ドキドキ
春くんと仲良くなった健太くんは
一瞬顔を曇らせつつも、いつもの笑顔を浮かべた。
「春ちゃんと きっちゃん、知り合い?」
「え?ち、違うよ!」
「ちょっと、入学式で目があっただけ。な?」
…ちょっと、とは言えないくらいに
私は長く感じたのだけれど、
彼にとってはほんの数秒の出来事だったの
かもしれない。
「へ〜」
ふと、隣を見ると、美也ちゃんも神妙な顔つきだった。
…なんか、まずいこと言っちゃったかな?
疑問に思いつつも、なにも聞けぬまま
放課後をむかえた。
「ごめん、きっちゃん。このまま家族で出かけることになっちゃって。
一緒に帰れないや…」
「気にしないで?こういう行事ごとの日はお出かけするのが当たり前でしょ?
おじさんと、おばさんによろしく伝えといて。」
「うん、わかった。
きっちゃん、気をつけて帰るんだよ?」
「はーいっ」
ちょっと過保護な健太くんに手を振って別れた。
歩きなれない道を、1人で歩く。
ちょっとの不安と、大きな楽しみ。
自然と頰が緩むのを感じながら歩く。
目の前に、ふわり。と揺れる明るい髪の毛。
猫背気味な背中。
ゆったりと歩いていた歩調が止まる。
顔を向けたのは小さなダンボールだった。
ほんの少しだけ、耳のようなものが動いたような気がする。
…きっと、捨てられた動物がいるんだ。
暫くジッと見つめていると
彼はふんわりと笑いながら抱き上げた。
小さな、子犬だった。
動物が好きなのかな。
やわらかく笑いながら子犬と目線を合わせる彼に、私は目が離せなかった。