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17 子爵領は買えるらしい

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

 次の日、少し遅い朝食を済ませて岩崎教授に会いに行った。

 菜々美さんは、もう2、3日ゆっくりしたいと言っていたが、自宅で休んで下さいとお願いした。

 本音を言えば俺も一緒にいたいが、菜々美さんの両親に帰って来た連絡だけはしてほしい。昨日会った内山田班長経由で知られたら不味いと思う。それに、岩崎教授は会社のトップだから、仕事が終わった報告をしなければならない。

 今回売り上げた生命の腕輪の代金、4億8千万円を自慢して、こんなに稼ぎの良い婿候補ですよ、とアピールするチャンスだ。


 残念ながら岩崎教授は不在だった。学会の会議だか発表会でニューヨークへ行っている。非常に残念だが婿アピールは次回に持ち越しとなった。


 教授に会えなかったので、菜々美さんと今後のスケジュールについて、打ち合わせをした。

 現在取組中なのが、全ての迷宮調査。1か所1ヶ月としても1年以上かかる。

 その次に、先日依頼された王国での拠点に関する調査が有る。とりあえずマリエッタさんに聞かなければならない。


「冬休みを利用して王国に行きましょう。クリスマスデートも出来ますよ」


「いいですね。でも、王国にクリスマスって残ってますか」


「えーっと、何とも言えないかしら。でも、デートは出来るから良いですよね」


 拠点調査は、冬休みと決まった。

 迷宮調査はペースを落として、暇を見つけて少しずつ進める。月の初めに迷宮探索隊のレベル確認をしなくてはならないが、1日で済む内容だ。

 まとめてみたら、何だか上手くやれそうだ。

 しばらく大学に行っていないので、休みに入るまで真面目な大学生をしよう。



 大学に来たのは2週間ぶりだ。

 前期のテスト成績が良かったので余裕をかましていたが、かなり進んでいて焦った。レベルが上がって集中力や記憶力が良くなっても、勉強していない所はわからない。


 帰り支度をしていると、赤坂君がやって来た。オタク系の同窓生だが、オネエにジョブチェインジした可能性が有る。いつもと違って、無表情だった。


「高橋君久しぶりだね。元気してた」


 赤坂君が挨拶から入った。常識を覚えて、少し大人になったのかも知れない。


「元気だよ。赤坂君の調子はどうかな」


「ミス桜沢が来ていれば良いんだけどね。最近大学で見かけないから」


「あれ、今日は来ているんじゃないかな」


 俺がそう言うと、赤坂君の目が急にきつくなった。


「やっぱり高橋君はミス桜沢とお出掛けしていたんですね。2人とも休みなのでおかしいと思ったんです」


 おかしい所は何なのか突っ込みたいが、赤坂君のペースに乗せられてはいけない。何も言わないで赤坂君を見ている。

 しびれを切らせた赤坂君が質問して来た。


「ミス桜沢と一緒に旅行でも行ったんですか」


「それに答えないと駄目かな。聞いても面白くないよ」


「それは、つまり旅行したわけですね」


「赤坂君、プライベートな話は聞かないでくれないか。どんな対応をしたら良いか困るんだ」


 赤坂君が唇をかんで睨んでくる。そんな顔しても怖くないぞと言ってやりたい。モンスターと比べたら可愛いもんだぞ。

 しばらく睨んでいたが、俺が答えないとわかったのか、俺の前から消えてくれた。

 今までは絡んで来ても面白みが有ったが、今日の赤坂君は少し行き過ぎている。菜々美さんのストーカーになりませんようにと祈った。



 12月の初めに、第1回迷宮探索隊レベル検証を行った。

 内山田班長を含む30人余りが5週間、先日納めた腕輪を着けた人達が3週間弱の探索をしているので、その効果を確かめる。

 東京第1迷宮の探索基地に300人以上が集まり、全員の検証に2時間近くの時間を要したが、殆ど装着時と変っていなかった。


「高橋君、レベル上げは大変だな」


 内山田班長がガックリしている。


「そうですね、期間が短いですからね。

 パーティが組めていませんし、銃火器の影響も考えられます。もう少しデータを取らないと何とも言えませんね」


「また次も頼むよ。1月の4日を予定している」


「わかりました。

 休みの間に王都に行ってきます。拠点について調べて来ますので、戻り次第ご連絡します」


「楽しみにしている。気を付けて行って来てくれ」



 王国のクリスマスは期待出来ないからと、少し早いクリスマスデートにアクアパーク品川に行った。

 平日だったのでそれほど混んで無く、イルカのショーやペンギンを観て楽しむ。菜々美さんは、シックなミニスカートのスーツ姿で俺やギャラリーを楽しませてくれた。

 夕食の時、盛り上がり過ぎていつもよりワインの量が多い。ホテルのレストランだからいくら飲んでも大丈夫と、訳の分からない言い訳をしていた。


「菜々美さん、ワイン飲み過ぎですよ。そろそろ戻りましょう」


「今日はとても楽しいから、良いんです。圭吾さんも、もっと飲んでください」


 強制終了したが、菜々美さんはすっかり出来上がっている。部屋に帰る途中でも、出会う人に誰彼構わず 「メリークリスマス」 と声を掛けていた。

 今日のお楽しみは無しだと思っていたら、菜々美さんに襲われてしまった。

 酔っぱらった菜々美さんは別人のように積極的だ。


 終わった後「とても素敵でした。優をあげちゃいます」と、言われたが、酔っぱらいに言われても自慢にならない。

 菜々美さんは出会った頃に比べると澄ました感じが無くなって、何をするにも積極的になった。落ち着いた見た目とは裏腹に、考えるよりも先に行動してしまうのが少し難点だ。

