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願いは呪いとともに  作者: 氷雲しょういち
第一章 戦い(バトル)と遊び(ゲーム)
9/21

第9話 脱獄戦士

 人は争わずにはいられない

 望まずにはいられない

 先へ進まずにはいられない

 守るため?違うだろ?

 お前も俺と同じだろ?


1―高田啓

『本日未明、何者かの襲撃により極悪犯罪者・関川(せきがわ)たけしが脱獄しました。この際、看守であった二名の警官が何らかの巨大な鈍器で胸を打たれ、即死した模様です。また現場には、』

 テレビから流れる事件に目を流した。隣にいる部下は肘をついてぶつくさ言った。

「せっかく、高田さんが捕まえたのに……」

「そりゃ、また捕まえるだけさ。だけど、どうやって牢獄から抜け出したかだな」

「ドデカい鈍器……誰か内通者でもいるんすかね?」

「だが、現場には水たまりとぶち壊すような跡だろ?あとは他の囚人の証言だけだな。メディアにまだなら、署に行けば、また聞けるだろう」

「んー……」

 顔をむくれさせ、ラーメンをすする。

「あー、やっぱ豚骨最高っ!で、こないだの話っすけど、」

 俺はようやく言うか。と呆れていた。

 ラーメン屋に来て、テレビで流れる関川そいつの話になったが、俺が聞きたかったのは、別の奴の話だった。

「あの金色の戦士の話ですが、」

 そう、金色の戦士(こいつ)だ。

  黒木田くろきだたかし。俺は、一番信頼できる、この一人にだけ、俺が戦士であるという事情を伝えている。

 俺は、黒木田と一緒に金の戦士の真相を見定めようとしていたのだ。

 戦士が鏡から現実世界に戻る際、鏡から現れた直後は戦士の姿なのだ。だからそれを利用した。

 金の戦士(あいつ)が鏡を通じてどこかに行くのは見えていたのだ。つまり、主催者ではなく、俺たちと同じ現実世界にもいる人間だというのは分かっていた。あとは確証として本体である人間を見ることだった。正直、どのガラスから出てくるかは賭けであったが、偶然ながら見つけることができたようだ。

