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11、元婚約者、対面。

お久しぶりでございます!

それからというもの、私はオフィーリアさまとお兄ちゃんの会話を、信じられないように見聞き入っていました。初めはびっくりしたけど、オフィーリアさまの一面なのかなと思うと、すごく嬉しくなったのです。しかも、どこか楽しそうで、もしかしてお兄ちゃんの前でだけオフィーリアさまは公爵令嬢じゃないオフィーリアさまになられるのかもしれません。それってもしかして、オフィーリアさまは。


「そういえば、貴方隣国の王太子殿下に騎士にと望まれていると聞いたわ。まさか、受けるつもりじゃないでしょうね?貴方にどれだけ私が手間と金をかけたと思っているのかしら」


 開いた扇子の後ろから、オフィーリアさまが冷たい視線でお兄ちゃんを覗かれます。すると、お兄ちゃんはその場に跪き、騎士の礼を取りました。その動作がとても絵になっていて、やっぱりお兄ちゃんはかっこいい、と私は少し見とれてしまいました。


「卒業後、エヴァレット侯爵にお許しを頂けましたら、今までの御恩に報いるようエヴァレット侯爵及びエヴァレット領に奉公いたしたく思っております」

「そうね、お父様は貴方を私の騎士にしたいと思っているのだけど」


 そう仰ると、オフィーリアさまはお兄ちゃんにそっと手を差し出されました。ああっ、さすがオフィーリアさま、とても素敵です。

 そして、お兄ちゃんはオフィーリアさまの手を取り、真剣な表情でオフィーリアさまを見上げたのです。


「貴女が私でよろしいのでしたら」


 う……わぁ、これって騎士と主人の誓いみたいな場面なのかな!?えっ、これ私が近くで見ちゃっていいのかな!?

 そう心が躍る反面、私はどこかツキンと痛くなりました。2年前なら、お兄ちゃんが誓う相手はオフィーリアさまじゃなくて。

 そのように思ってしまった直後、背後からバンと何かが叩きつけられたような大きな音がしたのです。思わず音の方向を見ると、扉が大きく開かれ、ルークさまが壁にもたれながら立っておられたのです。


「オフィーリア・リリー・エヴァレット!!」


 ルークさまの出せる最大の音量で叫ばれると、壁伝いにその場で座り込まれました。反射的に支えなきゃと、体が動きかけて、オフィーリアさまに見つかったという恐怖で、私は体が石になったみたいに動けなくなりました。

 領主さまが目をかけてくださり、お兄ちゃんがオフィーリアさまの騎士になれると思った直後の、まるで裏切りのような行為を、どうして許してもらえるでしょう。私は、お兄ちゃんの部屋のカギを閉め忘れたことを、これほど後悔したことはないでしょう。そして、その裏切りにどう懺悔をすればよいのでしょう。考えがまとまらなくて、目の前がくらくらします。

 今にも命が消えようとしていたから仕方なく?なら、助かった時点で叩き出せばよかった。それが出来なかったのはやっぱり私はルークさまが好きで。そんな風に動けずにいると、不意にルークさまと目があいました。私にも怒りの表情を向けるのだと思いきや、ルークさまは血の気の引いたような表情を浮かべられました。

 いきなり動かれたから、苦しいのでしょうか。まだ本調子ではありませんのに。今すぐベッドで休まれないと傷に響きます。


「貴方は、どなた?」


 ルークさまに向かう体を止めるように、凛としたオフィーリアさまの声が部屋に響きました。私が見つけたボロボロの状態ではなく、どう見てもオフィーリアさまが知らないはずがないのに。

 すると、ルークさまは一瞬苦虫を噛みつぶしたような表情を見せられてから、その場に跪かれました。その姿は、オフィーリアさまの傍で跪いているお兄ちゃんと同じ騎士の礼で。何をおっしゃるかわからず、私はその場で立ちすくみました。


「ルーク・カーヴェル。そこのエマ嬢に生死の境をさまよっていたところを救われ、療養しております平民でございます」

「!!!!!!!」


 お兄ちゃんの時と違い、現在の名前で名乗られたルークさまの姿は、体調の悪さを感じさせないくらい凛とされて本当の騎士のよう。そんなルークさまに、オフィーリアさまはゆったりとした歩調で近づかれます。そして、手にしておられた扇子を閉じて、そっとルークさまの左肩に乗せられました。


「平民なのに、騎士の礼が完璧ですわね。本当に平民なのかしら?」


 トントン、とルークさまの肩を叩く扇子に、ルークさまの表情が歪んでいきます。いつものオフィーリアさまらしからぬ態度に、私は胸が苦しくなってきました。助けを求めるようにお兄ちゃんを見ると、何もするなと言わんばかりに小さく顔を横に振り返されました。


「平民でありながら、特例にて学院で学ぶことを許されましたゆえ、作法は自信があります」

「あらそうなの。それなのに、このような怪我をするなんてどうしてなのかしら」


 あんまりですオフィーリアさま!

 叫ぼうとした口を必死で抑え、私はじっとお二人を見つめました。追放されてからのルークさまやご友人の情報を集められたのはオフィーリアさまだとお兄ちゃんは言っていた。なら、そんな質問をしなくてもご存じのはずなのに。

 苦しくて苦しくて、目が熱くなってきます。けれど、何故か私の方を向いたルークさまは、大丈夫だと言わんばかりに淡く微笑まれました。それは一瞬で、すぐに一人の騎士のように下を向かれます。


「学院を追放され、城下に降りた途端暴漢に襲われました。多勢に無勢ではとても敵わず、倒れ意識を失ったのですが……無意識にこの町にやってきたのでしょうか。私は、この家の近くで倒れていたそうです」

「あらそう、それは災難だったわね。それで、貴方は何か得意なものはあるのかしら?体調が戻れば領民として雇ってあげなくもなくてよ」

「オフィーリア嬢!?」


 私には黙っているよう言ったお兄ちゃんが声を出す。けれど、オフィーリアさまは扇子をルークさまの顎に添えると、顔を上げるように仰りました。ルークさまが、その通りに顔をあげられ、お二人は初めて視線をあわされたのです。


「剣の腕は学院でも上位でした。語学は周辺5か国語を不自由ない程度には話せます。傭兵や通訳、翻訳などの職務に向いているかと思います」

「それは随分と有能ね。なら、体調が戻り次第領府に顔を出してみると良いわ。私の名前を出せば、通じるようにはしてあげる」


 そう仰ってからオフィーリアさまはルークさまの顎から扇子を離されました。すると、一人の騎士のように凛々しかったルークさまがその場に倒れられたのです。


「ルークさまっ!?」

「フレッド、部屋まで運んであげなさいな」


 オフィーリアさまの指示が出ると、お兄ちゃんは倒れたルークさまを部屋まで運んで行ったのです。体調が悪化したのかと思い、私も部屋に入ったけれど少し熱が上がっただけで息もしっかりしていて、ひとまずは安静にという事で、部屋を後にしたのでした。


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