第13話 準備
オレは遊園地に陽菜がいると聞いて、急いで服を着替えた。さすがに仕事着であの遊園地に行くわけにはいない。
オレは陽菜の部屋に行くと、洋服かけにはやはり、あのパスケースがなかった。あの憎たらしいウサギの顔をしたパスケースは、6年前、陽菜が見つかった時に、持っていたものだった。父さんと母さんは捨てさせようとしていたけど、陽菜はなぜか捨てようとはしなかった。
オレは陽菜の部屋を出て、自室に行くと、もう使わないと思っていたメッセンジャーバックを押し入れから引っ張り出した。中から定期入れとお守り代わりのツールナイフを取り出す。ツールナイフはもうだいぶ使っていない。これは父さんが誕生日にくれたものだ。念のため開いてみようとするが、固くて開かなくなってしまっていた。
それをボディバックに入れる。バディバックにはスマホと財布、キーケースが入っている。オレは懐中電灯も探すが、それは陽菜が持って行ったようだ。メッセンジャーバックにあったライトの電池を交換した。
他にもメモ帳が三冊入っていたが、三冊も入るほどスペースがなかった。
「これでいいな……」
オレは定期入れの中を確認する。
チェーンの付いた定期入れの中に入っているのは、裏野ドリームランドの名前が入ったフリーパスだった。日付は違うが、陽菜が持っているものと同じだ。
「もう……行かないって決めたんだけどなぁ……」
オレは定期入れをボディバックにしまい込むと、スマホを確認する。しかし、陽菜から折り返し電話はなかった。何度も電話を掛けたが、ずっと通話中になっているため、留守電にもならない。
オレは戸締りを確認して家を出た。玄関の前で浅沼が待っている。
「高野瀬さん、遊園地の場所わかりますか?」
「……ここ、地元なんで大丈夫です」
オレはそういうと、車に乗り込む。すると、自然に助手席に乗ってきてイラッとする。
「……パトカーの方がいいんじゃないですか?」
「パトカーじゃ悪目立ちしますから。それにこの車乗り心地いいですし」
「……あー、そうですか」
オレは浅沼がシートベルトをしたのを確認して車を出す。
「地元、こちらだったんですか?」
浅沼がまるで世間話をするように聞いてくる。
「ええ」
お前とは話したくないという雰囲気をもろに出して、オレは短く返事をする。それでも浅沼は話かけてくる。
「いつまで住んでいたんですか?」
「……中学生の時まで」
「じゃあ、その後に高野瀬さんになったんですね……でも、どうして養子になったんですか?」
「そこまで話す理由はないです」
「おや、寂しい」
どの口が言ってんだ。オレはそのまま無言を突き通すと、そのまま浅沼はため息をつく。
そこから遊園地につくまでそれほどかからなかった。
ガードレールで道を塞いでいる所まで来ると、道路わきに車を止める。他の保護者や警察もいる。
「土地の権利者には許可を得ています。後は中に入って探すだけですね」
浅沼の後輩であろう。他の警察官も浅沼に頭を下げている。
遊園地までの坂を上っていると、また浅沼が話しかけてくる。
「そういえば、聞いた話なんですけど、高野瀬さん」
「……何か?」
「6年前にここで妹さんを見つけたのってあなただと聞いたのですが?」
「……それが何か?」
「遊園地にいたのは妹の陽菜さんだけだったんですか?」
何か引っかかる言い方に、オレは昔友達と打ち合わせした通りに話す。
「私は、遊園地の入り口で妹を見つけたので、彼女しか見ていないし、中に誰かいたかまではわかりません」
「中に入らなかったんですか?」
「入ったら不法侵入でしょう?」
鎌をかけようとしているのかわからないが、オレはそう答えると、浅沼は神妙に頷く。
「なるほど……ところで高野瀬さん」
「……なんですか?」
苛々が募り始めてきたオレに、浅沼がにやりと笑って言う。
「どうして妹さんが行方不明になった町に引っ越してきたんです? 別に、隣の町でもいいじゃないですか?」
「……あなたがうちの家庭事情を聞く必要が、どこにあるんです?」
単純に、職場までの通勤時間の短縮と借家が安かったからという理由だ。確かに、隣の市でもよかったが、中学、高校と交通に不便がない町がここだったのだ。それを警官に話す必要なないし、知って何になるんだ。
オレが浅沼に言うと、「やれやれ……」とため息をついて歩き出した。




