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02 生命の腕輪

 腕輪に文字でも書かれていないか、拡大鏡を使って調べたが何も見つからない。それどころか、金色に輝いている表面には傷一つ無かった。

 持ち主が腕に付けていたのだから、傷の一つぐらいあっても良いはずだ。普通の物では無さそうだが、生命の腕輪なのだろうか。

 もう、考えるのが面倒になってきた。

 考えてもわからない問題にイライラして来る。


 勇気、この場合は正に蛮勇でしかないが、生命の腕輪を左腕に通してしまった。

 もし何かあっても抜けるだろうと安易な気持ちも有った。

 腕輪が輝き出すと、輪が小さくなって腕にぴたりとはまる。焦って取り外そうとしてもびくともしない。完全に腕と一体化して、着けている違和感さえ無かった。


「うわー、完全にやってしまった。これ、どうしよう」


 しばらく現実逃避している。目を逸らしていても、左腕に付いている金色の腕輪は消えてくれなかった。


 どれくらいそうしていただろう、後悔しても仕方無い。気持ちを切り替えて魔法の実験を始めた。

腕輪を付ける前までのわくわく感は失われてしまったが、後戻りできない状況にむしろ踏ん切りがついた。


 ここでファイアーボールのテストは出来ないので、最初の部屋に移動する。何か有った時逃げられるように、物置とつながっている壁の前を実験場所に選んだ。

 壁の反対側にティッシュを置く。前回持って来たティッシュは無くなっていたので新しい物を用意した。

 見ている人が居たら恥ずかしさで悶絶しそうだが、ティッシュに向かって手をかざし「ファイアーボール」と言った。

 しかし、何も起きない。

 そうだ、ファイアーボールじゃなくて、火球だった。もう一度構えて、火球に言替える。


 手の前に野球のボールぐらいの大きさの火の玉が発生し、ティッシュの脇に飛んで行った。ティッシュには当たらなかったが、人類初の魔法じゃないだろうか。

 自分が成し遂げた偉業に、感極まって体が震えている。伸ばした両手も震えている。


「やったー。俺は魔法使いだ」


 感激の中、覚えたばかりの火球を連発したら、すごく気持ちが悪くなった。

 頭がくらくらして、いてもたってもいられない。這うようにして自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。


 ベッドから起き上がると、昼を過ぎている。休んだお陰か、気持ち悪さは無かった。ファンタジー的には魔力切れが考えられるが、そう言う考えに至る自分が恥ずかしかった。

 今日の冒険を終わりたかったが、槍や懐中電灯を回収しなければならないので、もう一度ダンジョンに入る。

 最初の部屋のティッシュは予想通り無かった。

 次の部屋のベッドに行くと、槍と懐中電灯は残っている。この部屋の床は光っていないし、棚やベッドが残っているのだから消えないはずだ。

ダンジョンの光る床が曲者で、上に載っている物を吸収してしまうのだろう。

 魔力切れについて何か書いて有ったかもしれないと思い日記を見た。

 前回見た時は、火球しか書かれていなかったが、見落としが有るかもしれない。読んで行くと、その他の魔法についても色々書いて有る。前回読んだ時は、こんな所無かったはずだ。

 枚数を数えると、40枚を超えている。後ろの方は空白だったのに、殆どびっしり書き記されていた。

 先ほどとの違いは腕輪だ。

 この部屋で読むには量が多いので自分の部屋に持ち帰りたかったが、ここから本を持ち出すとダメになってしまうかもしれない。とりあえずスマホに写すのが一番だ。

 スマホを取りに行き最初のページから撮ると、途中から映らなくなってしまった。30枚を過ぎたあたりから、俺の目には見えてもスマホに映らない。見る人を限定している魔法が掛けられ、スマホでもダメらしい。

 仕方が無いので、次の日からノートに書き写す。思ったよりも手間が掛かり、5日も掛けでしまった。


 この間に、生命の腕輪を付けた最初のデメリットが起きた。高校へ行くと、授業が始まる頃に魔力切れの症状になる。初日ほど酷い状態ではなかったが、乗り物酔いに似ていた。


 驚くべき事実も含めて、新たな情報を記す。


1.生命の腕輪。

   3歳になると、教会で付ける。魔法やスキルを司る魔道具。

   悪い事をすると腕輪の色がくもり、魔法やスキルが低下する。


2.腕輪の持ち主が習得していた魔法。

   火球 ファイアーボール。

   水撃 ウォーターボール?

