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第4話 入場




 カナカナカナカナ……

 ヒグラシの鳴き声が弱まってきた頃、私は裏野ドリームランドがある高台まで来ていた。

「なあ、こっちで合ってるのか?」

「合ってるよ! 地図のガイド通りだよ」

 上り坂をずっと上っていた私たちは、自転車を押して歩いていた。山田さんはスマホの地図アプリにある音声案内に従って私たちを案内する。

 だんだん陽が沈んできた。私は自分のスマホを見ると、時間はもうそろそろ6時半になる。山田さんの話ではここから遊園地まで一本道。まったく使われてなかったみたいで、この道に入る時、ガードレールが置かれていた。整備もされてなく、背が高い雑草もちらほら生えている。

 重たい自転車押しているのもだんだん疲れてきた。頬を伝って汗が流れてくるのが気持ち悪い。

「大丈夫か?」

 一番後ろいた入江くんが私に声を掛けてくれた。後ろから見ていてペースが落ちてきたのに気づいたんだと思う。

「うん、大丈夫……」

 私は笑顔を作って答えて、少し足を速めた。

「んでさ、その遊園地に……」

 山田さんと鈴木くん、安藤くんが何か話していた。

 ふと、安藤くんがこっちに振り向いて「あれ?」と声を出した。

「おい、入江ー! お前、何してんだよ!」

 私も振り返ると、入江くんは立ち止まってペットボトルのお茶を飲んでいた。

「疲れた……休憩しね?」

 だらっと自転車に寄りかかっていうと、鈴木くんも呆れた顔をしている。

「おいおい、お前この前まで運動部だっただろ。体力ねぇな」

「ほっとけ……ふわぁ……」

 入江くんはあくびをしながら言うのを見て、安藤くんは私を見た。

「女子より先に根を上げてんじゃん。てか、高野瀬も顔真っ赤だけど、坂道で辛かった? ちょっと休むか?」

 汗をダラダラ掻いている私が頬を触ると確かに熱い。

「うん……」

「おい、山田。ちょっと休むもうぜ」

「えー! 遊園地まであとちょっとだよ?」

 こんな暑いのになんでこんなにも元気なんだろうと思うぐらい、元気に言う山田さんに安藤くんはため息をついた。

「じゃあさ、どうせ一本道だし先に行く組と休む組で別れようぜ。どうせ、すぐつくんだろ?」

「……」

 山田さんはどこか納得できてないような顔をしていたけど、「しょうがないなー!」と言って渋々了解した。

「じゃあ、オレと入江と高野瀬が少し休むわ」

「あいよー、んじゃ、オレと山田は先行くな?」

 鈴木くんと山田さんが先に歩いて行く。

 入江くんは私たちの所まで歩いてくると、涼しい顔で自転車のスタンドを立てた。山田さん達が見えなくなったのを確認してから入江くんが一言。

「こっそり帰らね?」

「あのな……」

 さすがの安藤くんも呆れた顔をした。

「お前、自由すぎだろ……」

「だって、お前……なんでこんなクソ暑いのに坂登りしないといけねぇんだよ……だるい。しかも肝試しとか……」

 入江くんは汗一つかいてない顔で、またペットボトルのお茶を飲んだ。

 私たちも自転車のスタンドを立てて、安藤くんはガードレールに寄りかかった。

「じゃあ、なんで来たんだよ。そもそも、断ればよかったじゃん」

「カイリのやつがうるさかったんだよ……」

「そういえば、お前ら幼馴染だっけ? 可愛い幼馴染の頼みを断れなかったのか?」

「ちげーよ……何言ってんだし」

 そういえば、山田さんと入江くんって幼馴染だったんだよね。私は学校を転々としていたから幼馴染なんていなかったけど。

 ふと私は小学校の頃のことを思い出した。山田さんが入江くんのことが好きだと周りに言っていた時期がそういえばあったような気がする。入江くんと仲良く話してると、山田さんがよく間に入っていたのを思い出した。

「それに、高野瀬だって本当は来たくなかっただろ?」

 急に話を振られ、私は驚いてびくっとしてしまった。

「え!?」

「小6の頃から怪談話になると、なんでも高野瀬を引っ張り出してくるし、今回の肝試しだって本当は嫌だっただろ?」

 入江くんがそういうと、いつもの眠たそうな目ではなく、きりっとした目で私を見ていた。

「あー……山田が言ってた遊園地で行方不明になったってやつ? どうせ迷子になったとかそんなんだろ、高野瀬?」

 安藤くんは私が遊園地で行方不明になっていたっていう話を信じていないみたいだった。それもそうだよね。6年前の話なので今でも調べればネットで記事が出てくるけど、実際そんな噂を聞かされても信じないよね。

「う、うん……山田さんが大げさに言ってるだけだよ」

「だよなー」

 安藤くんはそういって笑って言い、スタンドを上げた。

「もう行くぞ? あんまり遅いと山田になんか言われそうだしな」

「あいつ、うるせーからな……」

 ガタンとスタンドを入江くんがあげる。

「高野瀬はもう平気か?」

「うん、大丈夫。ありがとう入江くん」

 私も自転車のスタンドを上げて、自転車を押した。

 しばらく歩いていると、観覧車が見えてきた。

「お、あれが遊園地か……」

 夕日をバックに見える観覧車のシルエットが妖しく見えて不気味だった。隆お兄ちゃんに見つけてもらった時は夜だったし、お父さんとお母さんと一緒にきたときの観覧車に乗っていたはずなのに、その記憶があいまいだった。

