第2話 戦い(バトル)と遊び(ゲーム)
さて、まだまだ序盤な第2話。
遊べ
狂え
武器を取れ
遊びと戦いは紙一重
それは虚構か現実か
全てを賭ける覚悟があるか
1―門中颯良
声は、突然響いてきた。
「戦え。戦わなければ生き残れない」
「戦え。最後の一人に勝ち残る為に」
「戦え――お前の願いを叶える為に」
頭に声はそう響き、俺はその声に向かって叫んだ。
「待て、なんで戦わないといけない!願いって、なんのことだ!!」
「お前はそこにいる戦士達と戦い、最後の一人になるまで勝ち残れば、願いを叶えることができる。それだけだ」
「戦わないっつう権利は、「ない」
相手は有無を言わせずに、俺の言葉にかぶせるように告げた。そして続ける。
「お前はすでにモンスターと契約している。戦わないのなら、為すすべもなくそのモンスターに喰われるだけだ」
「……選択肢は、ねぇってのか」
「そうだ」
最後にこう締めた。
「戦え」
と。
話が終わると、霧が晴れるように視界に戦場が広がった。
『赤』と『紺』と『緑』激しく剣は交じる。
それを見ながら、――俺はどう動くべきか、迷っていた。
ゲームだと思っていた世界に、人間……が現れ、命のやりとりをしているという。――何かを賭けて。
それ以上の情報を一切与えられず、賽は投げられた。
そのありえない状況を、俺はすぐに受け入れた。小説や漫画で何度も見てきた場面だ。
俺は無理矢理に足を動かした。徐々にスピードを上げ、走る。加勢したいと、思う方に。
俺の好きな|登場人物≪やつ≫なら、きっとこうする。そう、思う方に。
ほぼ二対一の、一となっている『赤』の方に。
俺は右足に力を込め、踏み出す。足元が爆発したかのように浮遊し、猛スピードで跳んでいく。
「赤の奴、頭下げろー!」
叫びながら手で|ε≪イプシロン≫を描く。
『ε……arrow』
現れたεの形をした弓を引き、矢を放った。
「え……うわっ、っとっと!!」
驚いてふり返った『赤』は弓を見て、反射的に頭を下げた。
矢の軌道は『赤』の頭上を抜け、『紺』の戦士の剣を弾く。
「ぐっ……!!」
さらに意表を突かれた『緑』の胸に向かって、『赤』は屈んだ体勢から剣を振り上げた。
「ぐあっ!!」
『緑』はその攻撃で体勢が崩れ、そのまま逃げるように何も言わずに駆けていった。
形勢は逆転し、俺と『赤』、対、『紺』になった。このまま追い返してやろうかと思ったところで、突如としてどこかからブザーが鳴る。
「はっ?なんだ?」
音源を探すと、自分の手からだと分かった。『赤』たちの手からも連鎖的に音が鳴り始める。
『紺』は舌打ちをして、早々とどこかへ駆ける。さっきまであんなに戦う気満々だったのに……とそう不思議がっていると、
「やばっ……ちょっとあなた!こっち来て!!」
焦り気味の『赤』に引っ張られ、駆けた。
そして、「あった!」と『赤』は何かを見つけたようで、一切の断りもなく、俺は近くの鏡に向かって投げられ、――俺はさっきまでいた世界を脱出した。ちなみにたまたま人がいなかったからいいのだが、俺は恥ずかしいほどの見事に転がり、地面に背中で着地した。
「いって……あの『赤い奴』……なにしやがったんだ……」
背中をさすっていると自分の姿が元の人間の姿に戻っていたことに気づいた。後ろから「よっ、と」と声が聞こえた。
『赤』の声だ。
ふり返る。そこにいたのは――少年だった。紅太より少し幼いくらいの。
「え、さっきの『赤い奴』……だよな?」
「赤い?あぁ、紋章のことっすね。ボクは『赤の戦士』で合ってるっすよ。って、髪、青っ!!」
「ってか、ガキじゃねぇか……」
「が、ガキじゃねぇよ!!16歳!!高校生だ!!っていうか、なんでそんな青いんすか!」
「高校生も十分ガキだが……いや、高校生にしても背、低くないか?」
「ボクのコンプレックスをいきなりイジるなぁ!!」
声を荒げる『赤い奴』。俺は年長者らしく、冷静だ。髪をいじられたしな。
「さっきの、こんなガキまで戦わせるんだな。っていうか、さっきの、いったい何なんだよ?」
「え、まさか、」
「『戦え』としか言われねぇしよ」
「なんにも知らないで戦ってたんすか?」
「契約だからなんだとかほざきやがるし」
「やっぱり契約も、済んでるんすよね……」
「『エンデス』との関連なんか全然話してくんねぇし」
「あの、ボクの話聞いてます?」
『赤い奴』はそう言いながら、頭を掻いた。
「えっと、なんて説明すればいいのかな……願いを叶えるため、の戦いなんっすよ。これは。正式な名前とかあるのは知んないっすけど」
「たぶん、カードが一枚あるはず。――あ、そうそう、それそれ。それは契約のカード。戦士の証です」
「そのカードを持つヤツは戦士に変身することができて、戦士の中で最後の一人になるまで勝ち残ることができたら、なんでも一つ願いを叶えられるらしいっす」
