第4話 俺のために
長らくお待たせしました。第4話、「俺のために」。よろしくお願いします。
お前を嫌ってるわけじゃない
お前を憎んでいるわけじゃない
でも邪魔なんだよ
そこを退け
できなきゃ捧げろ心臓を
そう、ただ俺のために
1-門中颯良
俺は今まで、独りで戦っていた。俺の異質さに目を付けた暴力を弾くために。
それは無意味な争いで。無価値な諍いだ。だから他人を巻き込む必要はないと。巻き込んではならないと考えていた。
――でも、
「ちょっ、颯良!なに笑ってんの!!モンスターに囲まれてる真っ最中なんですけど?!!」
「ああ、悪い悪い。とりあえず……斬って撃って、倒しまくるぞ!」
「それ作戦でもなんでもないよ?!ただの力技でしかないよ?!!!」
「派手に動くな!円陣だ!」
「おお作戦っぽい……って、円陣?二人で??」
「お互いの背中を守れ!数は多いが、所詮は雑魚だ!消耗を削って粘れば、いずれこっちが有利になる!」
「なにそのゲーム感覚!」
文句を言いながらも、目の前の敵を着々と斬り倒していくのは、赤の戦士・伸幸。俺たちは30体ほどのモンスターに突如として囲まれていた。
俺もγブラストとζナックルで一体ずつ着実に削っていく。
そのギリギリ感は楽しかった。いや、戦士なのだから、1体や2体の化け物でそこまで消耗しないのは分かっているが、これだけいればそれなりの戦術が必要になる。
とにかく力技、のようにも見えるが、急所であり死角である背中の安全をほぼ確保した上でとにかく攻撃に出る。それは結構合理的であると思っている。
そうしてようやく半分ほど倒した所で、何かが降ってきた。
「助けてやろうか、お二人さん」
渋めな声。赤地のマントに、緑の紋章を宿した戦士である。そういえば、俺が会うのは二度目だった。
「第一に背中を守るってのは理にかなってる。それにたまたまとはいえ通りかかった身だ。これくらいは協力しよう」
言いつつγブラストをくるくる回しながら撃ち放っていく。そして近づいてきたら胴への蹴りで重心を上げ、無防備な足を崩し、倒れたところに銃弾を撃ち込む。そんな感じの戦法だった。
そしてラスト3体になったところで俺たちは一斉に、紋章を叩く。
『『Big Attack』』『Final Attack』
俺はζナックル、緑の戦士はγブラスト、伸幸は自分の刀でそれぞれを倒したのだった。
そうして小さく一息ついて、緑の戦士は言った。
「いやぁ、青の君、えっと颯良くんだっけ?君、この世界に入ってきて数日だよね。それでここまで戦えるなんてすごいなぁ」
「ちょっといろいろあって、日常でも喧嘩とかしょっちゅうだったんすよ」
「そうかいそうかい。元気だねぇ……」
緑の戦士がそう感慨深く言ったところで、「あの!」と伸幸が口を挟んだ。
「た、高田さん!」
「なんだい、伸幸くん」
「いきなり、なんで協力してきたんですか?結構……蓮桐さんと一緒にボクを襲っていたのに」
さきの戦闘では余裕を持たせてくれた助っ人ではあるが、俺が見た最初の戦いでは、蓮桐とともに伸幸を襲っていた。そいつが……どういう風の吹き回しだ?
