01 ダンジョン出現
最近のニュースがファンタジーで驚いている。
『港区、○○公園にダンジョン出現』
『富士山○○の滝、迷宮に流れる』
『自衛隊調査団モンスターと遭遇』
『モンスターは、巨大ねずみだった』
1ヶ月前からニュースやワイドショーで盛んに報道されているが、あまりに現実離れした話で耳を疑った。
突如として日本にダンジョンが出現し、人々を驚かしている。ダンジョンが出た公園や滝の周辺は、報道陣や野次馬が集まり昼夜を問わずお祭り騒ぎになっていた。
俺の通っている高校でもダンジョンとモンスターの話で持ち切りだ。
ちなみにクラスの中にも、にわか勇者や冒険者が誕生し、ダンジョンの攻略に備えている。
俺の名前は高橋圭吾、野球と陸上競技で有名な桜沢南高校の3年生。
陸上部に所属しているが、インターハイ県予選は補欠なので出番は無い。顧問の青木先生から「体格に恵まれているのに根性が足りないぞ」と言われていた。
勉強の成績は中の下ぐらいで良くは無いが、授業や部活動は真面目に参加しているので、そのままエスカレーター式に大学に行けるはずだ。
ダンジョンやファンタジーの盛り上がりが凄すぎてついて行けないが、自宅の物置にダンジョンが出現したとなれば、そう言ってもいられない。
俺の家には2階に上がる階段の下に、トイレットペーパーやティッシュペーパー、洗剤などを収納する物置が有る。畳1枚くらいと狭いが、床を50センチメートル下げてスペースを広くしている。扉の高さが1メートルと低いのが欠点だ。
背ばかり高い俺は物置の出し入れが苦手だった。
ティッシュペーパーが無くなったので、いやいやながら屈んで手に取った後、いつも通り頭をぶつけてしまう。思わずティッシュを落としてしまったが、何処にも見当たらなかった。いくら何でも、落としたティッシュが無くなるなんてありえない。
不思議だったので、もう一度ティッシュを落とした。
すると、落ちたティッシュが床に吸い込まれて行く。
あまりの不思議さに思わず手を伸ばしてしまい、俺まで一緒に物置の床に吸い込まれてしまった。
四つん這いの俺の目の前にティッシュが2箱転がっている。
突然の出来事に心臓がバクバクして、ここは誰、俺は何処状態だった。悲鳴を上げたり、わめき出したりしなくて良かった。
物置から落ちた先は小さな部屋で、まるで床一面がLEDライトの様に光っている。天井に付いた照明と違って下から照らされる感じが不気味だ。壁や天井は岩肌が露出していて洞窟に似ている。広さは6畳間くらいだ。
これが今ニュースになっているダンジョンかもしれない。モンスターは何処に隠れているんだとキョロキョロしたが周りには何もいなかった。
しばらく途方に暮れていたが、物置から来たのだから逆も有るかもしれないと、後ろの壁を探ってみる。
バーチャルの映像みたいにすり抜ける所を発見した。
俺ってやるじゃん的な優越感に浸り、壁を抜けて物置に帰って来る。一時はどうなるかと焦ったが、結果オーライだった。
遅ればせながら、ダンジョンについて調べたのでその内容を記す。
1.ダンジョンは、日本だけに出現している。
現在7ヶ所発見され、捜索が続いているので増える可能性が有る。
2.ダンジョン内にモンスターがいる。
モンスターは、巨大ネズミ、巨大ミミズ、巨大バッタ、巨大モグラで、大きさは1〜2m。ダンジョンからモンスターは出て来ない。
3.モンスターを倒すと、煙になって消える。
たまにドロップアイテムが有り、ドロップアイテムとして、光る石を確認。
聞けば聞くほど驚きの現象が起きている。
ダンジョンからモンスターが出て来ないのなら、警察や役所への届出は来月親父達が帰ってからだ。
日曜日、俺は好奇心に負けてダンジョンに降りて来た。