「で、あと、さっきみたいなモンスターは、戦士はもちろん、人も襲います。だから、そいつらを倒すために、ボクは戦ってる感じっす。ここまでいいっすか?」
――と、こんな一方的な長台詞を聞かされたわけだが、疑問なら、かなりある。どうやって契約だとか戦士とかの仕組みが実現できるのか、殺し合わなきゃいけないのか、願いなんて叶うのか。
だが、それ以上に俺は、アレとの関係性が一番気になった。
「なぁ、アンタ、」
「結城。結城伸幸っす」
「結城……『エンデス』、いや、『Endless end』ってゲーム知ってるか?」
「まぁ、名前だけなら。結構有名なやつらしいっすよね。やったことはないけど」
「そうか」
「それがどうかしたんですか?」
「いや、一つ確かめたいことがあってよ」
俺はそう言ってから携帯を取り出し、電話帳を開いた。指を止めたのは、エンデスゲームを俺以上に知ってる、紅太のとこだった。
2―結城伸幸
この戦いの初心者である人……ってよく考えたらまだ名前すら知らない人じゃん。説明を終えると、その人は突然電話を掛けた。曰く、
「よう、悪い、紅太!『エンデスゲーム』って、あの駅前のスーパーでもできるよな!……ああ、そうそう!……ありがとよ!じゃーなっ!」
早々に電話を切った彼は、ボクに向かって言った。
「よしっ、ゲームセンター行くぞ!」
と。意味不明だった。
「んじゃ自転車で……って俺の自転車、さっきの事故で壊れたんだっけ……くっそ……俺の移動手段が……」
そう言って突然嘆き始めたのを見て、いっそ心配になってきた。
そんな間に時計を見ると、もう昼休み。
――この時間から行っても無駄、だろうな。
そう思って、ボクはため息をつく。また休んでしまったけど、仕方ない。今はまだ。
そのうち、彼はボクに言った。
「よし、バス使うか」
どこへ向かうのかもわからなかったから、やっぱり意味不明だった。
無理矢理明るく話してはいるけど、不安はまだ抱えてる。
ボクは彼と、このままでいいのかな。
3―門中颯良
バスを使って俺と結城は駅前のスーパーに来た。買い物をするでもなく、一直線で向かったのはゲームセンターだ。
目的はもちろん、『エンデスゲーム』の秘密を知ることだった。
「ってわけだ」
「は、はぁ……」
俺は道中、目的の概要をあらかた話した。まぁ、頭の回転が遅そうだから、理解するのはもう少し後かもしれないが。
そしてさっそく俺(たち)は『エンデスゲーム』の筺を見つけ、中に入った。平日の昼間なので、邪魔な子ども達はいないし、たまたま誰も使っていなかったので、さっそくゲームを始め――
『You can't play this game. Please wait.』
という赤文字のメッセージがブザーとともに眼前に現れた。
「はっ……?」
俺のあっけない声とともに、なんかごついスーツの集団が現れ、流れるように気絶させられた。
とてつもない早業であった。
えぇっと、『お前はこのゲームできないからね。ちょっと待ってろ』ってとこか。まじか。
気がつくと、拘束具はなく倒れた結城の隣で、白い横長い小さな部屋にいた。
俺はおもむろに結城を起こしにかかる。結城はすぐに起きあがり、「ここは……?」と聞いてきた。俺も知らねぇが、とか言おうとした所で白いドアは開いた。
俺は身構え、結城は身体を強張らせていた。
現れたのは白衣を着た、若い男一人だった。
「やぁ、君たち。少々手荒にしてすまないね。あのブザーが鳴る客は初めてだったんで、多少なり歓迎を――さっきのはぶっちゃけ手加減の指示が遅れた。とりあえず連れてきてくれ、としか指示が間に合わなかったんだ。ごめんよ」
そいつは早口でそう捲し立てた。
「とりあえずさっきの詫びをしたいものだが、その前に質問をしたい。いいかな?」
俺はそこで一拍置いてから「ちょっと待てよ」とようやく口を挟めた。
「あんた、『エンデスゲーム』の関係者か?」
「そうだよ。というか、『Endless End』の開発者で、名は"鈴木寛人"だ。本来はゲームそのものを好きになってもらいたいものだし、僕を知らなかったことをどうこう言うつもりはないが、できれば覚えておいてくれたまえ」
「んで、なんで俺らはこんな風に連れてこられたんだ?」
「さっき君ら、対戦不可だったろ?正確にいうなら『Endless End』のプレイ不可、だが」
「それが、なんだよ?っていうか、なんでできねぇようになってんだよ?」
「君ら、“リバースワールド”に辿りついた“戦士”だろ?」
それらしいことを言われて俺は一瞬驚きはしたが、納得した。
「あの世界はやっぱり、『エンデスゲーム』と関係があったんだな」
