学園はBLで溢れてる
去年まで普通の女子中学生だった私は今年から男子高校生になった
家の変なルールで女のふりをしていた訳でも性同一性障害でもなくれっきとした女である
強いていうなら親がバカなだけだ、特に男の方が
何となくとか面白そうだからとかの理由だけで今まで務めていた一流企業を退職し、いきなり旅に出るとほざいた、私が中学一年になったばかりのことだった
普通の妻なら止めるだろうが男ほどではないが女もそこそこのバカだった、まぁ素敵と言って二人とも旅に出たのだ
今更、幼い娘を深い森に置いていった夫婦なのだから気に止めるだけ無駄だともう諦めた
そして、三年がたち突然帰って来たと思ったら高校を勝手に決められセンターで充分な点があった私はあれよあれよという間に入学が決まった
どうせこの男が決めたことだからろくなことはないと思っていたが全寮制の男子校にぶちこまれるとは考えてなかった
ある意味王道だが逆に考えればもう三年あの両親に接する必要がなくなるのだ
私は大学生になったら絶対あの夫婦と縁を切ろうと思っている
一生関わってたら良いことなんてないに決まってる
だから私はこの立場を甘んじて受け入れることにした
そう覚悟し気が付けば二年生になっていた
お世辞にも大きいとは言えない胸に、男前な性格のこともあり今まで誰にもバレていない
ありがたいやら悲しいやら複雑な気分になる
そして全寮制というこの箱庭はたくさんのホモに溢れ男役と女役に二分割されている
多少周りに女子がいればよかったのだろうがここは私立かつお金持ち校なので街の外れにあり今まで私は学校の人間としか関わっていない
唯一外に出れる機会は長期休暇か修学旅行のみで家に帰ろうと思わない私は外に出たことが一度もない
私は例外とは言えかなり閉鎖的な空間であることには違いない
生きるために必要なものも娯楽も手に入ってしまう環境が悪いのだ、断じて私の心が弱いとかではない
今日も変わらない日々が始まるんだと思う多分
「おはよー」
「おはよう、今日は随分と早いんだね悠」
一年からのクラスメイトでこの学校で一番仲がいい可愛い系天才君の々木悠と待ち合わせをし、いつも正門からクラスに向かうのだ
白い髪に赤い瞳ウサギを彷彿とさせる容姿で性格もマイペースで優しいものだから攻めにモテるランキング一位なのだ、そんな悠の側にいる私は目の敵にされることが多く一年になり二ヶ月しないうちに攻めの奴らに呼び出され囲まれたことは忘れれない記憶だ
まぁ、ほとんどボンボンばかりだったのでちょっとスタンガンで脅してやれば数人を除いて戦意喪失していたので逃げるのは容易だった
端から戦おうだなんて考えるはずもない、いくら私が鍛えてようが男と女の力の差で敵うはずもない、中には空手部の熊殺しと呼ばれる男前と校内で一番の権力を持つ生徒会長をがいる時点で頭の中には逃げしか考えてなかった
それ以来毎日のように絡んでくるのがウザい
で、今日も朝からくるとはご苦労なことだ
「勝負をしろ!今日こそ俺が勝ってみせる」
「あーおはようございます末広先輩、今日もイケメンですね。…顔だけは」
嫌みを言ったはずなのになぜか嬉しそうに照れている
一年生の後半、あの事件以来この調子が続いていてこれまたウザい
「と、当然だろこの俺がイケメンじゃないわけがない」
そんなに顔を赤くしてたらカッコつくもんもつかないだろ
周りからはデレたぞあの生徒会長がやら今日もお美しいやら騒がしい
「おい、今日こそ正々堂々と勝負しろ」
次はお前か
彼こそこの学校の空手部の部長であり、熊殺しと名高い皇光である
紹介が遅れたが生徒会長の名前は末広奏という、末広財閥の一人息子で頭脳明晰かつ運動神経抜群とまぁ、かなり恵まれた奴で受けにモテるランキング堂々の一位なのだ
皇先輩は受けにモテるランキング四位と五本指に入ってくる
だが女である私には受けも攻めもクソもないのでまるで興味がない
「勝てるはずもない相手に真っ向勝負とかバカじゃないですか。それに平和主義なんでそういった男同士の熱い拳の語り合いとか興味ないんで。そんなことしなくてもかなりお似合いですよ、美女と野獣みたいで」
「いや、俺はもう悠には興味はない。俺が落としたいのはお前だ。しかしそうかお前は勝負が嫌いなのか、ならまずは友達から初めないか?」
まさかの展開に現実逃避をしかけた
いったいどこに私に惚れるようなイベントがあったのだろう
少なからず今まで受けでも攻めでもない立ち位置に居続けたので周りは私に興味がないものだと思い込んでいた
しかし、告白が私を男と思っている男とは複雑になる
「俺、興味ないんですよ恋愛とか。けどまぁ、
友達なら喜んで。皇先輩と友達になれるなんて自慢できますね」
正直、悠と仲が良かったためか目の敵にされることが多く友達は悠とあと本当に数える程度しかいなかったので単純に嬉しい
「皇、テメーなに抜け駆けしてやがる。おい、飯塚透特別に俺と友人になる権利をやろう」
おいおいなんでそうなる、お前は悠が好きなんだろ
なら、私と友達になる必要はどこにもないだろ
さっき会長が言っていた飯塚透は私の名前である、可愛さもクソもない名前だと昔は罵ったこともあったが今ではなかなか気に入っている
「えーと、よろしくお願いいたします末広先輩?」
「べ、別にお前と友達になりたいわけじゃないんだからな」
なら、なんで権利を与えたんだ
未だに会長の行動や言動にはついていけない
「透ちゃん、早く教室に行こ」
ついこの二人に気をとられ過ぎて悠のことを忘れていた
悠は可愛らしくプクーと頬を膨らませていた
私にこのくらいの可愛さがあればもう少し女らしく見えたのだろうか
ほんの少しでいいのでこの可愛さを分けて欲しい
「あ、あぁ。じゃあ、失礼します、今度番号交換しましょうね」
「ほら、早く行かなきゃ宗ちゃん先生に怒られるよ」
宗ちゃん先生とは私と悠のクラスの担任の柳生宗のことで受けにモテるランキング三位で噂では攻めにモテるランキング四位の七瀬藍先生とできているらしい
宗先生とは担任で数学担当以外接点はないのだがなぜか私をことあるごとに呼び出してくるのだ、どうせなら藍先生を呼び出せばいいのにと毎回のように思っている
私は悠に手を引っ張られ少し小走りで後をついていく
思ったより力が強く先輩にきちんと挨拶ができなかった
「悠、なに急いでるんだ。まだ、STまで時間はあるだろ」
「そういう問題じゃないの!透ちゃんは僕のなんだから」
「俺は誰のものじゃないって何回も言ってるだろ。まぁ、そう怒るなよせっかくの可愛い顔がもったいないだろ」
空いている手で頭を撫でると悠は体をピタリと止めて顔を茹で蛸のように真っ赤に染める
私は怒らせるようなことをしただろうか
首を傾げていると悠はさっきまで掴んでた手を離し頭の上にあった私の手を振り払い
「透ちゃんの天然タラシ~」
泣きながら走り去ってしまった
あまりにも突然だったのでビックリしたが理由は後で教室で聞けばいいかと私は悠の後をゆっくりと追った