第11話 嫌な予感
妹の様子がおかしい。
オレ、高野瀬 隆は、仕事の休憩中にキャラ弁の作り方の本を眺めながら思っていた。
お年頃なのか、それとも受験に悩んでいるのか、夏休みに入ってから妹の陽菜の様子がおかしかった。
下着と畳むなとか、部屋を勝手に掃除しないでとか、それはいつものことだ。そのいつものことに対して反応が薄い。夏休み前にゲームを買って、ゲームを楽しむのだろうと思いきや、そのゲームすらも手付かずだ。
(やっぱり受験で悩んでんのかな……)
オレは中学の時、陽菜の両親に養子として迎えられて、高校受験も大学受験も受けさせてくれた。
血の繋がっていないオレを大学まで行かせてくれた養夫婦の為にもオレは陽菜を大学まで行かせてあげたい。
陽菜は商業系の学校に行って、高校出たら働くとか言っていた時期もあった。オレは陽菜に大学まで行って欲しいし、学生生活を謳歌してほしいと思う。
両親はいないし、兄貴のオレは血が繋がってないしで、陽菜は色々苦労している。おかげで学校の友達は少ない。
今日、陽菜が友達と一緒に花火をすると聞いて、オレは少し嬉しかった。今まで転校ばかりしてたし、こうやって友達と遊ぶことが少なかったからだ。
でも、今日仕事に行く時、陽菜は浮かない顔をしていた。オレの事を気にしてるのか、理由はわからなかった。
「お、高野瀬。何みてんだよ……ってキャラ弁か。妹さんに作ってあげるのか?」
突然、声を掛けられ、オレは顔を上げる。
休憩室に入ってきてオレに話しかけてきたのは、上司の坂田さんだった。40過ぎたおじさんで、陽菜と歳の近い娘さんがいるらしい。
「はい。来年、高校生になるんで弁当が必要になったら作ってあげようかなって」
「お前はホント、妹さんのために頑張るねぇ……普通妹のためにここまでやんねぇよ」
「はははっ! 両親から預かった大事な妹なんで」
「両親が他界して、歳の離れた妹のために家事も仕事も頑張るとか……ドラマの設定かよ」
これで血が繋がってないなんて言ったら、よけい言われそうだ。
「ははは」
「喧嘩とかしないのかよ?」
「この間も、妹の下着を畳んだら怒られましたよ」
「オレなんか、オレの入った後の風呂には入りたくないとか、洗濯物を一緒にするなって言ってるぞ」
「マジですか……陽菜もそのうち言うのかな……」
そんなこと言われた日には、部屋に引き籠ってしまいそうだ。
「まあ、それだけ兄貴が妹を大事にしてるなら大丈夫だろ……」
「だといいんですけど……」
オレがそう言うと、ポケットに入っていたスマホのバイブが鳴る。
「ん……?」
それは知らない電話番号からだった。普段はスルーしてしまうとこだが、オレは嫌な胸騒ぎがしてすぐに電話に出た。
「もしもし……?」
『もしもし、同じクラスの山田 海璃の母です。高野瀬さんのお電話でしょうか?』
山田海璃。確か陽菜とは小学校も一緒で、保護者参観で何度か顔も合わせていて、はじめの頃は陽菜やオレを気にかけてくれた保護者だった。それに陽菜が花火しに行っている御宅だ。
「あ、はい、そうです。妹がお世話になっております。山田さんの御宅で花火をさせていただくと妹から聞いています。挨拶が遅れてすみません」
後からお礼の電話を入れるつもりだった。
時計を見ると、時間は8時過ぎ。花火が終わったのだろうか。
しかし、電話口から聞こえたのは戸惑いの声だった。
『え……? あ、あの実はうちの子から御宅で花火をすると伺ったのですが……海璃は御宅にいないでしょうか?』
「え?」
どういうことだ……?
「いえ、私は今職場にいまして……妹からそちらの御宅に行くと聞いています」
『嘘……じゃあ、うちの子は何処に?』
「すみません、私も妹に連絡を取ってみます。また折り返しお電話をします……」
「坂田さん!」
休憩室に同僚の男の人が誰かを連れて入ってくる。
「ん、なんだ……?」
一緒に入ってきたのは警官の二人だった。
「ちょっと、アンタたち何しに……」
「すみません、私、警察署の浅沼と言います。高野瀬 隆さんでしょうか?」
警察官は坂田さんの言葉を遮って、まっすぐオレを見て言った。
オレは立ち上がってスマホをポケットに入れた。
「はい、私が高野瀬です。何か御用でしょうか?」
オレは浅沼と名乗ったまっすぐ見る。こういう時は堂々としてないといけない。職場にわざわざやってきたということはそれなりの理由があるはずだ。オレは犯罪もしていないし、いきなり逮捕状を突き付けられるなんてことはないだろう。
「御宅で中学生が花火をすると言った子たちの連絡が取れなくなっていまして。少しお話を聞かせていただけないでしょうか?」
さっき電話があった内容ことだった。
「すみません、私もさっき妹の同級生の保護者の方から連絡がありまして。私は妹から同級生の家で花火をすると聞いていました。子達……というと山田さんの娘さんだけじゃないってことですか?」
「詳しいお話はあとでお話しします。他の保護者の方からもお話を伺いたいので、ご一緒していただけないでしょうか?」
オレは坂田さんをみると、坂田さんは行ってこいと頷いてくれる。
「わかりました」
オレはそういうって浅沼さんと一緒に職場を出た。