 坂を上り、きると、錆びついた門が見えた。元々は白かったのだろう。メッキがはがれて赤茶の錆びが見えている。裏野ドリームランドの入り口には大きな門あって、鎖と南京錠がつけられていた。大きく「関係者以外立ち入り禁止」と看板も立てられている。

「どうやって入るんだ? 門を飛び越えるか?」

 門の柵はだいぶ高い。背の高い男の子なら問題ないけど、私みたいな小柄だと乗り越えるのは難しそう……

 門のメッキははがれていて、錆びて赤茶色になっている。触っても痛そう、それに蹴ったりしたら折れそうだな。

 でも、6年前に隆お兄ちゃんは中に入っていたんだろう。どこかのフェンスに穴が開いていて、そこから出たのを覚えている。

「おーい、安藤くーん!」

 山田さんの声が聞こえ、その方を見ると、山田さんと安藤さんが門から少し離れた茂みから顔を出していた。

「こっちに抜け穴があるよー!」

 私たちは見えないところに自転車を置いて、山田さん達がいるところへ行く。

 以前、私が使った穴だった。こんなところだったのは知らなかった。もっと穴は大きかったと思ったけど、人が一人通れるくらいで、私が大きくなったんだなとしみじみ思ってしまった。

「よーし、行くぞ……」

 鈴木くんが楽しそうに先に入っていく。そこから山田さんが行くのかと思ったんだけど。

「安藤くん、入江。先に行って」

「ん? なんでだよ?」

「私がスカートだから!」

 山田さんはミニスカートを履いていて、確かに屈むと中が見えてしまうと思った。

「わりぃわりぃ、気づかなかったわ!」

 安藤くんがそういって先に行き、入江くんは「んなもん履いてくんなよ……」とぼやいてフェンスをくぐって行った。

 山田さんと目が合った。山田さんは「ちっ」と舌打ちする。

「え?」

「先に行って……」

「…あ、うん……」

 なんでそんな機嫌悪そうにしてるのかわからなかったけど、そんな風に舌打ちされて、怖いというよりこっちがイラッとした。無理やり連れて来られて、なんでこっちが相手の機嫌をうかがわないといけないんだろう。

(早く帰りたい……)

 隆お兄ちゃんにまで嘘ついてきたのに、胸がむかむかしてしょうがない。

「山田も高野瀬も来たな……ここ、誰か来てんのかな?」

 フェンスの先には雑草がたくさん生えていて、人が一人分歩ける轍道があった。

「肝試しの有名なスポットだからね、私たち以外にも来てるんじゃない?」

(それ、うちの兄です)

 でも、隆お兄ちゃんが来たのは6年前に一度きり。だから他にもたくさん肝試しに来ているんだと思う。

「お、見えた見えた」

 開けた場所まで来ると、裏野ドリームランドの城、寂れた観覧車が見えた。陽が沈みかけ、観覧車と城のシルエットが重々しく感じる。

 私たちが出てきたのは遊園地の駐車場。アスファルトからは雑草がところどころ出ていて、入場門が見えた。

 チケット売り場にはシャッターが下りていて、テナントのガラスは砂埃で曇ってしまっていた。

 薄暗いからかな……そのテナントの中に誰かがるんじゃないかって勝手な想像が広がっていく。

「雰囲気あるな~」

 鈴木くんが楽しそうにいう。

 でも、私は昔の自分がこんなところに一人でいたんだと思うと無知って怖い。今の私は薄暗い建物や木、物影に全て人影が潜んでいるかのように見えてしまって仕方なかった。

 みんな懐中電灯を出して電源を入れた。

「さて、行くよ」

 回転式の入場口は錆びついて、壊れて動かない。でも、錆びのせいで壊れているところもあって簡単に中に入れた。

「ただで遊園地に入るなんて悪いことしてる気分だ!」

「いや、そもそも勝手に敷地内に入るのがいけないことだから」

「マジかよ!」

 安藤くんと鈴木くんが先に入っていく。

「入江、行こう」

 山田さんが入江くんの手をこれ見よがしにつなぐ。でも、入江くんはそれを払った。

「子供じゃないんだから繋がなくてもいいだろ……」

 入江くんはそういって中に入る。山田さんは一瞬固まっていたけど、すぐに追いかけていく。

「おい、高野瀬。いくぞ」

 入江くんが私にそういい、私は頷いて入場門をくぐった。





「ご来園……ありがとう……ございます」




 門をくぐった瞬間だった。まるで耳にこびりつくような低くかすれた声が聞こえ、私はぞっとしてバッとその声が聞こえた方を向いた。

 もちろん、チケット売り場はシャッターが下りているし、本来チケットを確認する場所に人はいない。

(何、いまの……?)

 鳥肌が止まらない。誰の声だったの? ただの気のせい?

 うすら寒いものを感じ、思わず私は腕を擦った。

「おい、高野瀬―!」

 安藤くんが呼ぶ声も聞こえる。

 私は収まらない鳥肌を擦りながらみんながいる場所へ駆け寄った。




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