ずっと
春side
泰村さんというお手伝いさんが
水の入った皿とヒメを連れて部屋にやってきた。
「ゆっくりしていってくださいね。」
優しそうに目元を下げて微笑む。
捨てられてから水を飲んでいなかったのか、
ヒメは水に夢中だった。
「良かったら、お夕食をお食べになられますか?」
「えっ」
「そうだよ!春くん、食べていって?」
「でも…」
「あ、もうお家で用意されてるかな?」
「いや、そんなことはねぇけど…」
朝から晩まで忙しい 父ちゃんと母ちゃんは
めったに夕飯を作っていたりしない。
週に一度、ハウスキーパーみたいな奴はくるけど
メイドとか、シェフとか家政婦を雇っていないもんで、もっぱら自炊か美也のうちに世話になっていた。
「だったら、どう?」
「じゃあ、よろしくお願いします。」
「やった!波野さんにお願いしてくるね。」
嬉しそうに部屋を出た妃に呆気にとられていると
泰村さんが笑う。
「旦那様と奥様は世界で活躍されているもので、滅多に帰ってこないんです。
私も仕事がございますし、中々食事を一緒にできなくて。」
悲しそうに眉を下げた
「本当は甘えたいだろうに、我慢するんです。
例え相手が自分のご両親でも。
子供の時から。だから、あんなに嬉しそうに子供らしく笑うお嬢様は久しぶりで。
…春さん。」
「は、はい」
「お嬢様のこと、よろしくお願いします。」
「はい。」
まだ、会って間もないのに。
全然、どんな奴なのかわかってないのに。
「春くん!今日はオムライスなんだって。
好きかな?」
だけど
「うん。好き。」
この時、すごく思ったんだ
「良かった〜波野さんのオムライスは絶品だよ。」
こいつの側に、ずっといよう。って。