   治癒、解毒や治療が出来る魔法。

   鑑定 生命の法典と連動し、魔力を元に鑑定。 

ダンジョン移転魔法 ダンジョン移転魔法陣を利用して、ダンジョン内を移転。

空間移転魔法 魔法陣間を移転して遠くに行ける。


3.迷宮について。

   モグラ迷宮(通称らしい) 研究室が有るここは、地下32階。

   物置とつながっている部屋に、ダンジョン魔法陣が有り、地下1階へ行ける。


4.俺のステータス?

   LV5 HP18 MP9


 やはり一番驚いたのは、俺のステータスだ。

 元の持ち主は、LV57 HP95 MP115だったらしい。

 生命の腕輪は、ファンタジー世界へ行くアイテムで間違い無かった。

 後は、これ以上体に悪影響が有りませんようにと祈るばかりだ。


 経緯はどうあれ、俺はファンタジー世界の扉を開けてしまった。

 迷宮は異世界に通じ、そこにはレベルが有る。そうくれば、やってみたいのがレベル上げだ。

 レベルが上がればMPも増えるので、魔力切れから解放されるかもしれない。間違っても、新作のゲームに夢中になるのとは訳が違うのだ。

 出て来るモンスターのレベルは階層と同じなので、レベル上げを始めるのは地下1階からになる。問題が有るとすれば現地人との遭遇だが、このダンジョンは腕輪の持ち主しか知らない秘境らしく可能性は低いはずだ。


 5月15日、日曜日、リュックサックに食料とペットボトル、懐中電灯を入れ、迷宮の地図を描く為の筆記用具を用意する。ヘルメットにゴーグル、野球で使うキャッチャーのプロテクターを着込んだ。

 準備万端で魔法陣に乗ると、頭の中に 1 と 32 が現れる。1 に意識を集中すると、ちょっと立ちくらみした後に今までより広い所に移動した。

 周りの安全を確認して、ゆっくり魔法陣から降りる。魔法陣の周囲はモンスターが近づけないが気を抜いてはだめだ。

 ノートを出して、現在のステータスを記入する。

  LV5 HP18 MP8

 ダンジョン移転で、MPが1使われた。


 何だか目の前少し上の空間に、ダンジョンの状況が映っている。魔法陣と出口らしき物が表示されているのでマップ機能だ。少し移動しては魔法陣まで戻るという行動を繰り返すと、マップに新しい道が増えるので間違い無い。

 地図を描く作業はいらないらしい。さすがダンジョンだ。


 魔法陣から離れたので慎重に進んで行くと、ついにモンスターに遭遇した。マップにも赤い点が現れるが、現物と変わらないタイミングなんて遅いんじゃないの。

 目の前のモンスターはモグラらしいがとっても大きく、図鑑で見る小さなもぐらとは別の生物だ。

 手の爪が凶暴そうで、俺を睨んでいたる。

 鑑定すると、モグラの上に モンスター LV1 とポップアップされた。これから始まるゲームに負けは許されない。


 どうしたら良いかと躊躇していると、モグラが攻撃して来た。

 思わず槍を突き出して応戦する。思ったより弱い攻撃で、弾き返せた。

 何回か繰り返しているとモグラの胴体に槍が刺さる。最初のヒットでモグラの動きが悪くなったのはラッキーだ。

 動きの悪くなったモグラを倒すのは簡単で、何度かの攻撃の後、モグラから紫の煙が出て消えてしまう。日記の通りだと感心してモグラが消えた後を探したが、ドロップアイテムは落ちて無かった。

 実際のモンスター相手に上手く立ち回れた。恐怖も疲れも無かったので大丈夫だろう。一応自分のステータスがどうなったか確認する為、魔法陣に戻った。

  LV5 HP17 MP8

 結果は、HPが1減っている。ダメージを受けなくてもHPが減るなんて想定外だ。回復薬は無いから、動けなくなってからでは遅いので、常に気に注意が必要だ。


 その後、約2時間でモンスター15匹を倒し、HPが半分以下の8に減ったので終わりにした。

 HPが半減する時間を活動可能時間とすれば、1日2時間だ。

 その後、3日目で地下1階の探索を終わらせたがレベルアップは無かった。

 地下2階では、LV2のモンスターが出現する。レベル2のモンスターは思った以上に強く、HPが半減するまでに12匹しか倒せなかった。


 地下2階の探索は5日でレベルアップは無かったが、HPが半減するまでに15匹倒せるようになった。戦闘に慣れたのか無駄が減ったのかも知れない。


 その後、地下3階、4階と進んで行き、6月2日、ついにLV6に上がった。待ちに待ったレベルアップで、要した期間は3週間だ。

 今週の週末に両親が帰って来るので、迷宮について相談しなければならない。


 LV6 HP21 MP10


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