16 仕事が立て込んできた
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
王国から戻って内山田班長に連絡すると、直ぐに会って欲しいと言われた。
東京1号迷宮探索基地、慣れない名称で戸惑うが港区のダンジョンに行くと、山下副指令、内山田班長、今井班長が待っている。
無事の帰還と、生命の腕輪300個の入手を喜んでくれた。
「迷宮探索隊の活動を聞いて頂きます。
生命の腕輪を付けたグループの探索が始まりました。不適格者が数人出てしまったのは残念ですが、迷宮探索は順調に進んでいます。
班長は2級、班員は3級の腕輪を付けています。
高橋君に協力して頂きたい案件が有りますので、迷宮探索隊の今後の方針などを説明致します」
説明してくれた内山田班長の話では、1グループ6名編成で、5グループが探索している。今後の課題として、レベルアップの確立、レベルアップ期間の予測、安全確保などが有った。探索隊ではレベルを確認出来ないので、俺に頼みたいらしい。
「わかりました。内山田班長のレベルは、LV10、HP37、MP11ですね。
内山田班長はたしか28歳でしたよね。王国の一般人より少し高いですが、兵士や騎士より低いと言ったところです」
「そ、そうか。これからも頑張るよ。
まあ、現状がわかるように、腕輪を付けた者達のレベルを確認してほしい。
最低でも1か月に1度は実施したい」
「わかりました、協力いたします」
もう一つのお願いが厄介だ。迷宮利用計画案で予定されている、第2段階の王国の拠点確保だ。ちょっと前に聞いたような気がする内容で、具体的に話を進めたいらしい。迷宮探索隊では何も出来ないので、俺に何とかしてくれと言って来た。
正直困ってしまう。俺、まだ大学生だよ、最近サボり気味だけど。
「王国の拠点について調査してみます。とりあえず購入などが出来ないか調べれば良いんですね」
「その方向で頼みます」
内山田班長は、頼み終わってホッとしている。厄介ごとを押し付けられた感じだ。
少し遅くなったので、教授への報告は明日にして帰宅したいが、菜々美さんも付いて来ている
「菜々美さんは自宅に帰らなくても良いんですか」
「まだ10日しか経っていませんから、後2、3日後でも大丈夫です。
圭吾君の家に泊めて下さい。
それに、今後についてご両親と相談する時、私が居た方が良いと思います」
「確かにそうだけど、無断外泊はちょっと賛成出来ないな」
「あら、違いますよ。両親にはちゃんと外泊の許可を頂いています。
王都でも、圭吾君の家でも違いは有りません」
「詭弁だなー、でも菜々美さんが来てくれるのは嬉しいですよ」
「良かった。それじゃあ早く帰りましょう。
移転魔法でぱっと帰れませんか」
「そうか、空間移転魔法陣を設置すれば出来ますね。今度購入しましょう」
こちらの世界で使えるか疑問だが移転出来たら面白い。菜々美さんの所や探索基地とつながれば、行動範囲が飛躍的に広がる。
自宅に戻ると母さんが出迎えてくれた。
「菜々美さんいらっしゃい、迷宮から直接帰って来たの。
それじゃあ、先にお風呂に入ったらいいわね。
着替えは大丈夫かしら」
母さんは、俺より菜々美さんが帰って来たのが嬉しい様で、テンションが高くなっている。今日泊めて下さいと菜々美さんが言ったのも原因かもしれない。
菜々美さんの後に俺が入ったのだが、あまりにもほったらかしで寂しい。風呂から出た後も、2人が楽しく夕食の支度をしているので仲間に入れなかった。
仕方ないので王都で買った物を整理したり、お土産の仕分けをしたりしていると、まだ7時前なに親父が帰って来た。
「ただいま。圭吾も無事に帰って来たな」
「お帰り、菜々美さんも一緒なんだ。今日、泊っても良いかな」
「ああ、母さんから連絡が有った。今日は皆で夕飯を食べるから早く帰れとな」