「いいですか、高田さん。驚かないでくださいよ」

「前置きは良いから」

「金の戦士の正体は、大富豪の息子です」

「なるほど。それでコインか。……って、お前、よく尾行できたな」

「まぁ、警察っすから。で、名前が木戸雄哉っす」

「で、写真とかは?」

「これっす。犯罪歴はなかったっすけど、高校のほうで写真が」

 俺はそこれを見て、確信した。あとは、尻尾を直接つかむだけだ。

 そう考えて、俺は黒木田に礼をした。

「よし、ならその豚骨はおごりだ」

「ありがとうございます。でも、まだっすよ。おごるのは、先輩が生き延びてからにしてください」

「ハハッ、言うねぇ」

 俺は同じく豚骨を飲み干し、椀を置いた。


 そして数日後、鏡の世界で奴を引っ張てきた。

 俺が誘い込んだのだ。わざと姿を見せ、こちらに入り込んだと見るや隠れ、背後に回った。

「よぅ、金の戦士さん。いや、木戸雄哉」

 木戸は驚いたように、バッと振り向いた。

「お前、どこでそれを……」

「おや、よかった。ちゃんと当たりだったか」

「なっ…………」

「戦士の素性とか調べてなかったか?やっぱガキだなぁ。俺ぁ、警察だ」

 俺は親指で自分を指し、そう言った。

 そして元々召喚していたγブラストを突き付けた。

「さぁ、いろいろ教えてもらおうか。悪ガキくん」

 そう格好つけた直後、強烈な打撃を背後から受けた。

 その手には『紫』、声は聞き覚えがあった。

 俺の捕えた、関川だった。


2―関川威

 俺は高田てめぇを恨んでる。

 俺を牢獄こんなとこに閉じ込めるなんてよぉ。

 俺は鎖を引きちぎった。

 ぶち壊して、ここに来た。

 楽しい戦い(まつり)の場所に。

 まずはてめぇと決めていた。

「やっと見つけたぜ。――高田ぁぁあ」


3―門中颯良

 紅太が俺たちに加わって数日、俺たちはモンスターをどんどん退治していった。

 俺はかなり近距離で戦うことに長けていて、伸幸は刀による中距離、紅太は斧の間の鎖まで利用したやや遠距離の攻撃で楽々と進んでいた。

 大学生で時間が比較的自由にできる俺はともかく、伸幸と紅太は高校がある。

 時間はやや限られるが、それなりに進んでいた。

 だがとある日、金の戦士と高田たちが戦っていたのに遭遇した。その攻防を紅太に従って、静かに見ていた。

 慄く金の戦士と、仕方なさそうに武器を構える高田、そして高笑いをしながら杖をクルクルとふりまわす”紫の戦士”。

 俺たちはその姿を建物の陰に隠れて、ジッと見つめる。

 どうやら高田の言うことから、”紫の戦士”が逃亡しているらしい関川だと分かった……その直後、不意に物音がして、後ろを振り向く。

 蓮桐だった。

「さぁ、これで終わらせるぞ、バカども……」

 蓮桐の二刀を二振りの斧で紅太が受けとめ、そのときにぶつかった伸幸は高田たちの元へ曝された。

 それを見て、金の戦士がコインを上に弾き、同時に俺はγブラストを召喚する。

 金の戦士が雷撃を込める一瞬前に、俺は何とかコインを撃ち弾いた。雷撃は軌道がずれ、金の戦士はたじろいた。

「チッ」「よしっ」「あぶっ!!」

 三人の声が重なる。

 それに被せるように、高田が何かを言おうとした。

 刹那、金の戦士はもう一つコインを弾いて、高田の方へコインを放る。そして流れるように三回・・、手を打った。

『FINAL ATTACK ORIGIN』

「言わせるかよ……!!!」

 金の戦士は強い殺気を放って呟いた。いつものように、指でスナップをかけるのでなく、手のひらから爆音とともに込められる。

喰雷怒グリード

 それが聞こえるか聞こえないかの合間で、恐ろしい圧の電撃が放たれた。

 グォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 目の前から飛んでくるそれを、高田は反射で、マントによって方向を歪ませた。