物置にしか行けない部屋なんておかしい。他にも出入り口が有るかもしれないと思ったら、我慢できなくなってしまった。
スニーカーを履いて、大型の懐中電灯を持っている。
モンスターとの戦闘に備えて槍も有る。この槍は女子やり投げ用の物だが、曲がって使えない物を拝借した。
女子部の佐伯部長に断りを入れたら、青木先生に聞いてと言われた。
残念ながら先生が見当たらなかったので無断借用になっている。
壁を槍で突いて見ると凄く硬く、全く刺さらない。
壁をカンカン叩きながら進んで行くと、物置の反対側にすり抜ける所を発見した。
とりあえずティッシュを入れてみる。思った通りティッシュは壁の中に吸い込まれた。
次は俺の番だ。中に入って大丈夫かと少しだけ迷った。
懐中電灯を点灯させて肩に掛け、両手で槍を握りしめながら深呼吸する。そして、ゆっくりと壁の中へと進んだ。
壁を抜けた先も部屋だったが、床が光ってないので暗かった。
懐中電灯を使って辺りを慎重に見て行く。ここは教室よりも広そうだ。
作業台らしき物が3個置いて有り、壁には本棚や得体の知れない物が乗った棚が有るが、モンスターが隠れている様子は無かった。
反対側の片隅に、棚に囲まれるようにしてベッドが置かれている。
ベッドを照らすとその上に骸骨が有ったので、思わす恥ずかしい声を上げてしまった。
恐る恐るベッドの上の骸骨を槍で突くと、あばら骨が崩れ落ちた。
ゾンビやアンデットでは無いらしい。とんでもない物を見つけて、自分が危険な場所に居ると気付いた。
モンスターがいつ出て来てもおかしくない。それなのに、怖がりながらワクワクするってとても変だった。
ベッドの上の骸骨は、この部屋の持ち主だろう。ベッドの上で死ぬって病気だったのだろうか。
服や靴はほとんど朽ち果てていたが、左腕にはめられていたブレスレットが唯一原型を留めている。槍で突いてみると腕の骨が崩れて、ブレスレットが床に転がった。
懐中電灯で照らすと、金色に光っている。
拾い上げてホコリを取り払うと、正に純金の輝だ。持って帰りたい衝動にかられたが、とりあえずベッドの上に戻した。
ベッドサイドに見つけた本は、持ったら朽ちてしまいそうなほど埃にまみれている。恐る恐る手に取ってみると意外としっかりしていて、開いても大丈夫だった。
中に書かれていた文字は日本語で、内容は日記らしい。
えっ、何で日本語と思ったが、読めるのなら助かる。
日記の持ち主の名前はわからないが、彼はダンジョンの中で魔法の研究をしていた。30ページくらい研究の内容や実験結果らしいデータが書き記されていて、途中から空白になっていた。
日記を読んで、まとめた内容を記す。
1.魔法を使うには、生命の腕輪が必要。
骸骨が左腕に付けていた金色に光る物が、生命の腕輪だと思われる。
2.魔法は、火、水、土、風属性が有る。
火属性の魔法に、火球が有る。どうやらファイアーボール的な感じ。
3.生命の腕輪に魔法陣を組み込むと新たな魔法を習得出来る。
習得には特別な魔法装置が必要で、王都や領都で行う。
4.研究室で死んでいた彼の個人情報。
名前は不明、独身、魔導士(魔法研究者)、この部屋は彼の研究室。
理由は不明だが、王都の研究所を辞めて来たらしい。
彼の保有魔法に、火球が有る。
日記以外の資料は発見出来なかった。
生命の腕輪は、ファンタジーの世界に飛び込むカギに間違いない。
あの金色に輝く腕輪がそうとは限らないが可能性は非常に高いだろう。
他人の腕輪では使えないかもしれないし、使えたとしてもデメリットが有るかもしれない。付けた途端に命を吸い取られて、彼の様に干からびてしまったら最悪だ。
先ほどの金色の腕輪を玩びながら、どうしようかと一人悩む。これを付けたら冒険が始まるかもしれなが、戻って来れなかったら大変だ。




