第7話 二人の戦士
ようやく7/10。あと少し。もう少し。
力は欲され
欲は増え
視界は歪み
時は満ちる
何もしなくても世界は進む
いつの間にやら世界は変わる
永劫不変はありえない
1-門中颯良
金色の戦士は俺たち全員の前でこう宣誓した。
「さぁ、ゲームを始めよう」
と。
高田は金色の戦士に言う。
「アンタは何者だ?」
「私は主催者。このゲームの主催者さ」
「主催者?」
続けて俺も問う。
「突然主催者さんが来て、どうしたってんだ?」
「お前たちの戦いを加速させるために、私は現れた」
その時、蓮桐は呟いた。
「戦いを加速させたいのは俺もだ。だから、早く決めさせろ」
白の剣で標的を指し、金の戦士の右手側から駆け出す。
金色の戦士はそちらに見向きもせず、右手から雷を発した。そのまま軽くスナップを掛け、電撃を蓮桐の足元に響かせた。
バチィィィ…………ンッ
音も木霊する。蓮桐は寸で立ち止まり、俺たちは目を見張った。
続いて金色の戦士は足にも雷を纏わせたと思ったら、一瞬で蓮桐に近づき、手刀の一撃で屠った。
ここまでの流れが一瞬で行われ、俺たちの前に呻く蓮桐は転がる。
俺たちは反射的に後ずさりした。
さらに金色の戦士は流れるようにコインを取り出して、上空に弾いた。そこに手からの雷を発し、コインを貫いたり反射させて、俺たちの足元にも的確に、電撃が放たれた。
その威力、攻撃範囲は絶大だった。
「これが私の力の一片だ」
手を広げ、悠々とする金の戦士に、俺たちは誰も手が出せなかった。
「私は最後の戦士である。お前たちが勝ち残り、最後の一人が決まった時、その者は私と戦う。そこで私に勝つことができれば、願いが叶えられるのだ」
その言葉は俺たちに重くのしかかった。
今まではあの黒服に言われただけの、「勝ち残れば願いが叶う」という言葉が現実味を帯び、より具体的な目標が見えたからだ。だが、その条件は、特に最後の戦士と戦うことが重すぎる。
「主催者っつうことは、あのカードをくれた黒服か?」
「そうだ」
「加速させるって、具体的にどうするつもりよ?」
「とりあえず私の存在を示すことが第一だ。今までより具体的に目標を呈示し、そこに向かって走らせるために。それ以上は、追って説明しよう」
「ふぅん……」
高田は奴を値踏みするように静かに見ていた。
そして金の戦士は俺達4人を一周見回し、再び言った。
「ここからはより活性化した戦いになるだろう。最後の一人になるまで、戦え」
奴はフフフ、と微笑みながら光の速さで去っていった。
伸幸が口を開いたのは、その後からだった。
「とりあえず、これからどうすべきか、考えませんか?」
それに被せるように反応したのは、剣で無理やりに腰を上げた蓮桐だ。
「愚問だ。戦うしかない」
「だけど、アンタは手負い、俺ら三人はしょーじき今、戦意喪失してる。混乱してる、が正しいかもだが」
ため息をつきながら高田は言う。
「だから今日のところは停戦にさせてくれや」
高田はマントをはためかせ、手を振って帰ろうとする。
「ちょっと、待ってくれ」
それを止めたのは俺だ。
高田、蓮桐、伸幸を順にみて、言った。
「俺に、ちょっとした当てがある」
俺の言う当ては、鈴木だった。
軽く事情を説明して、俺は鈴木に電話を掛けた。
『おや、えっと颯良くん、だったかな。久しぶりだね』
「あぁ、鈴木」
『一応、私のほうが年上なんだし、せめて鈴木さんとかにしてくれないかな?』
「そこはいいじゃねぇか。――ちょっと聞きたいことがあってよ」
『お、なんだい?』
また鈴木に簡潔に金の戦士のことを説明した。
主催者の事なら、鈴木のほうが知っているのではないか、と思ったのだ。だが、
『んー、ちなみにいつ戦っていたんだい?その金の戦士とは』
「ついさっき。せいぜい10分前だ」
『なっるほどぉ。んー、一応1時間ごとに君たちの記録を見るんだ。だから現物をまだ見れてないんだけど、っとぉ』
電話越しにカタカタと音がする。
『…………うん。今画像として数枚、君の言う金の戦士を見てみたよ。けど、悪いね。知らない戦士だ』
手を挙げて降参している図が見える。
『おそらくはこれまで変身していなかったからこそ、私が存在を確認できていなかったのかもしれないが……すまないね』
「いや、ありがとよ。ほかの奴にも言っておく」
『え、他の、って、まさか他の戦士がそこに?!ぜひ、うちの研究室に!』