 雷の砲撃はそのまままっすぐに、関川に直撃した。

 ドォォォォォオオオオオオオオオオオン……………………

 とてつもない爆音が鳴り響き、あとにはバチバチと電子のぶつかる音が響く。関川のいた場所には白い煙が立ち込めていた。

 少しして、高田が自分のマントを見ながら言う。

「ひゅー……本当にどんな攻撃でも弾くんだな、こりゃ」

 金の戦士は盛大に舌打ちして、体をこわばらせる。

「助けてくれてありがとよ」

「バカ言ってんじゃ」

 金の戦士と高田がそう言い合う横で、は突然に吼えた。

「…………ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!」

 全員が反射的にそちらに目を向けた。

「「「「「「?!!!!!!!!」」」」」」

 奴は、関川は煙の中でむくりと立ち上がる。

「ってぇな……ちくしょう」

 全員が茫然とした。関川は、先ほどの雷撃をものともせずに、どこかを庇う様子もなく普通に(・・・)立っていた。

 関川は、グルンッと首を動かし、金の戦士に顔を向けた。

「おい、てめぇか?さっきのは」

 金の戦士の反応する前に、関川は右手を回して、杖を振った。するとそれは鞭となり、金の戦士に強打を浴びせた。

 急な一撃であったからか、金の戦士は吹き飛び、地面に叩きつけられた。

「なんだってんだ……なんだってんだよ、てめぇええ!」

 金の戦士は一気に立ち上がり、ありったけの金貨を上空に放った。

「俺がお前らなんかに負けるかよ!!!オレは頂点チャンピオンだ!!!」

 続けて三度、手の甲を押す。手のひらに爆撃を備えて、叫ぶ。

「邪魔「邪魔すんじゃねぇよ、弱者ぁ」

 それをかき消すように、重い声が落ちた。

 そして二振り目の鞭が金の戦士に、鋭く、素早く、重く、落ちた。

 鞭は落ちた先で、一直線に左肩から右腰を裂いた。

 金の戦士は、仮面の下で血を吐きながら言う。

「俺は……楽しくしたかっただけなんだよ……。なんで……お前みたいなやつに」

 左肩を庇いながら、金の戦士は雄たけびを上げる。それすら奴は、

「うるせぇ」

掻き消した。

『FINAL ATTACK ORIGIN』

「楽しくしたかっただぁ?俺が楽しいほうがいいだろうが」

 鞭は大きく振りかぶられ、紫の波動を纏い、叩き落された。

 重い重い重い重い、金づちは振り落とされて、金の戦士は爆散した。

 彼の最期の言葉は、一瞬で掻き消された。

 その顛末はほとんど一気に流れ――終わった。

「ハハハハハハハハハッ!!これがここでの感触か…………やっぱり、最高だぜ」

 それを見ていた戦士たちのうち、伸幸は叫んだ。

「お前、なんで殺したぁぁあああ!!!!」

 それを聞きながら、関川は高笑いをやめ、静かに言った。

「何言ってんだ……俺の武器と、てめぇらの武器は同じようなもんだろぉ?つまり、てめぇらもどぉせ、俺と同類だろ?」

 伸幸は刀を振るい、駆けた。伸幸の刀と関川の杖が交差する。

「オレは強くなるために!人を守るために戦士になったんだ!こんな、こんな人殺しをするためなんかじゃ決してない!!!」

 ガリガリと二つの武器が擦れる金属音が響く。怒気を孕んだ刀と、舐めまわすように関川の杖が交わる。

「守るため?バカか。武器は破壊しかできねぇ。だいたい、」

 刀をかち上げ、関川の視線はフッと、熱をなくした。

「強くなる?ならもう、叶ってるじゃねぇか」

 殴り捨てるように、杖は降ろされた。意表を突かれた伸幸は容赦なくその斬撃を受け、二、三歩よろめいて、後ろに倒れた。

「まぁ、そいつらの中じゃ、目も当てられねぇほど弱者だがなぁ。だから、……お前は消えろぉ」

 伸幸は血を吐いたかと思うと、突然、戦士としての鎧が解けた。

 それを見て、俺は駆け出した。その合間に、目の端で関川に三人が襲いにかかった。

「よぉ、関川……楽しそうに暴れてくれたな、てめぇ……」

「とはいえ、邪魔者バカを一人排除してくれた礼は、してやるよ」

「とっととあなたもご退場願いますよっ!!」

「ははははっ。おもしれぇなぁ、お前らぁ……」

 武器と武器とがぶつかる音が鳴り響く。が、俺の耳にはもう、届かない。

 俺は伸幸の隣に行った。

「おい!伸幸!!」

 必死に伸幸を揺する。伸幸はゆっくりとその口を開いた。

「カード……切れちまったみてぇ……オレ、死ぬかな……」

「そんなわけねぇ!!死ぬんじゃねぇえ!!」

「無茶言うなよ……オレは弱いからこそ、強さを願った、んだ……」

