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第8話 鏡



「鈴木!」

 オレは鏡張りの壁にぶつからないようにしながら、鈴木の背中を追った。

 鈴木はオレと部活が同じだった。1年の時から同じクラスで、遊ぶ時も部活の時もよく一緒にいた。それもあって困った時にアイツがよく頼ってくるのもオレだった。

 今回の肝試しだって、そうだ。

「頼むよ、安藤。肝試し一緒に行こうぜ?」

 鈴木は山田のことが気になっていた。

「なんでだよ?」

「だってさ、グループで行くって言ったって山田と肝試し行けるんだぞ!」

 オレは正直、山田が苦手だった。美人系と言えば美人であるが、彼女は見た目に反して性格が悪い。その証拠に、山田の高野瀬に対する態度が高圧的で、いじめとは言えなくてもそれに近いことはしているのを知っていた。悪い噂を流したり、高野瀬の家に親がいないこととかを馬鹿にしたり。正直、同じ班になって肝試しに誘われて断ろうと思った。でも面食いの鈴木は外見だけが好みらしい。

「お前が行けばいいだけじゃん、オレ関係ないだろ?」

「だって、入江も一緒にいるんだぞ? 山田は入江好きじゃん? 入江いたらオレが入る好きないだろ!」

 たしかに、山田は公言するくらい入江が好きだ。

 休み時間に山田のグループが恋愛話を話しているのが嫌でも聞こえてくる。

「だからさ、安藤は山田から入江を遠ざけてくんない? 頼む!」

 そんなことをしなくても入江は、わざわざ山田に近づこうとしないし、傍から見ていて二人が仲良しとは言い難かった。どう見ても、山田が入江に言い寄っているって感じだ。

 入江は入江で高野瀬のことを気にかけているようだった。幼馴染とはいえ、特別な感情もなさそうだし、高野瀬を気にかけているのを見て山田が嫉妬しているようにも見える。

 無責任なことをいうけど山田とはぐれて、いやな緊張感から離れることが出来て、少なからずオレはほっとしていた。でも、鈴木は少し心配だった。ただ友達だからっていうのもあるし、鈴木はすぐにカッとなったり起伏が激しいし、思い込みも激しかった。

 だから、パニックになった時、アイツがどうなるかわからない。

「おい、鈴木!!」

 ようやく立ち止まっている鈴木を見つけてオレは、アイツの肩を掴んだ。

「鈴木!! どこに行くんだよ!」

「ん?」

 こちらに振り返った鈴木が、あまりにも落ち着いている。それに不気味さを覚えながらオレは言った。

「ここで遊んでる場合じゃないだろ……早く帰るぞ……」

「なんで?」

「なんでって……どう見てもこの遊園地おかしいだろ!!!」

 さっきみた観覧車だってそうだし、いきなり電気がついて、さらには閉まっていたシャッターは誰もいないのに一瞬で上がっている。

「早く帰るぞ……」

「帰る? どこに」

「おい……」

「ここは楽しい。帰らなくてもずっと遊べるだろ……?」

「お前、何言って……!」

 オレは鈴木の顔を見て、オレはぎょっとした。

 その顔は悪戯を考えている子どものような顔をしている。それに何か雰囲気が違う。

「ここって楽しいよな! 遊園地のアトラクション全部タダで乗れるんだぜ! もっともっと遊ばないとさ!」

 そういって鈴木はオレの腕を掴んだ。

「なあ、早く行こうぜ! まだ遊んでない場所がいっぱいあるじゃん!」

 あまりにも無邪気に言う鈴木に、オレは違和感を覚えた。

「お前……誰だ?」

 オレがそう聞くと、ピタリと鈴木の動きが止まる。

「誰って、お前の友達だろ? 何言ってんの?」

 鈴木はそう言ってにっと笑った。

 ぞっとした。

 ただ笑っているだけなのに、鳥肌が立ったのは初めてだった。

 そういえば、このミラーハウスの噂ってなんだった?

「じゃあ。オレの名前言ってみろよ……」

「…………」

 さっきまで笑っていた鈴木の顔が真顔になる。沈黙が続き、オレは言った。

「お前誰だよ……」

 こいつは鈴木じゃない。何となく、そう思った。それに、こいつはオレの名前を言えなかった。

 真顔だったあいつは、ニヤッと笑ってオレに言った。

「お前だって誰だよ?」

「は?」

「鏡で自分の見てみれば?」

 鈴木がそういうと、オレはすぐ横にあった鏡で自分の姿を見る。それは自分の姿だ。

 部活の練習のせいで焼けた肌。短い黒髪をしたオレの姿が、なぜかぐにゃりと歪んだ。粘土のように顔面が歪んでいき、それはもう誰なのかはわからなかった。

「うっ…………!」

 それと同時に頭を殴られたような痛みと眩暈がオレを襲い、床に膝をついた。視界が歪む。まるで地震が起きているのではないかと思うくらいグラグラと体が揺れ動いていた。

「キミはだれ?」

 頭上から知らない声がして、オレは顔を上げると、鈴木の顔が歪んで見えた。歪んだ顔は、まるでぽっかりと穴が開いたように黒く、まるでオレを飲み込もうとしているようにも見える。

「キミは誰?」

「一緒に遊ぼう?」

「ねぇ」

「ねぇ」

「ねぇ!」

「ねぇ!!」

 生温かい息が顔にかかった。

 心臓が早鐘を打ち、もう無理だった。

「うわぁあああああああああああああ!!!」

 オレは鈴木だったものを遠ざけようと、ソイツを突き飛ばしてそして……

 ガシャーン!!!

 ガラスが割れるような音が響き渡り、何かが床にキラキラと光るものが散らばった。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 床に手をついていたオレは呼吸を整えようとしていると、何か温かい物が流れてきた。

「!」

 ダウンライトに照らされてもわかる赤黒い液体。目の前には割れた鏡に体が倒れ込んだ鈴木がいた。ピクリとも動かず、ただ赤い液体を体から流している。

「え……鈴木……嘘だろ……オレは……」

 目の前が真っ暗になる。遠くの方で子どもの笑い声が聞こえたような気がした。

 




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