も文句は言えませんよ」
「とても嬉しいお話ですが、本当に私でよろしいのですか」
「ぜひ、お願いします」
「私も、マリエッタさんにお願いしたいと思っています。よろしくお願いします」
菜々美さんが援護してくれた。マリエッタさんの表情が、受け入れに傾いた気がするのでもう一息だ。
「カーンに来てから、マリエッタさんに色々助けてもらいました。他の人は考えられません。ぜひお願いします」
「わかりました。ぜひ、ご協力させて下さい」
マリエッタさんの協力を取り付けたので、これからのスケジュールついて話し合う。相変わらずマリエッタさん頼みは変わらない。
「まず、王都の行政府にノルマンディ領購入の依頼をします。早ければ1ヶ月、長くても半年くらいで話が付くと思います。話がまとまれば、国務大臣の許可を受けて、国王が叙爵する流れになります。
領主館に勤めている事務官達は、半分以上残ってくれると思います。まとめ役の行政官が4、5人いますが、代官様と一緒に王都に戻りますから、こちらで集めなければなりません。
騎士団は、王都守備隊や方面軍から派遣されていますから、戻ってしまいます。
まとめますと、ノルマンディ領の購入依頼、領主館の行政官の募集、騎士団の募集になりますが、全て私がやった方がよろしいでしょうね」
「はい、出来たらお願いします」
「わかりました、知り合いに当たってみます。
それと、宿にケーゴ様の拠点を置きたいと思いますがよろしいですか。
話が進んで行けば、王都にも屋敷が必要です」
「はい、ぜひお願いします。王都の屋敷の手配もお願いします。
後、お金が有った方が良いですよね。どれくらい必要ですか」
「金貨2、300枚有れば良いです。足りなくなりましたらご連絡します」
「私達が王都に出向く必要は有りますか」
「王様から叙爵される時は必ず必要です。それ以外は私がやった方が良いと思います」
「お願います。
話は変わりますが、魔道馬車や、馬車の動力って手に入りますか」
「普通の大きさであれば、領主館で手に入ります。大きい馬車や、貴族用の馬車ですと、王都まで行く必要が有ります」
「普通の物で大丈夫です」
やっぱりマリエッタさんは頼りになる、金貨300枚を渡してから馬車を見に行った。