俺と伸幸は訝しんだ。高田は、少し思案するそぶりを見せた後、口を開いた。
「いやぁ、蓮桐……あの、紺の彼がなんやかんや急いでいるのは知ってるだろう?」
「はい」
「それでまず戦士の数を確実に減らすって考えらしくて、それで彼、俺に言ったんだよ。赤の奴が、俺の願いを邪魔しにきてるってな。簡単に言えば、騙されたようなもんだよ」
「そんなっ!蓮桐さん、人を騙すような人だったなんて……」
「ちょうど青の彼が来てくれたから、一線は越えなかった。それは今思うとよかったよ」
「ですよねっ!あのときはボクもどうなることかと……」
そんなテンションで、伸幸はすごく簡単に話を受け入れていた。俺はそれなりの矛盾があるを感じたが、とりあえず、
「なんで蓮桐に騙されてたってわかるんだ?」
「俺は高い所が好きでねぇ、木の上から、さっきの君らの戦いを見てたんだ。それで、伸幸くんがそんな悪い奴じゃないって思ったからさ」
それを聞いて伸幸はパァッと顔を明るくした。俺は、「そうか」と一応納得したことを示す。
「で、さ、」
高田は口に手を添えて、言った。何かを企んでいるかのように。
俺はその顔をひとまず見逃してやることにした。
2-蓮桐戒人
俺はいつものように徒にあいつの病院に近づく化け物共を斬っていた。それが俺の日課だ。
これは俺の使命だ。
この命を賭してでも、俺はあいつを今度こそ守ってやる。
そう決めたのだから。
ようやく一通り倒し終えたところで背後から石が転がる音がした。まだ残党がいるらしい。仕方なく振り向いた。
そいつに勢いよく拳を振るわれて俺は弾かれ、続けざまに目の前からは鋭い刀の突きを浴びる。
そこでようやく気付いた。これは、バカ共だ……と。
だが俺は気付いた傍から意識を失った。己の甘さを悔いながら。
3-門中颯良
高田の作戦はこうだった。
囮として数体のモンスターを高田が誘い出し、蓮桐が混戦を終えた直後に、俺達二人で一発ずつ必殺技を放つ。それで気絶させるということだった。
そこから先をどうするのかを決める間もなく――というか伸幸がホイホイ賛同して――高田は集合のポイントだけ告げて走り去ってしまった。
そして、俺と伸幸は蓮桐を気絶させるとこまで成功した。
「よかった……上手く行ったね、颯良!」
「まぁ、ここまではな」
俺の言葉に無邪気に首をかしげる伸幸。そこですぐに高田が降りてきた。
「よくやってくれた、二人とも」
意気揚々と手を叩いて褒める高田。伸幸は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
高田はそのまま流れるようにこう口にした。
「んじゃ、そだね、伸幸くん――とどめ、差しちゃって」
伸幸が固まるのを感じる。俺も、気を張った。
「だって、俺も颯良くんも固有の武器がなくて必殺の威力が弱いんだよ。だから、君が、とどめを……なぁに、一太刀、首かカードに入れれば、たぶん終わるさ」
高田は何でもなさそうにそう続ける。蟻を踏みつぶすことを厭わない子どものように。
「どうした?君も願いを叶えるために戦士になったんだろう?これくらいしないと」
伸幸はもう、刀を持った手を降ろし、小刻みに震えていた。それに目敏く睨みをきかしつつ、高田は言う。
「現実でだって、ここでだって、生き残ることが大切なんだ。だから、あと一歩まで行ったのなら、|倒さなきゃ≪やらなきゃ≫」
「嫌だ」
高田の空気が固まる。
「戦う覚悟は、した。だけど僕は戦士を、人を殺したくない。僕は、僕はそんなことのために戦士になったんじゃないんだ……!!」
…………チッ…………。
舌打ちが、その場に響く。
「やっぱただのガキかよ」
重低音がその場に重みを落とす。
「で、颯良もトドメは嫌だって口か?」
「ああ」
「……ったく、やっぱガキと組むもんじゃねぇなぁ……」
高田は静かにαソードを出す。
「なら、俺が終わらすよ。まずはこいつを……」
そう言って振りかざす高田だが、同時に俺も剣を出し、高田の剣を受けとめる。
「やっと本性表したな、お前……」
「テメェもうるせぇな。指示通りに進めりゃ、お前らにも十分なメリットはあったろうに……!!」
「メリットどうので動いてんじゃねぇよ、俺達は……!!」
静かに言葉を交わしながら、剣先はギリギリと音を鳴らして交差させる。
「自分の思う正しい道に進むってか?」
「ああ、そうだな。俺は、俺達は、人を殺したりしない」
