第5話 その資格を持つために
とある描写に悩んでいたら、いつの間にか年が明けてしまいました。すいません。今回は短めですが、動きます。
僕はあなたと対等か?
あなたとともにいていいか?
分からないけど追いかける
必死になって追いかける
1-結城伸幸
あれから夜が明け、次の日の放課後。ボクは颯良と川辺に来た。
そこから、話をした。ボクの長い長い話を。
背が低い男子。それは、なににおいても不利になる。
男の子と言うものは、幼少期から背が低いことでからかわれ、身体能力、運動面でもどうしても他の子に後れを取る。そうしてまたからかわれ、それはいつしかいじめになった。
いじめは周囲からの情報を根こそぎ奪い取り、ボクはどんどん周りに置いて行かれた。
それは劣等感を生み、どんどんいじめられる頻度は増えた。
背が低いことでできないこと、障壁は着々と増え続け、積まれていく。それが当たり前になって、また後れを取って、いつまでもいじめられっ子になり続けた。
そうやってその関係が変わらないことが怖くなって。ボク自身が変わらなくちゃいけないと思って。
変わることはできると信じて。
自分がいじめに立ち向かえる力。暴力じゃなくて、嫌なことを止めることができる、力。
ボクはそれが欲しかった。
ボクは、強くなりたいと願った。
そんなとこに至るまでをたどたどしく、思っているままに話した。颯良はあまり表情を変えずに、聞き終えた。
そして終わっての第一声は、「そうかよ」だった。
「俺はお前のそれには部外者だし、どうとも言えるもんじゃねぇ。とりあえず強くなりたい理由は、お前がなんでこんな戦いの中にいるのかは分かった。頑張れよ」
淡々と言う颯良にボクは呆気にとられ、
「…………それだけですか」
と口に出してしまった。
「ああ。お前にとってどんなに辛いことでも、所詮、俺にとっては他人事だ。逆に、俺がどんなに同情したって、お前の辛さはわかってやれてない。月並みだけどよ……」
ボクは顔をジッと見る。本気で言っているのか、と。
颯良は頬を掻いて、「ただまぁ、」と続きを言う。
「今まで、よく頑張ったな」
と。
それは今まで何人かに言われてきて、何度も励まされてきた。だからボクは、少し照れて、
「まだ叶いきったわけじゃないですけどね」
とぶっきらぼうに返してしまう。
そう、まだまだだ。自分に自信をつけて、ちゃんと闘うことができる、理不尽に立ち向かうことができる強さは、まだ足りない。そう、自分に言い聞かせた。
「まぁ、お前が変わりたいって思えただけでも十分だとは思うぜ。そうだな……なんだから夕飯おごるか」
「そんな先輩面しなくても、仲間っていうか、友だちじゃないですか。いいですよ、そういうの」
「ならお前……戦闘の時だけじゃなくて、こういう時も敬語外せよ」
「いや、ああいう時は無意識で!でも、一応年上だから!」
「そーいうの気にしねぇ、ってのをたった今お前が先に言ったろうが」
「…………」
ボクは迷って沈黙する。すると颯良はため息をついて言った。
「俺は、お前がすごいと思った。尊敬できる、すごい奴だと思った。お前を仲間だと、同格以上だと、改めて思ったんだぜ。だからお互い、そういうのはなしで行こうぜ、伸幸」
ボクは、躊躇いながらも、言った。
「分かった。颯良」
ボクらはそこでようやく、本当の意味で友達になれた気がした。
この戦いでの、初めての理解者に。
颯良がいてくれるなら、もう何も怖くないって、そう思えたのだった。
2-篠原紅太
突然の電話の突きの日、音信不通なままの門中先輩を見つけた。川辺で、高校生らしき誰かと話していた。相手は初めて見る顔だ。
僕は少し躊躇しつつも、それでも先輩と話したくて、そこへ向かった。
「門中先輩、こんにちは」
「おう、紅太」
そこで初めて先輩と話している人に気付いたようなふりをして、「あ、ごきげんよう」と挨拶する。
それを見て、門中先輩は言う。