菜々美さんが居るだけで高橋家の夕飯は少し豪華で、そしてとても楽しくなる。菜々美さんは話し上手で、王都の旅行を面白おかしく語ってくれるから、親父や母も一度行って見ようかと言うほどだ。
今日、親父たちに相談しようと思っているのは、俺達の今後の方針だ。
自衛隊の迷宮探索隊と関りを持ってから、次々と新しい出来事に巻き込まれている。今回依頼された『王国の拠点確保』、これにどう対処すれば良いかも悩んでいる。このままじゃ大学に行く時間が無くなってしまい、勉強どころじゃ無いだろう。
「圭吾は、どうしたいんだ」
親父が俺の話を聞いた後に質問して来る。正直、自分でもわからない、俺はどうしたいんだろうか。
「今まで状況に押し流されて来たからなー。
異世界で何かしたいとか考えて無いんだ。ゲーム感覚でレベル上げを楽しんでいたら、何だか仕事になって、あれもこれもと言われている。
迷宮探索隊に必要とされているから、やりがいは有るし、役に立っているから嬉しい。
でも、次から次へと仕事が増えて、大学に行く時間が減っている。その辺りが上手く調整できれば良いけど、どうしようかと焦ったり、このままじゃダメだと思ったりしている」
「圭吾は、自衛隊への協力はしたいんだな」
「協力したい。山下副指令や、内山田班長も良くしてくれるからね」
「菜々美さんはどう思っていますか」
「私は圭吾さんに付いて行きます。圭吾さんの考えに賛成していますし、力になれたら嬉しいです。
でも、もし間違った考え方をしたら注意します」
「ありがとう、これからも圭吾をよろしく頼みます。
圭吾の問題は、大学へ行く時間をどうするか、で間違い無いか」
「それも有るけど、何処まで迷宮探索隊に協力するかの線引きも有るよ」
「圭吾は線引きをしたいのか」
「仕事って、内容と、納期、金額が有るんじゃないの」
「それは物件についての話だ。この仕事は、いくらで、納期はいつまでと決めるから線引きが必要だ。
俺はこれしかやらないなんて仕事の仕方は好きじゃない。自衛隊をお客さんと考えれば、お客さんの要求が全て仕事と言えるぞ」
「迷宮全ての探索を頼まれている。その途中で生命の腕輪を頼まれて、それが終わったと思ったら王国の拠点の話が出て来た。
代われる人がいなくて断れないのも、困っている理由かな」
「仕事内容はわかった。納期はどうなんだ」
「生命の腕輪は出来るだけ早くと言われたけど、他については決まってない」
「迷宮探索や、王国の拠点に関する調査は、大学の講義の合間にしたらどうだ」
「え、それでいいの。少しでも早くしないと困りそうだよ」
「少しは困るかもしれない。
でも、圭吾に断られたらもっと困るだろう。
自衛隊側も、それがわかっているから納期を決めずに頼んでいると思うぞ。
もう少し肩の力を抜いて、出来る範囲でやった方が良い。岩崎教授とも相談して両立を計ったらどうだろう」
親父の話は尤もだ。急に仕事が増えてテンパっていたらしい。親父に相談して肩の荷が下りた。
「何とか解決したかしら、すっかり遅くなってしまったわね。早く寝ましょう。
菜々美さんは客間に寝てね」
母さんの言葉に、菜々美さんは何か言いたげだ。
「菜々美さんは俺の部屋で良いよ」
ここは男らしく、俺が代わりに言ってやった。
「ダメに決まってるでしょ。まだ、よそのお嬢さんなんだから我慢しなさい」
何を我慢するんだと言いたい所だが、母さんには逆らえない。菜々美さんは素直に母さんに付いて客間に消えて行った。
「圭吾、菜々美さんとはどうなんだ」
「上手くいっている。結婚の約束はまだだけど、そのつもりだよ。大学1年だから少し先になるけどね」
「それなら良かった。あんなに良い娘は他にいない。
母さんも気に入っている、逃がすんじゃないぞ」
「わかってるよ。親父達が応援してくれて嬉しいよ」