「道徳的だなぁ。ご立派なもんだ。だが、人を踏まずに進める道などない。この世界はな、自分がどうしたいか、そのためにどうすべきかをまず考えるべきなんだ。自由になりたい命がほしい力が欲しい……どれもほかの誰かを踏み越えない限り得ることのできないもんなんだよ。メリットデメリット考えて、ある程度八方美人に生きなきゃ、居場所も地位も、振るえる力も一気に失う!」
「それでも、俺が叶えたい願いを貫けないなら、損得なんて捨てなきゃならないんだ!それが覚悟って奴だろう!!」
「違う!覚悟ってのは、常に最前を尽くし、なりふりなんて構わず、踏み越えることができることだ!」
咆哮とともに刀が弾かれ、俺は大きく後ろに下がる。
「俺は永遠の命が欲しい!そのためにはなんだってやる……!ガキを騙そうが、誰かを手にかけようが……お前らを蹴散らしてでも!誰を踏み越えることになっても!だからよぉ!てめえらあ!!」
彼はその足で、地を踏みつける。
「俺のために死んでくれ………」
高圧的な重低音が、重く、重くのし掛かった。鼓膜は、心臓は、その言葉が本気だと教えていた。そこから唐突に彼は声色を変える。
「ふんっ、しばらく従順なまま利用してやろうと、良い気分で動かしてやろうと思ったのによ……」
起きあがった俺を前にして、彼はεアローを召喚し、即座に矢を引いた。
「ガキどもは、大人の筋書き通りに動いてりゃよかったんだ……上辺だけの人格者になるために命を落としたバカは警察でも何度も見てきた。お前らもそのバカと同じように悔やむがいいさ」
俺も遠距離攻撃としてγブラストかεアローを召喚しようと手を動かそうとした。が、
「おおっと待ちな……テメエの後ろには、死にかけの人質がいるだろうが……忘れたのか?」
蓮桐のことだ。下手に動けば……そっちもやられる……。
歯を食いしばりながら、視界の端で何かが動いた。
俺は緩やかに力を抜く。
「そいや……こいつ言ってたよ。お前の言うように、敵を踏み越えてでも願いを叶える覚悟がない奴がここにいるな、ってよ」
「そうか……で、それがどうかしたかよ?」
「俺には願いがない。自分がモンスターにやられて死にそうになってたんで、ただただ生きたい、って言っただけだ。お前のように、永遠まではいらねえよ」
高田の指が微かに動く。俺は構わず続けた。
「だから俺の願いは一応叶ってるみたいなもんなんだ。だから、願いはない。だけど、アンタみたいなのには抗わねぇと気が済まないみたいだ。俺の道は、俺が切り開かなきゃいけないんだ。だから……」
俺は万力を込めて、地を踏み、言った。
「俺が闘う」
直後、スプリンターのように駆け出し、一瞬で高田の懐まで飛びついた。
迷うことなく高田の胴に拳を振るう。それだけが、今の俺に出来ることだったから。
合図していたかのように、伸幸が後ろで紺の奴を流れるように掻っ攫う。
直後、4人のブザーが次々と鳴り始める。
後は、一矢報いた俺も伸幸とともに逃げただけだった。だが、俺の背後で高田は、前回の戦いではブザーと同時に逃げていた高田は、俺に殴られ大の字で倒れていた高田は叫んでいた。
「テメエらに何がわかる!!俺は頑張ってきたんだよ!!お前らの何倍も!何万倍も!!」
荒れ狂う奴は、拳で地を打っていた。
「少しくらい、ズルしたっていいだろうが……」
ギリギリ聞こえたその声は、くぐもっていた。仮面の奥が涙に濡れているかのように。
リバースワールドでの戦いは、そこでまた途切れた。
蓮桐は、伸幸いわく、すぐに起きあがって去っていったらしく、俺が着た頃には、もういなかった。
俺と伸幸は、ゆっくり夜道を歩くことにした。
「永遠の命、か……」
「ねえ、颯良……」
「んー?」
「颯良は、この戦い自体はどう思う?」
「突然だな……」
「うん。でも、願いがないのに、どうしてあそこまで戦えるんだろう……って思って」
「なんとなく、だな。たぶん」
隣では、鞄を持つ手に力が入った。
「うん、そだよね。……明日さ、放課後にでも話さない?」
「なんだよ?」
「ボクが戦う理由を、話したい」
俺は静かに頷いた。
赤い夕日は、静かに陰る。
戦闘中の掛け合いは、やっぱりその場のテンションで書くことが多くて、ようやく納得出来たから、でした。まだまだ起承転結の、起です。次回は第1章のターニングポイントです。またのお越しをお待ちしております。