1・ボロボロで倒れてた王子を拾いました。
私の名前はエマ・アシュリー。どこにでもいる平民です。容姿は十人並み、人ごみに紛れたら見つからない自信があります。でも、一人でいるとさすがに見つかりますよねそうですよね。
そう、今日も街で夕飯の用意を買ってきました。何にしようかな、少し肌寒いし暖かいスープがいいかな。お兄ちゃんからの仕送りが届いたから、懐はあったかいんだぁ、などと考えながら歩いていたからでしょうか。足元など全く気が回らず、ぐにっ、と柔らかいものを踏んでしまったのです。
「!!!!!!!」
焦って足元を見ると、なんて大きなボロ雑巾。これだけあればしばらく掃除に使えるわと現実逃避しかけました。はい、人間です。衣服はボロボロで傷だらけあざだらけなのですが、なんだか不穏な呼吸していますが、一応生きていらっしゃいます。
ああ、これって連れて帰らないとですよね。思いっきり踏んづけて関わっちゃいましたものね。
しかし、こんな大きいどう見ても男の人なんて非力な私では運べません。ゆえに、ごめんなさいすみませんと心の中で言いつつ引きずります。家まですぐそこですからいいですよね。
「お母さんただいま~」
引きずった男の人の手を放して、私は扉を開ける。すると、内職をしていたお母さんが目を丸くしました。そりゃそうでしょうとも、片手に夕飯の用意、片手に男のひとですもの。
「エマ」
「道で倒れててふんじゃったから連れてきた」
家では飼えません、捨ててきなさいとか言われたら捨ててこようと思ったのだけど、お母さんは大きくため息をついて男の人の足元に近づきました。
「仕方ないわね、お兄ちゃんの部屋でいいかしら」
隣国で特待生として学びながら偉い方の護衛だとかで、平民が暮らすには十分な賃金を貰っている優秀なお兄ちゃんのおかげで、私とお兄ちゃんには1つずつ部屋があります。私とお母さんで男の人の手足を持って、お兄ちゃんのベッドの上に載せました。思ったより重いです。
後は身ぎれいにしないとという事で、体格の似ているお兄ちゃんの服一式を使う事にしました。さすがに男の人の全裸を見るのは恥ずかしいので、私はお湯を作ったり、手当の用意をしたりすることにして、あとはお母さんに丸投げです。
顔を拭いたらどんな顔をしているんだろう。そんな好奇心は初めから出さなければよかったと後悔しました。実はかっこいい人かもねとかお母さんと笑っていたのに、顔を見たとたん2人して表情が凍りました。
そう、泥を拭ったら、この国の人ならだれでも知っている、王太子にそっくりだったのです。
タグで色々ネタバレしてる気がするんですが、後出しで「なんだ乙女ゲームか」とか思われるよりいいかな~と思いましたので。
ご覧いただきありがとうございます。