ブツンッ。
俺は電話を切って、三人と向き合った。
「どうやら知らないらしい」
「ふぅん……鈴木って、あのゲームの話の人だっけ?」
「あぁ」
「鈴木さんも分からないとなると、どうしようも……」
俺は腕を組んで考えようとした。そこに一つの通知が入る。
『最近大学どう?』
親からだった。
「あぁ、しっかり行ってるよ」
『ウソね』
「早いな」
ものの数秒で見破られた。
『まぁ、何かに励んではいるのだろうけど、大学もちゃんと行っときなさいよ』
そのまま切れた電話を見つめて、伸幸を見つめた。
俺は停戦を受け入れた。
そして数日、大学での授業を流して聞いたのだった。
2―木戸雄哉
4人の戦士が去ったのを見計らってから、オレは元の世界に戻ってきた。
鏡から出ると、金の装甲は一気に砕け散って消えていった。
そう、木戸雄哉、オレこそが金の戦士だ。もちろん、主催者であることは嘘だ。
約1週間前。ゲームセンターでいつものようにボロ儲けして、その帰りにあの変な奴に襲われて。黒服の男からの契約カードで金の戦士に変身した。
そこまでで直感した。
俺も当然しつくしていた『エンデスゲーム』の世界だと。
手の甲には『金』が記されていた。そこでコインを連想し、色から雷を連想した。
そう願ったら、手から雷撃と大量のコインがあふれ出した。文字の武器も簡単に出せたし、コインも雷撃もすぐに使いこなすことができた。
願って、こうしようと考えたら、全てが上手く行った。
ここまでも、計画通り。
オレは思わずニヤついた。
「さぁて。どこまで楽しませてくれるかな?」
3―???
昼休み。俺は背中に来る怒号と嘲笑を剥ぎながら、トイレに駆け込んだ。
息を絶え絶えにポケットをまさぐる。
そして灰色のそれを出して、握りしめた。これがあれば、きっと。
鏡に映る自分を睨んで、それをかざす。
『灰!灰!灰!Magical shadow!!』
俺は仮面を被って、灰色の戦士になった。
4―高田啓
資料の山の間にある鏡が煌いた。
違和感でそこを見ると、また変な奴がいた。
見たことのない、灰色の戦士だ。
「まいったねぇ……もう面割れてるの?」
ため息をついて、部下に軽く外出てくるとだけ伝えた。
心配そうな彼の視線に微笑んで答えた。
俺はめんどくさそうに、緑のデッキを取り出した。
5―門中颯良
俺は大学の帰り道、モンスターが人を襲おうとしていたのを見かけた。蹴りで鏡に送り返して、俺も、
「変身っ!」『青!青!青!All Drink!!』
鏡の世界へ入っていった。
伸幸と合流して、このモンスターを倒すのはこの数分後だ。
6―木戸雄哉
オレは退屈そう上空からに紺の戦士を見ていた。あいつは狂ったようにモンスターを倒していた。
戦士同士の戦いではなく、モンスターの狩りなど、面白くもなんともない。
ため息をついて、また出ようかと思ったが、目の端に緑の戦士と、もう一人を見つけた。
――新しい戦士、キタァァァアアア!!
オレはすぐに紺の戦士へ行った。
「紺の戦士よ、五人目の戦士が現れた」
オレに気付いた紺の戦士は剣を止めた。
「戦いの場へ、導こうか」
紺の戦士は荒々しく近づいてきた。
7―門中颯良
剣戟の音を聞きつけ、途中で合流した伸幸とそこへ向かった。
そこにいたのはαソードを召喚した高田と、鎖で繋がった二本の斧を振り回す灰色の戦士だった。
伸幸はたぶん何も考えてなくて、二人の間に割り込んだ。
「ちょっと、なにまた戦ってるんっすか!」
伸幸の刀でそれぞれを弾き、それぞれに言った。
「そこの灰色くんが突然襲ってきたんだよ?正当防衛ってやつさ」
そう言う間を縫って、灰色の戦士は伸幸に向かって斧を振り下ろした。
それを見て、俺は間に立ってΔシールドで受けとめ、ようとした。
だけど、灰色の戦士は、斧を寸止めしてきた。
「お前……いったい……」
俺は訝しんで相手を見た。
すると灰色の戦士は呟くように言う。
「もぅ、いい加減、気付いてくださいよ。門中先輩」
その言葉に信じられないような顔をして、返した。
「お前……まさか、紅太か?」
灰色の戦士、いや、紅太は微笑みながらこう言ったのだった。
「ようやく同じステージですね。颯良先輩」
個人的には金の戦士をもう少し引っ張ろうか迷いましたが、描写は簡潔にしてみました。さて、金と灰の二人の戦士。ここから、どう動くでしょう。