第21話 逃避
ダメだ。もうダメだ。
目の前に倒れている鈴木だったものはもう動かない。いくら呼んでも叩いても。
いつもだったら「やめろよ~」とか言いながら笑っているのに、もうあいつがそんな風に笑うことはない。
どうしよう、どうしよう……!
オレが鈴木を殺してしまった。わざとじゃない。わざとじゃない。だって、オレは化け物から逃げようとしたのに。
「おーい」
奥の方から高野瀬と入江の声が聞こえてきた。
隠さなきゃ……
近くに台車と段ボールを見つけてそれに鈴木を入れる。
外に出て近くにアクアツアーがあるのは高野瀬がもらったパンフレッドを見ていたから覚えている。それに、あのアクアツアーの噂話も。
オレはアクアツアーの水辺までくると、段ボールごと鈴木を落とした。
ドボン……
大きな音を立てて、段ボールごと、鈴木は水底へ沈んでいく。
オレはそのままドリームキャッスルの方へ向かう。
「オレは悪くない。オレは悪くない。オレは悪くない。オレは悪くない。オレは悪くない。オレは悪くない。オレは悪くない。オレは悪くない」
そう呟きながら。
「アハハ」
「キャハハ!」
笑い声がオレの耳に届く。
オレは振り向くと、小さな子どもの影がオレの後ろに立っていた。
「ポイステダ」
「イケナインダ」
「イケナインダ」
くすくすと笑いながらオレを指さししているその影に、オレは苛立つ。
「見てんじゃねぇよ!」
「コワイ」
「コワイ」
「オコッタ」
「オコッタ!」
子どもはそう言いながら逃げていく。
オレはそのままドリームキャッスルの方へ向かうと、背後でオレを呼ぶ声が聞こえ、振り返った。
それは入江だった。高野瀬と山田も一緒だ。
入江と目が合ってオレはなぜかドリームキャッスルの中へ入ってしまった。
鈴木はどこに行ったのか、追及されるのが怖かった。
真っ赤な絨毯が広がっている城の中は、エントランスホールになっていて、目の前には大きな階段があった。電気が灯っていないシャンデリア、蝋燭台。オレは適当な部屋に隠れると、またクスクスと笑い声が聞こえた。
「ニゲテル」
「ニゲラレナイ」
「ニゲラレナイノニ」
誰もいないはずの部屋で、誰かがオレに言った。
「うるさい! うるさい!!!」
「ナンデコロシタ?」
「ナンデ?」
耳障りな声が頭の中で木霊する。
「うるさい!!!! オレは殺したくなかった!!!」
子どもの笑い声と共に、誰かが自分を責め立てる。
オレは顔を上げると、目の前にはちょうどいい踏み台と天井から吊るされた縄があった。
ああ、逃げ出すにはこれしかない。