 俺達2人の相性は良いと思う。たまに喧嘩しても仲直り出来るので、お互い居心地の良い関係に成れたかもしれない。


 次の日、ホテルから直行で、カーンへと向かった。

 今回の目的は、王国で拠点を得るための調査と、空間移転魔法陣の調達だ。困った時のマリエッタさんで、今回も彼女に頼もうと思っている。


 ノルマンディ32のダンジョン魔法陣から、カーンの領主館に移転する。前回教えてもらった届出を済ませると、なんだか菜々美さんの様子がおかしい。


「ごめんなさい。お酒が残っていたらしく、移転したら気分が悪くなってしまいました」


 体調が悪いと酔うのか、お酒が原因かわからないが、移転する前の体調管理は必要らしい。


「しばらく休んでから行きましょう。急がなくても良いですよ」


「すみません」


 試しに解毒の治癒魔法を使ってみたら、効果が有った。


「凄いですね。二日酔いに効くなんて最高です」


 菜々美さんの体調が戻ったので、マリエッタさんの所に向かう。


「ケーゴ様、ナナ様いらっしゃいませ。

 何日お泊りの予定ですか」


「マリエッタさんこんにちは。1週間を予定していまが空いていますか」


「大丈夫です」


 部屋に案内してもらったので、今回の目的を相談した。


「今回もマリエッタさんに協力して頂きたいのですが大丈夫ですか」


「はい、何なりとお申し付けください」


 マリエッタさんの返事にほっとする。最近は何でもかんでもマリエッタさん頼みで、彼女の協力が無かったら何も進まないのだ。


「ありがとうございます。今回、2つご相談が有ります。

 1つ目は、空間移転魔法陣の購入です。

 2つ目は、こちらに土地や屋敷を手に入れる方法をお聞きしたいのです。出来ればノルマンディ32迷宮も手に入れたいと思っています」


「まあ、凄いお話ですね。

 空間移転魔法陣はギルドや領主館で購入出来ます。王国に設置する場合は届け出が必要です。もしケーゴ様の国に設置されるのでしたら届け出は必要ありません。

 土地や屋敷の購入もギルドや領主館で同じように出来ます。ですが、迷宮は買えませんし、独占も出来ません。

 もし、どうしても欲しいのでしたらノルマンディ領の領主に成ると言う手が有ります。

 独占は出来ませんが、迷宮は領主の物になります」


 何だか話が大きくなって来た。


「領主と言えば貴族ですよね。簡単に貴族になれるのでしょうか」


 俺の代わりに菜々美さんが質問する。全然イメージが湧かないが、貴族ってそんなに簡単になれないと思う。格式とか伝統なんかが五月蠅いんじゃないの。


「経緯は色々有るのですが、ノルマンディ領は王国の直轄地になっています。

 王国の直轄地は、希望者に領地を売る場合も有りますので、ノルマンディ領は買えると思います」


「本当ですか」


「王国直轄地でも、領地を売る場合には色々条件が有ります。王都から離れている、鉱山やその他の資源が無い、採算が取れないなどです。

 ノルマンディ領は、王都から離れていますし、採算が取れていませんから、購入出来ると思います。

 代金は人頭税10年分となっていますから、金貨30万枚くらいかと思います。

 買う側の条件に、領主になる人は成人して夫人がいる、空間移転魔法陣の使える魔導士がいるなどですね」


 前回魔法石20個で金貨1万枚になったはずだ。残りの分を合わせても全く足りない。


「金貨が足りませんね。金塊で支払えますか」


「金塊でも大丈夫です。金額については、交渉次第ですね。

 ケーゴさんの国から、珍しい道具や馬車などを献上するのも手ですね」



 金貨30万枚と言えば、5グラム×30万で1500キログラムになる。日本でも金塊なら用意出来るはずだ、何だか実現しそうな気がして来た。


「ありがとうございます。一度相談してみます。

 それにしても、マリエッタさんは色々ご存知ですね。こちらでは常識なのですか」


「そうでは有りません。私は、王立上級学校の政務学科を出ています。王都の政務官を養成する学科ですから知っていて当然です。

 お恥ずかしい話ですが、結婚に失敗して帰って来たのです。この宿は父が経営していますから、手伝いをしております」


 王立上級学校と言えば王国最高峰の学校と聞いている。卒業生は王国の行政府や軍に勤める超エリートだ。

 それよりも、俺とそんなに違わないマリエッタさんがバツイチと聞いてショックだ。こんなに綺麗で優秀な人と別れるなんて、元の夫はバカなのかと思った。



 凄い情報を聞いたので、内山田班長達に報告しよう。移転魔法が有るので、第1迷宮探索基地に行くのは簡単だ。

 基地に行くと、山下副指令、岩崎教授などが、迷宮に関する定期会合を開いている。 急きょ俺達も参加して、王国での調査内容を報告した。


「ノルマンディ32迷宮の購入は出来ないが、迷宮を含むノルマンディ領の購入なら出来る。という認識で間違い有りませんか」


 俺の報告を聞いて、山下副指令が確認してくる。


「はい、その通りです。ただ、ノルマンディ領を購入しても、迷宮の独占は出来ません。多少の入場料は許されますが、迷宮に入る冒険者を止める権利は無いそうです」


 山下副指令が頷くと、話を次に進めた。


「高橋君のおかげで拠点確保の目途が立ちそうです。金額も、十分予算内に収まりますので、ノルマンディ領の購入は良い案だと思います。

 これらの情報を政府に打診しますので、今後の方針についてはしばらくお待ちください。

 高橋君、岩崎菜々美さん、ありがとうございました」


 俺達の出番はここまでらしい。

 宿を取ったままなのでカーンへ戻る。とりあえず空間移転魔法陣を購入しなくてはならない。


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