「…………でも……こんなとこで死ぬなよ……まだ夢は、願いは叶ってないじゃねぇか!」

「…………なぁ、颯良、」

「…………なんだよ?」

「前の河辺でさ、頑張ったな、って……言ってくれてありがと……」

「あぁ…………」

「だからオレからも言わせてくれ…………」

「……………………」

「頑張れ、颯良」

 俺は震えていたと思う。声が少しずつ小さくなっていく伸幸に、震えていた。

「ずっと、ずっと友達だぜ……………………………じゃぁな、颯良」

 それを言い終えた伸幸は、一気に重くなった。

 脱力して、自分の胸に置いていた手は、トンッと小さく音を立てて落ちる。

 俺は固まっていた。仮面越しから、伸幸の最期を見届けた。

 少し離れたところで、伸幸の契約したモンスターらしい人型の何かが立っていた。

 だがそんなものは、いや、伸幸とあいつ以外の全ての存在を考えることなく、伸幸をその場に置いて、俺は立ち上がった。

 俺は――爆炎を放ち始めた。視線は、関川あいつにだけ注いでいた。


4―篠原紅太

 僕や数人の戦士が折り重なるように関川にぶつかりながら、僕は彼を観察していた。

 金の戦士の事情をほとんど知らないが、関川に二度・・向けられた雷砲はその痕跡を見る限り、とてつもない威力だったはずだ。だが、あの直撃を受けても、関川はほとんど傷が見られなかった。よほどの防御力を誇るのかと思って3人の攻撃による傷を見ていた。

 が、明らかに通常攻撃の方が彼は傷を負っていた。

 その意味を考えながら刃を交える。

 そして攻撃面では、彼の身体能力が高いのか、他の二人の攻撃を受ける時より重く感じた。そして自分の斧で何度鞭を弾いたか数え損ね始めたところで、後ろから猛烈な熱を感じた。

 物理的な熱と、意思的な熱だ。

 誰かの攻撃を横に弾いて、横から”炎の人”を見た。普通に考えて、あの人しかいなかった。

「颯良……先輩……?」

 僕がそう呟く中、関川が振り返りこう言った

「驚いたなぁ。てめぇも戦わねぇとか云々言うかと思いきやよぉ……」

 炎の人が、さらに火力を上げ、飛ぶ。関川は鞭を杖に戻して視点を定める。

「そんな風には見えなくて、安心したぜぇ!」

 炎の人の爆炎を纏った拳と、関川の杖が交差したとき、業火が散った。

 そのせいで高田も蓮桐も離れざるおえなかった。

 炎の人は何度も何度も、関川の上から殴っていく。

 そして強力な一撃で関川が吹き飛んだ時、全員のグローブからブザーが鳴った。戦闘終了の合図だ。

 高田、蓮桐は一瞬ためらいつつも、鏡に向かった。

 このブザーが颯良先輩のほうからも流れてきたのを聞き逃さなかった。

 燃え盛るhの斧中、颯良先輩は無言で炎を散らす。両腕を広げ、手から爆炎を放つことで空を飛び、再び関川に攻撃を仕掛ける。関川も、武器を構えた。

 二人とも退場の合図ブザーなど気にしない。

 それは潰し合いで潰れ合い。

 爆炎と重い打撃音がそこら中で木霊する。

 僕は必死に止めに走った。

 このままじゃ、颯良先輩が死んでしまう。そう、悟って。

「死ぬなんて……そんなことさせません。例え、僕の命に代えてでも……!」

 この攻防の中、おそらく止めに行けるのは一瞬だ。

 だから僕は、賭けをした。

 僕の一対の斧を繋ぐ鎖は伸ばすことができる。そして颯良先輩は実態を失っているとかそういうわけではない。なら、――鎖で縛って、せめて元の世界へ戻す。

 僕は先輩の動きをしっかり見て、斧を投げた。

「届けぇぇぇぇぇえええええ!!!!」

 僕の鎖はなんとか届き、あとは関川の鞭の要領だ。

 感覚で先輩を拘束し、鞭を振るうように鏡の方へうねらせる。

 先輩はなんとか元の世界へ戻した。僕の鎖はボロボロになったが。

 いきなりの力技をして、僕は肩で息をした。遠くの方で関川が舌打ちをしながら去っていくのが見える。

 僕は結城さんを一瞥して、先輩を送った鏡から元の世界に戻った。

 外は激しく雨が降っていた。

 その音に負けない声を、颯良先輩は発していた。

 大きな、大きな泣き声を。

 僕は静かに手を握りしめ、近づくことが怖かった。 どうすべきかと迷ってた。

 先輩の声は、心に刺さった。


5―???

 彼はただただ緩やかに。解けるように消えていった。

 死の匂いは消え、そこにはただ一人の寂しさだけが取り残された。

怒涛で、もう少し続きます。

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