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惨文詩

イキモノ。

作者: 舞端 有人
掲載日:2015/04/28

昔々、人里離れたとある山の中に一つの洞穴がありました。

洞穴の中には一匹のイキモノが住んでいました。

彼は洞穴の中から外の景色を眺めていました。

「お外の世界にはボクの友達がいるのかなぁ?」

彼は洞穴の中でずっと一人ぼっちでした。

たまにやってくるクマさんや鳥さんが唯一の話し相手で、他には誰も居ません。



ある日、洞穴の近くに一人の人間が通りかかりました。

イキモノは初めて見る『人』に興味津々でした。

その人は湖畔で、華麗な舞を踊っていました。

彼は思いました。

「お友達になれないかな?」と。

だけど、今まであまり話をする機会が無かったイキモノは初めての事に、恥ずかしくて、でも話がしてみたくて。姿を隠して人に話しかけました。


その人はとても優しく、そのイキモノにも明るく接してくれました。


イキモノは人と何度も何度も、多くの日を重ねて色々な話をしました。



そうしてどれぐらいの日が経った頃でしょうか。イキモノは自分の姿を人に見せようと決心しました。

いつもの湖畔で、人を待っていると、何時ものように明るい笑顔でやって来ました。

イキモノはその人を見て、満面の笑みを浮かべながら「やぁ!」と言いました。


しかし、人はその時、顔を強張らせて固まっていました。

イキモノは如何したのかと思い、人の体に手を触れました。

するとどう言う事でしょうか。人の体の、彼が触れた所から紅い水が勢いよく出たではありませんか。

人は訴えました。「怖いから、恐ろしいから私に近づかないで」と。


イキモノはその時、湖畔に写った自分の姿を初めて見ました。

その姿は、獰猛な目に、恐ろしい牙、鋭い爪、硬い毛並み。見るもおぞましいバケモノでした。


バケモノであった彼は嘆きました。悲しみました。泣きました。

こんな事はしたく無かったと。こんな筈では無かったと。傷付けるつもりなんて一つもなかったのだと。


だけれども、自分はバケモノでした。

それはどうやっても抗えない事実でした。


バケモノは洞穴の中に篭りました。もう二度と出るまいと。


時折、クマさんや鳥さんが来て、あの人の事を教えてくれました。

バケモノは誠心誠意のお詫びを伝えて欲しいとクマさんと鳥さんに頼みましたが、その言葉は些細なすれ違いのせいで、決して上手に伝わる事はありませんでした。


今でも、彼は暗い暗い洞穴の中にずっと篭って、一人で悩み苦しんでいます。陽だまりの中に居場所は無いと感じて。

「僕の選択や、僕の答えは間違っていたのかな?」なんて答えの出ない事を延々と考えながら。


洞穴の外側から聞こえてくる誰かの呼び声に苦悩しながら。


傷付けることと、傷付くことを恐れて。

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