Ushers
鐘威達は校長室を出て、本校舎をあとにした。歩きながら辺りを見回しているが自分たち以外の学生の姿はどこにも見当たらない。
「校舎の外だからって言っても、人少なくないか…?お前たちが俺を案内してくれてるって事は、今は授業中じゃ無いんだろ?」
鐘威が問うと、前を歩いていた要多が顔だけをこちらに向けて答えた。
「ああ。暦的に言うなら今日は日曜じゃないか?」
「なるほど、だからか…」
此処に来てから、いまいち日付の感覚がない。まず、最初にりんに会ってから保健室で目が覚めるまでどのくらいの時間が経っているのかが分からないのだから、当然と言えばそうかもしれない。
「なぁ、今日って何日だっけ?」
「今日はねぇ、十月十六日だよ!」
蓮が笑顔で答えてくれた。
最後に日付を確認したのはチャットをした後、確かその日は十月十四日だったはずだ。そう考えると丸一日は眠っていた事になるのだろうか。寧ろそれ以外には考えられないが。
「ところで、俺たちはいったい何処に向かってるんだ?」
尋ねると慧斗が振り返って話し出した。
「学生寮だよ。便利な事にこの学校は寮制度で、俺たちSCAのメンバーは勝手にお邪魔させて頂いてるってわけ」
「…勝手に使ってるのか?」
「あぁ、少なくとも俺はそういう認識だけど。まぁ、実はちゃんと許可貰ってるってオチもりんちゃんなら有り得るかもな」
慧斗がニッと笑った。何故かわからないが、すごく安心する。慧斗だけでなく、要多や蓮もそうだが、彼らとはほんの数分前に会ったばかりのはずなのに、彼らなら大丈夫、信頼できると、そう思える。まさに彼らと出会う事は最初から決まっていたかのように感じるのだ。
「お、着いたぜ。本校舎からちょっと離れてるが、一週間も行き来すりゃ慣れるだろ」
四人が立ち止った先には、三階建てのペンションが建っていた。外観で言うと本校舎よりもこちらの方が綺麗だ。屋根は薄い赤茶色、壁は白く塗られており、窓の淵や壁には黒いラインが入っていて、シックでもあり可愛らしいデザインになっている。学生寮にしては豪華すぎるというか、あまりピンと来ない。
「……なんか、普通にオシャレなペンションって感じだな」
「だよな~。初めて此処来て驚かない奴見たことないし」
鐘威が呟くと、要多は頭の後ろで手を組んで頷いた。
「というか、まぁペンションだ。造りもほとんど本家と同じ。とりあえず、中に入ってから見取り図渡すよ」
慧斗は要多の言葉を言い直し、鐘威達を手招きして中に入った。
鐘威達は玄関で靴からスリッパに履き替え、右に曲がったところにある、一室に入った。広めの部屋で中央にテーブルが一つと、それを取り囲むように三つの長めのソファーが設置されており、扉の正面の壁には大きなモニターが取り付けられている。
慧斗と蓮、鐘威と要多に分かれてソファーに腰掛けた。慧斗が鐘威に三枚綴りのプリントを手渡す。
「ペンションの見取り図だ。見たら大体の事はわかると思うが、俺からも簡単に説明するな」
慧斗はもう一つ持っていたプリントをテーブルに置き、指をさしながら説明し始めた。
「今俺達がいるのがここ、ホームシアタールームって書いてある所な。で、ここと逆方向、つまり玄関入って左にあるのがLDKってか食堂。それから、玄関入って真正面の階段上って二階」
ここで慧斗が言葉を区切り、プリントをめくって二枚目を上にした。そこで要多が口を挿む。
「二階が男子で、三階が女子部屋だからな。…あんま三階は上がるもんじゃねぇぞ?色んな意味で恐怖だからな…」
「……それは、上がろうとしたお前の自業自得なんじゃないのか?」
「…………」
鐘威の突っ込みに要多は下を向いて黙ってしまった。
慧斗が苦笑した。
「…それは置いといて、続けるぞ」
慧斗は下の段の左から二部屋目、二〇二と書いてある所から指さした。
「此処が俺と蓮。階段挟んで二〇三が八雲と六陸。で、俺たちの向かいの二〇八が要多と、今日から鐘威な。それから…七は勝手に男子専用会議室にしてる。六は空き部屋。それで一番右端の二〇五が丞。主要メンバーはこれで全員かな」
鐘威は慧斗の口からさらっと出てきた聞き覚えのない名前の人物について要多に尋ねた。
「八雲と同じ部屋の…りく?って誰だ?」
「…そういや六陸は居なかったな。千堂六陸っていって、俺たちと同じSCAの団員だよ」
蓮が笑顔で付け加える。
「りっくんは優しくて、判断力に長けてるから、いっつもみんなから頼りにされてるんだ!」
蓮が言うあたり、鐘威でもすぐに打ち解けられるような人物なのだろう。今度会ったら挨拶してみよう。
「…あ、そうそう。丞の部屋もあんま入んない方が良いぜ」
慧斗が背伸びしながら言う。
「なんでだ?」
「あいつは立場的に言うとSCAのオペレーターなんだよ。あいつの部屋だけは普通の部屋と違ってモニターやらパソコンやらで埋まってるんだ。だから、新入りが入っても相部屋できる程のスペースなんて無いし、まず、部屋の中画面のブルーライトで照らされてるからな…。長時間いると気分悪くなるぞ」
慧斗が言いながら苦虫を噛み潰したような顔をする。その様子から見るに、よほど酷いのかもしれない。
「…わかった。気を付けるよ」
鐘威が頷くと、三人も無言で頷いた。
「三階の女子の部屋は省略していいか?というか、そのつもりで確か三階の部屋の欄には名前入れてたはずだけど…」
慧斗が言うので、鐘威は持っていたプリントの三枚目を開く。三〇二に寧音と絵麻、三に水稀、六に瀬南、七にりんと莉華の名前が記入されていた。部屋の並びは二階と同じみたいだ。
「…ああ、これで十分わかる」
鐘威が慧斗に微笑すると、慧斗は満足げに頷いて立ち上がった。
「さぁて、説明が一段落ついたら戻って来いっていうりんちゃんのお達しがあるから、戻りますか」
「りっくんも戻ってるかもしれないしね!!」
蓮もすたっと立ち上がる。
要多は立ち上がり、まだ座っている鐘威に手を差し伸べた。
「ほら、早く行かないと置いて行かれるぞ!」
鐘威はふっと笑みを浮かべ、その手を叩いて立ち上がった。
「…わかってるよ!!」