第1話 肝試し
冷房が効いた教室で、給食を食べている時だったと思う。
「ねぇ、肝試しに行こうよ」
「え?」
夏休みが間近に迫ったある日、給食の時間に同じ班の女の子、山田さんが言った。
真っ直ぐ伸びた黒髪、狐のような細い目をした彼女、山田 海璃がニヤニヤしながら言うのだ。
「肝試しだよ、肝試し! 今年で中学最後の夏休みじゃん? 思い出作りに行こうよ」
そう山田さんは言うけど、私は肝試しにいい思い出なんて作れないと思った。怖いのが苦手というのもあったけど、正直、私は山田さんが苦手だ。
私が黙っていると、私の隣の席の鈴木 陽介くんが言ったんだ。
「お、いいじゃん! 面白そう!」
「どこ行くの?」
もう一人、陽介くんの正面に座る男の子、安藤 祐樹くんが牛乳パックにストローを差し込みながら言い、二人の反応に山田さんは満足しているのか嬉しそうに言った。
「ほら、近くに有名なところがあんじゃん!」
「有名なところ?」
「裏野ドリームランドだよ! ……ね? 高野瀬さん?」
山田さんが私を見てにやりと笑った。
やっぱり私は山田さんが苦手だ。
「……」
でも。私は答えなかった。無視して給食を食べていると、机の下で私の足を踏んづけた。
「!?」
「ねぇ、高野瀬さん。あそこの噂。知ってるよね?」
にやにや笑いながら、他の人に気付かれないように私の足を踏んでくる。
「さあ、知らない。私、興味ないから」
踏まれた足を引いて、椅子を少し引いた。まだ足が痛い。嫌味なくらい長い足が恨めしい。狐のような細い目をしているけど、クラスでは美人系の山田さんだ。それにクラスでは中心にいるような子だ。地味系な私は陰にいて、スッと離れるのが一番なんだけど、なんで同じ班になっちゃったんだろう。
「知らないはずないでしょ? 高野瀬さん、あそこで行方不明になってたって話じゃん?」
「え? それマジ?」
安藤くんが興奮気味に話に食いついてきて、山田さんの声が大きくなる。
「え、知らないの? 小学校で有名な話なんだよ……」
勝手に進められる話。波が押し寄せてくるような胸の動悸。息苦しい。
「カイリ、うるさい」
ボソッと呟くように言った声は、それはしっかり私にも他の人にも届いていた。
「なんだよ入江~!」
入江と山田さんに呼ばれた男の子、入江 裕行くんは眠たそうな目をして、頬杖をつきながら牛乳を飲んでいた。
「うるさいって言ったんだよ。それに裏野ドリームランドって先生に訊かれたらやばいんじゃね?」
入江くんがそういうと、山田さんも安藤くんも鈴木くんも先生がいる班の方へ向いた。
幸い先生は他の子と話が盛り上がっているみたいでこっちの話を聞いてない。
「じゃあ、また詳しい話はグループチャットで送るから……」
こそっと山田さんがいうと、じゅるじゅると音を立てながら飲む入江君が「まだ続けんのかよ、この話」とぼやいていた