「お、紅太。こいつ、伸幸っていうんだ。結城伸幸」
「は、はぁ……。結城さん、どうも。僕は篠原紅太。門中先輩の後輩です」
「初めまして。って、颯良、後輩なんていたんだ」
「いちゃ悪いか」
「いや、そうじゃないけどさ」
二人の軽口に、会って間もなさそうなのに名前呼びで。二人の近さに驚いた。それが第一印象だった。
僕は何かに殴られたような感覚に襲われた。
そのまま二人が談笑するのかと思いきや、突然神妙な顔になって近くの女子高生に目を向けた。
「そこの女の子!スマホを投げて!」
結城さんがそう言うと、女の子は「はぁ?」と訝しげな顔をする。だけど門中先輩が女の子を突き飛ばし、スマホが宙を飛ぶ。そのスマホの画面から信じられないものが飛び出した。明らかに異形の、ネコの化け物だった。
そいつは一気に川へ飛び込んだ。
僕と女の子は驚いて固まっていた。その間に門中先輩と結城さんが水辺の方へ走っていく。
僕は一瞬判断が遅れたが、直感でマズいと思った。化け物に生身で飛び込もうとしているのではないかと考えたのだ。だから叫んででも止めようとした。ら、二人は水面に向かって並んだ。そしてこう唱えながら身体を動かしたのだ。
「「変身!!」」
『青!青!青!!All Drink!!』
『赤!赤!赤!!Bravely Blood!!』
二人は異形の者になった。
そして川に飛び込み、二人は吸い込まれていった。
僕は走って水面を見た。そこに映っていたのは先ほど変身していた二人と化け物の姿だった。
二人は軽快に武器を召還し、戦っていた。さながらあのゲームのように。
そして倒し終えると二人は手を合わせていた。
怒濤の展開に、僕は追いつけなかった。
僕の感情は、追いつけなかった。
二人がここに戻ってくるまで、目の前が真っ白になった。
3ー門中颯良
俺は紅太にザッと説明をした。
俺たちはなにやら『エンデスゲーム』と同じような戦う力を現実に持っていること、俺達以外にも戦士がいて戦い合っていること。そして俺と伸幸は一緒にモンスターだけを倒すことを考えて戦っていることを。
そして伸幸と分かれて、俺と紅太が帰っている最中だった。
パトカーが真横に来た。窓が開き、一人のおっさんが声を掛けてきた。
「よぉ、お前、青の颯良くん、だよな?」
目を疑った。だが、その声はまさしく緑の戦士・高田だった。
「…………警察官ってのは、本当だったんだな」
「そんなとこも疑われてたんだな。まぁ、仕方ないか」
そいつは言いながら頭を掻いた。やけに普通っぽいおっさんだ。
俺は高田の話を聞き流しながらこいつをやり過ごそうとした。だが、
「この戦いの首謀者っての?主催者か?そいつのことを話したいんだが、どうだい?」
その言葉に引っ張られてしまった。
怪訝な顔をする紅太を他所に、俺は立ち止まり、やや躊躇しながらも高田の顔に振り向いた。
それを見ながら、高田は悠々とニヤついてきやがる。
「その顔は、興味あり、と思っていいよな?」
そう言いながらドアを開け、俺は招かれた。
「んで、そこの彼はどうするよ?」
「いや、紅太はいい。先に帰っててくれ」
「え、門中先輩、」
「出してくれ、高田」
「…………ふうん。まぁ、俺はいいけどよ」
そう言って、高田と一緒に車で走っていった。
小さく高田は言う。
「いいのかよ、あの子のことは」
「ああ。あいつは巻き込む気はねぇ」
「…………まぁ、懸命な判断かもな」
「で、さっきの話をしてくれよ」
「はいはい」
そう、あいつは巻き込んじゃいけないんだ。あんな命がけの世界なんて、きつい世界なんて知らなくていい。
俺はそう考えていた。
俺は高田の言葉に耳を傾けた。
4―???
車が去る中、茫然として彼は立ちつくしていた。
「先輩……」
彼の背後で一つのガラスが煌いていた。それは俺を映すガラスだった。
俺は、動いた。
第一章のようやく折り返しな5話目。お楽しみいただけましたでしょうか。ここから一気に戦火へ。