教師と付き合い始めた女性のお話
付き合いだしてもう何年になるだろう。
職員室でいつになくぼんやりしている彼が心配で声をかけたら、思いもかけず告白された。
恋愛感情なんて期待していなかったからとてもびっくりした。
でも同時に嬉しくて。
想いが通じたことに有頂天になった。
だから、気づかなかった。
彼が誰を本当は想っているかなんて。
自分も随分鈍感だと思う。
彼の想いに気づいたのは、彼女が卒業してしばらくしてからだった。
彼女から1通の手紙とともに送られてきた写真は、彼と彼女しか写っていなかった。
おそらく卒業式に撮ったであろう写真。
彼女はいつもかけていたメガネを外し、満面の笑みを浮かべている。
そして。
彼はカメラの方を見ることなく、タバコを吸ったまま彼女を見つめている姿で。
たった1枚の写真で彼の気持ちが分かってしまうほど、彼のことを愛しているから。
その写真を大事そうに机の中にしまっているのも。
時々思い出したかのように見ていることも。
全て知っているけれど別れることはできなくて。
時が経てば忘れてくれるはず、と思っていた。
自分にとっても可愛い生徒で、明るいいたずらっ子の彼女のことはとっても大好きだったけれど、彼を取られてしまうのが怖くて、早く忘れるように祈ってしまった。
だけど。
毎年夏と年始に律儀に彼女は葉書を学校に送ってくる。
彼は忘れることすら許されていないかのように。
まるで私の醜い心を浮き彫りにさせるかのように。
2人が会うことはないし、その葉書も一方通行で、彼からは何も連絡していないようだけれど。
送られてくる葉書は写真付きの、彼女の成長をうかがい知るにはぴったりのもので。
届くと眩しそうに魅入る彼が、その時はなんだかとても遠くに感じた。
ここに、私が、いるのに。
彼のそんな想いすら許してしまうほど愛しているのに。
「亮さん。」
「ん?どうした?」
「今度、私の両親に会ってもらえないかな?」
「……」
彼の気持ちを知りながら、優しい彼に甘えたまま、私は酷いことを言っている。
彼が苦しそうな顔をして何も言えないでいるのを、泣きそうな想いで見つめる。
もう、お互いに辛くなってきてる。
彼は彼女が卒業した時から時を刻むのを止めてしまった。
それでも私は彼と一緒に歩いていきたかった。
わかってる、終わりにしないといけない。
この関係は、始めから前にも後ろにも進むことはできず、ただ漂っていただけだから。
「嘘よ。実は、お見合いの話がきてるの。両親がかなり良い条件の人だからって薦めてきて。うちの両親、言ってなかったけど、結婚相手には家柄とかすごく気にする人たちでね、珍しく乗り気で、会えばたぶん結婚までいくと思うの。」
彼が何も言わないうちに一気に捲し立てる私は笑えているだろうか。
「だから、私たち、終わりにしましょう?突然ごめんね?でも亮さんとは家柄的に両親が絶対反対するから結婚できないし。」
涙は見せないように。
嘘もばれないように。
最後まで、ひきつってでも笑顔で彼に告げる。
少しでも。
少しでも彼が想い出として私を残してくれるなら。
笑顔の私でいたいから。




