〜神の存在〜
僕の眼には未来が見える。
この力について知ってるのは、今は僕だけだ。
トラックに轢かれそうになった僕を庇って 死んだ母が僕に残した力。
母の最後の言葉は
「この力は人の為に使いなさい。」
血塗れの交差点で、母は僕に《眼》を託した。それがこの力だ。
眼を託したと言っても、本当に眼を外した訳じゃない。コンタクトのような透明な板を僕の眼にいれたみたいだった。それは死ぬ寸前まで外れない力だと知るのは、そう遅くは無かった。
この力は一体何のために僕に有るのだろうかー。何故母は今まで隠し通してきたのかー。
それは未だにわからない。
高校1年の入学式から3ヶ月が過ぎたある日。当然の様に僕はクラスで1人浮いていた。
母がいないからだろうか?それとも僕自身が明るい性格ではなく、1人教室の端で本を読んでいたからだろうか?
あぁ、勘違いしないで欲しい。「本を読んでいたから浮いてしまった」などと僕が思っては いない。本は世界の真理。全てのことがあらゆる言語と表記で書かれている神聖な物。
本好きでもクラスに溶け込んでる奴もいるからね。そいつと僕の違いは、「人と関わろうとするかどうか」なのだと自分の答えを出した。
結論から言うよ、僕はイジメられている。
勿論この力とは関係無しに。いじめは必ずと言ってもいいほど起こる〈差別〉の延長形。
人間ってのは自分と違うものが怖いんだ。
だから違う人間を差別し、軽蔑する。
そのターゲットに選ばれたのが僕だっただけの話だ。
今日もいつもと同じ様に過ごす。
だがそれは僕の〈いつも〉にすぎない。
朝 学校に来てスリッパをバックから取り出す。学校に置いて帰ると90%ぐらいの確率で無くなり、10%ぐらいの確率で汚されている。けど、そんなのはどうでもいい。
授業が始まれば、平和だ。何も書かれていないの黒板の未来を見る。全て書かれた状態に見えるんだ。
だから僕はチャイムと同時にノートに書き出す。そして10分もしないうちに全て写し終わると、僕はうつ伏せ 寝たふりをする。
こんな目で見る世界なんて、どうせつまらない。
目を閉じれば周りの声が無駄によく聞こえる。
「あいつまた寝てるよな」
「授業についてこれない落ちこぼれだろ?」
「コミュ障ってやつか?w」
「今度あいつの筆箱の中にゴミいれよーぜ!」
あぁ、うるさい。
うるさいうるさいうるさい...。
この眼も僕は嫌いだが、それと同様にこの耳も嫌いになっていた。
先生は何も言わない。イジメられてる事についても、寝ている事についても。一度僕を注意したことがあったっけ?確か僕のノートを見て文句を言う気が冷めたみたいだったな。まぁそれ以来叱られるどころか 注意すらされない。
キーンコーンカーンコーンッ
授業が終わる。
「次は昼休みだな...」
ボソッと自分にも聞こえないぐらいの声で呟く。父は仕事で忙しく、他に家族もいない為弁当はない。だから売店で腹を満たしに行くんだ。
...右。左..また左から...。
この眼は嫌いだが、役には立つ。
走り回るクラスメイトにぶつからずに廊下に出れるのだから。あいつらは昼食のことで僕の事なんか見もしない。
教室を出ると担任の先生が 奥の廊下から歩いている。この先生はいい人だ。前にクラスメイトから喧嘩を売られた際にお世話になったんだよね。
確か野球部の顧問をしてたっけ?
...あ、先生転ぶ。
先生が転ぶ未来が見えた。だが声はかけない。転ぶ程度、悪くて少し足をひねるぐらいだろうか。僕が声を出し、周りから「変な奴だ」と もっとイジメられるのよりはマシだからね。
そう思ったんだ。
だがそんなに現実は甘くはなかった。
先生は足を滑らせ転んだ。
...え?
未来が見えた。
...先生..ッ!!危ない...
遅かった。遅過ぎた。
転んだ先生は立ち上がる際に足をひねり、階段から転がり落ちた。ゴトンゴトンと低い音を出しながら。
僕が見た未来は
《先生の葬式》だった
先生は本当にいい人だった。どの生徒からも好かれ、僕みたいな人間にも優しく接してくれる。
葬式の中、先生の奥さんらしい人が大声で泣いていた。他のクラスメイトも、先生の家族もみんな。ただ僕は泣かなかった。いや、泣けなかったんだ。
涙が出てこない。
「...これは僕のせいなのかな」
いや、違う。先生は運が悪かったんだ。
偶々階段の近くで転んで、偶々頭を強く打っただけ。そう思い込むのが楽なのに。
そして、僕は全てを知って こう思った。
いい人間ほど早く死ぬ。
それは先生も、僕を庇って死んだ母も。
神はいない。いるならこんな世界を許すわけないだろ。
ならー。
「僕が神になれば救える人はいるのかな?」
って。
主人公が病んで行く系の話を書こうと思ったらこうなりました...まぁ!お試し書きみたいなものなので良いですよね笑笑
んー、なんか怖いね、、。