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第12話 義妹

「場所は何処ですか?」

「高野瀬さんの御宅です。車はお持ちですか?」

 オレは怪訝な顔で頷く。

「ええ、そうですが?」

 すると、浅沼さんの目が鈍く光った。

「ご一緒にてもいいでしょうか?」

「……いいですよ」

 あまりいい気分はしないがオレがそう言うと、浅沼さんは一緒にいた同僚に話をして、オレの車の助手席に乗り込んだ。

 自宅までまっすぐに帰ると、家の前に数人の大人が立っていた。一人は山田さんのお母さん。あのお母さんの顔はしっかり覚えている。他の人も授業参観で見たことがあるし、みんなが不安な顔をしていた。

「すみません、遅くなりました」

「お待たせしました。高野瀬です」

 オレが車から降りてそういうと、全員の視線がオレに突き刺さった。

 まるで責め立てられるような視線に、オレは嫌な感じがする。

「まずは状況を整理しましょう。高野瀬さんは、妹さんが同級生の御宅で花火をすると聞いていたのですよね?」

「はい、そうです。山田さんの御宅でと妹からは聞いています」

 オレは答えると、浅沼さんは低く唸る。

「実は、他の同級生たちみんな別々の子の名前を言っているのですよ」

「え? どういうことですか?」

「つまり、大人たちに隠れて花火をしている……のか、それともどこかに出かけているのか……妹さんから連絡は来ていませんか?」

 スマホには陽菜からの連絡はない。

「一度、かけてみます」

 オレはポケットからスマホを取り出して、妹の名前を引き出した。

 プルルルルルルッ! プルルルルルルッ!

 いくらコールしても陽菜は出なかった。

「でません……」

 オレがそういうと、山田さんのお母さんが顔を青くする。

「うそ……じゃあ、うちのどこにいるの!?」

「山田さん、落ち着いて……」

「うちの子も電話も既読にもならないわ……」

「うちの方でも捜索はしていますが、まだ見つかったと連絡はありません」

 浅沼さんがそういうと、誰かの保護者がぼそっと言った。

「もしかしたら……家出?」

「うちの子は家出なんてしないわよ!!!」

 山田さんが叫ぶように言った。

「まさか、誘拐!?」

「そんな……」

 オレがそう言った時、他の保護者の人と警官が山田さんを宥める。浅沼さんが「ちょっといいですか?」とオレを少し保護者達から離した。

「なんですか?」

「妹さん、どこか行きそうな場所とわかりませんか? 何か引っかかることがあるとか……」

「引っ掛かること……」

 オレは仕事に行く前の陽菜の様子を思い出す。

「そういえば、初めて友達の家で花火をするって言ってたのに、浮かない顔をしていたような気がします」

「浮かない顔を……ね」

 何か引っかかるような言い方に、オレは顔をしかめた。

「なんですか?」

「失礼ですが、さきほど保護者の方からちらっと聞いたのですが、高野瀬さんの御宅はご両親がなくなっていて、妹さんと二人暮らしだとか……?」

「そうですね、三年前に母と父が交通事故で亡くなりました」

 オレは普通に答える。それが一体なんだろうか。陽菜や他の子たちがいなくなったこととは全く関係ない話だ。

 浅沼さんは、まっすぐにオレの目を見て言った。

「高野瀬さん、あなたの妹さん。貴方と血が繋がっていないそうですね」

 笑いもせず、まるでこちらを疑り、すこしでも利益になりそうなものを引き出そうとしている。浅沼さん、いや、浅沼はそんな目をして言う。

 なんで警察にそんなことを確認されなきゃいけないんだ。

 オレは苛々が立ち込めてきた。

「…………それが今、妹が見つからない理由と何か関係があるんですか?」

 あまり言葉尻を強めないようオレはなるべく、平静を保つように言った。

 しかし、浅沼はこっちの気持ちも知らないで、いや、知ってこそなのだろうか。オレにとんでもないことを言ってきた。

「中学生で両親もいない、血の繋がってない男の人と一緒に暮らすなんて耐えられなくなったんじゃないですか?」

「は……?」

 無神経な物言いに、オレは低い声が出た。それでも浅沼は続ける。

「それに微妙なお年頃ですし、戸惑うでしょう。もしかしてですけど、貴方が妹さんに不純な気持ちを抱いて、それに気づいた妹さんが同じ班の子達に家出したいって実は相談してたんじゃ?」

 陽菜がオレをどう思っているのかはともかく、オレが陽菜に対して不純な気持ちも、兄弟としての一線を越えようなんて思っていない。

 オレは拳を握る。

「なんですか、その妄想……?」

 思わず声が低くなる。

「高野瀬さん、顔が怖いですよ?」

 まるでこっちをおちょくったような言い方だ。

「……それで……?」

 オレは睨みつけて言うと、浅沼は続けて言った。

「それで、どうなんですか?」

「どうってなんですか?」

「心当たりがおありですか?」

「ふざけんな!!!!!」

 オレは怒りが抑えきれず、大声を張り上げた。

 すこし離れた所にいた保護者の人たちが、ぎょっとした顔でこっちを見ていたけど、そんなことは気にしなかった。

 こいつの胸倉をつかんでやりたいと思ったが、それは抑えた。

「オレは死んだ陽菜の両親に誓ったんだ! 陽菜はオレが守るって、どんな目で世間が見ようと、アイツの兄になるって決めたんだ。それを不純な動機だ? こっちはどんな思いで今まで妹の面倒を見てきたと思ってんだ!!」

 6年前のあの日、オレは陽菜を、大切な妹を守ると決めた。多分、父さんや母さんは、自分たちでは陽菜は守れないと確信していたんだと思う。予知をして交通事故で死んだとかではなく、陽菜をあの遊園地から連れて帰ったのはオレだからだ。

「……大事な……父さんと母さんの……大事な娘なんだ……! 変な憶測でオレら兄弟のことを語るんじゃねぇ!!」

 浅沼はオレに驚いたのか、少し後ずさりをしていた。

「すみませんね……疑うのが仕事なもんで……」

「……」

 オレがそのまま睨みつけていると、警官がこちらにやってきた。

「先輩! 同級生の子から情報がありました! これを見てください!」

 やってきた警官が見せたそれは、SNSだった。

 山田海璃という少女の名前が書かれており、本名でやっているものだった。そこには今日の記事があげられていて、写真も載っている。その写真には陽菜の姿も映っていた。

「子供達は裏野ドリームランドという所に肝試しをしていたようです……」

 オレはそれを聞いて、さっと血の気が引いた。

「あの遊園地……?」



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