第17話 嫉妬
最悪! 最低! ホントムカつく!
私、山田 海璃はもう限界だった。
息を切らしながら私は、ネオンで光る遊園地の中を走っていた。あんなに蒸し暑かった空気は嘘のようになくなり、虫の音も消え失せ、姿の見えない子どもの笑い声ばかりが聞こえる。
「最悪! 全部あいつのせいだ!!」
何もかもあいつのせいだ。私はクラスメイトの高野瀬 陽菜のことを思い出す。
小6のころ転校してきた小さい子。特に可愛くもないし、すごく子どもっぽい。私の方が男子から人気があるし、友達もたくさんいる。それなのに、入江は私に振り向いてくれないどころか、ずっとあの高野瀬ばかりを目で追っていた。
なぜ、入江があの子を気にかけるのかがわからなかった。入江は私とずっと一緒だった。
家が近所で、保育園も一緒。クラスが同じになることだって多かったし、登校班だって一緒だ。一緒に家にも帰って遊んでいたことだってあった。それなのに、入江は私に振り向いてくれなかった。それどころか歳を重ねるごとに入江は私から遠ざかっていく。
私はずっと入江が好きだった。入江にもそれを伝えている。けど、私に返事をしてくれることはなかった。照れ隠しだと思ってた。でも、それが違うと分かったのは、あの子が転校してきてしばらくしてからだった。
あの子が転校してきて、入江の隣の席になった。入江はあの子を目で追っていることが多くなった。みんなよりも小さくて顔も性格も幼い。私の方が可愛いのに。友達もいっぱいいて、男子から告白だってされたことがあるのに、入江はあの子ばかり見ている。
だから、私は今まで入江に好きだって伝えても返事が返ってこないのは照れ隠しじゃなくて、私に興味がなかったんだってわかった。それが悔しくて悔しくてしょうがなかった。入江があの子を好きなのかわからない。でも、あの子は今、入江の視界の中にいるのだ。私には見向きもしなかった入江があの子ばかりを見ていて、どうにかして私を見て欲しかった。
だから、わざとあの子の変な噂や家のことを話した。あの子が遊園地で行方不明になっていたこと、あの子の家に両親がいなくて、血の繋がってない兄と暮らしていること、いたずらしたし、悪口もいっぱい言った。
遊園地に来たのだって、怖がるふりをして入江に近づきたかった。本当はあの子をいたずらで置いて帰ろうとした。でも、あの子の傍には常に入江がいた。安藤くんもなぜかあの子を気にかけて優しくしてる。
ムカつく、ムカついてムカついてしょうがない。
「本当に最悪……」
いつの間にか自分は一人になってしまった。あの子を置いていって帰るつもりが自分だけが独りぼっち……最悪だ。
私は歩いていると、水が流れる音がした。
そういえば、ここには水のアトラクションがある。ちょうど、私が歩いている場所はそのアトラクションのアクアツアーがある。ボートで水辺の探索するやつだ。私はちょうど、そのアトラクションの船が見える場所まで来ていた。
水辺がキラキラとネオンのあかりに照らされて光っている。それがなぜか気持ち悪かった。
「……ん?」
水に何かが浮かんでいる。ゴミかと思ったがゴミにしては大きすぎる。
私は持っていたライトでそれを照らした。
ぷかぷかと浮いているものには大きな黒い毛玉が付いていて、布で覆われている大きな物体が見える。
「…………ひっ!」
それがくるりと回転した。
毛玉だと思っていたものは人の顔、そしてあの着ている服にも見覚えがあった。
「あ……ああ……」
それはさきほどまで一緒にいた同級生の男の子。一番、肝試しで乗り気だった鈴木くんの変わり果てた姿だった。
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」