「ご名答。というか、やはりそれを勘付いた上での来訪か。まず君らが戦士となって戦っていた世界・『リバースワールド』が存在し、その世界を調べるため、私が作ったゲームが『Endless End』だ。まぁ、もっと順序立てて説明しよう」
そこからの話は鈴木の奴は、長々とした説明を始めた。
「あの世界が発生したのが厳密にいつからなのかは私は知らない。ただ、私が名もない研究員だった時代に、私の後輩の一人が『戦士』となってその世界での戦っているという話を聞いた。もちろん最初は根も葉もない夢のような話だって流したさ。だが、ある日、別の研究員が鏡から突然現れたモンスターに襲われた。それを見てようやく信用したよ。そういう世界の存在を。
そこからは『戦士』となった後輩と協力して研究の日々さ。アルファベット状の武器や、時には『戦士』ごと固有の武器もあった。研究はかなり大変だったよ。まずあの世界での武器をこっちの世界でも出現させる必要があったし、その制御もね。まぁ、原理とかは置いといて、とりあえず順調に話は進んだ。あの世界の空間的情報もある程度集まったし、武器の情報も結構ね。
だがあいにく、『戦士』は後輩以外にももちろんいてね。モンスターとの交戦もあって、彼はやがて死んでしまった。だが、その頃にはすでに、私の技術で最低限モンスターと戦うことができた。だからそのまま研究は続き、やがて『戦士』の鎧のみあの世界に保管し、精神だけ転送するという『仮想戦士』システムを構築した。これが、君の体験した、プレイヤーが『Endless End』においてその世界で戦っている、という仕組みだ。
『Endless End』ある程度の倫理観はともかく、現実に人間を襲うモンスターの殲滅の一端も担っているというわけだ。もちろん、『仮想戦士』の核となるゲームのプレイヤーを殺すわけにはいかないから、一定ラインのダメージを喰らったら、強制的に感覚を切り離す技術は取り入れている。――これはかなりの功績だと思うよ。知らず知らずに、とはいえ、誰もが世界に貢献し、モンスターは倒すことができる。一石二鳥、いや十鳥くらいかな?すごい研究だとは思わないかい?」
鈴木はそう突然話のテンポをぶちぎった。
鈴木の早口と話の展開についていけずに戸惑うばかりだ。
「つまり、知り合いがたまたま『戦士』で、モンスターの殲滅も兼ねて『リバースワールド』を研究していて、あの『エンデスゲーム』は現実に現れるモンスターを少しでも減らすための策だ、と」
「理解が早くて助かる。簡潔にまとめてくれてありがとう。えーっと、」
「門中。門中颯良だ」
「そうか、ありがとう、門中くん。とりあえず今のまとめかたで、そう語弊はないはずだ」
無理やりなまとめに感心しているが、そこで結城がようやく口を開いた。
「あの、モンスターを倒すためのシステムだってのは、本当ですか!」
「本当だとも。その口ぶりからして、君も『戦士』同士の戦いよりもモンスターを倒すことが大切だと?」
「はいっ!!」
「そうかそうか。さすがだね」
「待ってくれよ、あんた……モンスター殲滅でそこまでやれてるなら、軍隊とかに依頼して、その防具つけて、リバースワールドで戦わせりゃいいじゃねぇか!いや、それか、ゲームにする前に公表すれば、」
「リバースワールドやモンスターの存在を公言してしまえば、確実に世界はパニックに陥る。鏡に類するもの全てをなくすことも不可能だろう。その混乱を防ぐため、我々はリバースワールドの情報を意図的に隠している。そして軍隊に関してはいくらか話がついているが、モンスターを確実にほぼ無傷で倒せる保障を持つには、まだ情報が足りないんだ。もちろん逐一視察とかのために兵を数人ずつ送ってはいるが、全員が無傷というわけではない。兵士の命も一人の命だ。尊いものだろう。だからまだ、安全性の保障できるこの『仮想戦士』システムしか頼る道がないんだ。とはいえ、この手段だけではモンスターの現実への被害を食い止めるのにかなりの時間がかかる。そこで、だ」
鈴木は手を叩いて、初めてゆっくりと言葉を放った。
「君たちに僕の研究の協力をしてもらいたい」
と。
結城はどこかに感銘を受けたようで「はいっ!」と元気よく頷き、俺はやや渋々ながら「……ああ」と協力の意を示した。
結城と同様に全肯定とは行かないが、悪い案ではなかったからだ。
知らないことを知っていくためでもあるが、俺は、こいつらの言う理想に乗っかってみようと思ったのだった。
4―鈴木寛人
私は二人に改めて名前を聞いてから、説明の為に一度部屋に資料とかを取りに戻ると話した。
その時の、ドアを閉める直前、私は思わず笑みをこぼした。その真意を、二人は知らない。
戦いの始まり、からの鈴木さん登場回でした。まだ語るに語れないことは多いですが、とりあえず紅太くんの電話即切られたのはかわいそうだな、と作者も思ってます、はい