4・お兄ちゃんと王子 ②
領府に出向くため、平民にできる最大の正装に着替えたお兄ちゃんは、持ち帰った荷物から紙を取りだし、勉強机に備え付けられた椅子に座りました。行儀悪く足を組み、紙に視線を落とします。
「ヴォーレス・クリーヴス、爵位継承権をはく奪後、自宅軟禁。セドリック・カッター、爵位継承権はく奪後、闘技場に送り込まれる。クリフォード・ラングリー、爵位継承権はく奪後、市井に落とされるがそこでも事件を起こす。サイラス・ギルモア、教員免許取り上げのち退職処分。行方不明」
お兄ちゃんが無感情に読み進めていると、殿下がお兄ちゃんの方に向き直られました。それに気付いたのか、それとも書かれているのが終わったのか、お兄ちゃんが顔を上げます。
「カレン、カレンについては書かれていないのか!?」
「残念ながら、書かれていないね」
そういって、お兄ちゃんは紙を殿下に差し出します。それを受け取り殿下は食い入るように文章を追いますが、得たかった情報がなく、静かに紙を返されます。
「その報告書に俺の事も書かれてる。なのになぜさっき俺にあんなことを言った」
「そっくりな者かと思ったからだ」
「はぁ? 長年一緒にいたお前が、俺の顔を見間違えるわけないだろう」
殿下の言葉に、何も返さずお兄ちゃんは支度をするべく背を向けます。横から見るその表情が、悲しそうに見えました。
「長年一緒にいた君が、俺を誤解していたのに?」
「誤解……ああ、カレンに無体な真似をしたやつか。カレンは心優しいやつだからな、お前もつい手が出てしまっただけなんだろう。カレンも気にしていないと言っていた。それよりも、他の奴がだめだ。カレンが優しく気弱なのをいいことに、触れまくってあまつさえ……セドリックにキスされたと泣いていた時は、腹の中が煮えくり返りそうだった。ほかにも」
バンッ。
殿下の訴えを打ち切るように、お兄ちゃんは荷物を机に叩きつけました。驚いて、殿下がお兄ちゃんを見上げます。
「哀れで滑稽だな」
そういうと、お兄ちゃんは部屋を出ました。扉から見ていた私と目があい、何故か優しく微笑んできました。いや、お兄ちゃんはいつも優しいのですが、何かが違う感じがします。
「あとは任せる」
ぴんと来ました。やっぱりお兄ちゃんは冷たい態度を取りながらも殿下が心配なんだね。きっと何か理由があって殿下に冷たく当たっているんだわ。だったら、お兄ちゃんの分まで私が殿下のお世話をしなくちゃ。
「い、行ってらっしゃい」
お兄ちゃんに声をかけると、お兄ちゃんは軽く手を振って家を出て行きました。