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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
868/876

神世の喧嘩


【死の大地】


ーーー……激突。

真焔の刃と純白の槍が衝突し、余波は周囲を破乱する。

彼女の咆吼は紅蓮となって岩々を燃やし尽くし、神の眼光は天輪猛らせ破槌となり。

その華奢な肉体を神槍の一撃にて貫くが、彼女はそれを引き抜こうともしない。

否、それどころか己から迫り征き、臓腑に穴を穿とうとさえ。


{今更}


大きく、頭を振り上げて。

全力でーーー……、振り落とす。


{この程度でェッッッッ!!}


巨大な鉄球同士を衝突させたかのような、轟音。

同時に双方の頭が弾け飛び、神は双脚を張って留まったが、スズカゼは大きく吹っ飛び、後方数ガロまで跳ね飛んだ。

頭が砕けている。腹に穴が開いている。吐き気がするし視界は滲むし疲れは酷いし酷く眠いし。

それが、どうした。


{まだまだァッッ!!}


疾駆、否、跳躍。

ただの一歩で爆破されたかのように抉り返り、彼女の刃が空を裂き。

踏ん張ったが故に未だ反り返る神の首音を、狙う。


{見事}


反り返った、否。

彼はそのまま双脚を大地から離し、倒れ込んだ。

正確にはその踵だけを託したまま、全身を倒れ込ませるように。


{だが}


高速の回転。

衣を翻し、仰向けに倒れ征く体を、螺旋に。

槍は大地を削り、例えるならば独楽のように、凄まじく。

やがてその回転は己の首を狙うスズカゼへ、拳撃として向けられる。


{足りぬな}


彼女の顔面が歪み、顎先が砕け。

飛び散った歯牙は大地に突き刺さり、肉体は天高く打ち上げられる。

神は己の肉体を五指の先で停止させ、そのまま小突くようにして立ち上がった。

そして、衣服の土埃を払いながら空を見上げた彼の視界に映ったのはーーー……。

墜ちてきた、太陽だった。


{これで足りますかね?}


{……無茶をする}


ツキガミは神槍を大地に突き立て、大きく構えを取る。

巨大な球円状を取った業火に対し、回避も防御も行いはしない。

ただ、迎え撃つ。その双腕に三重の天輪を纏い、迎え撃つのだ。


{だが、見事}


収束された、否、収束した上で収束し切れていない膨大な魔力の塊。

受ければ大地が吹っ飛ぶだけでは済まない。少なくとも周囲の地脈ごと、爆散するだろう。

抑えることは出来る。出来る、が。

彼女の意志を逸らすことは、したくない。


{ォォオオオオオオオオオオラァアアッッッ!!!}


天を隠す強大な紅蓮。

衝撃は大地を鳴動させ、熱気は砂利を蒸発させ。

小惑星にも等しき炎塊を、墜落させる。


{……む}


ツキガミの指先がそれに接触した瞬間、双脚が大地に沈む。

幾多の岩盤が翻り、大地の地脈さえも燃え滴る瞬間。

彼の十指が炎塊を掌握し、受け止める。

その瞬間、彼の双腕に纏われた三重ずつの天輪の内、一枚が崩壊する。


{…………!}


刹那、炎塊が一気に収縮する。

二枚。双腕に纏われし天輪が破砕されると共に、収縮。

やがて三枚目が破壊された頃には既に、炎塊は消失していた。


{で、終わりなワケァねぇでしょう}


スズカゼの背後に展開される、赤色の空。

否、違う。先の炎塊よりも数千倍はあろうかという、紅蓮。


{……無茶が過ぎるな}


ツキガミは周囲に展開される膨大な魔力の奔流。

周囲一帯、少なくとも死の大地を異界化し、星を護ろうとしたのだろう。

しかし、彼の意志さえも、紅蓮の焔が赦すことはなく。

一切の隙など与えず、それは振り下ろされる。


{ハッハァッ!!}


それだけでは、止まらない。

紅蓮纏いし刃が、紅暁の空と共に墜ちて征く。

音速だろうが光速だろうが、踏み躙るような速度で。


創造クリエイト


だが、彼女の突貫は直ぐ様終わることとなった。

スズカゼの視界に映っていたのは確かにツキガミの姿だった、が。

直後、その眼が映したのは闇。否、正確には大地の岩盤だったのだから。


{星ごと壊すつもりか}


ツキガミは大地より神槍を引き抜き、一刃を揮った。

それが斬り裂いたのは紅暁の空。先は双腕を用いて止めたはずのそれを、一瞬で。

傍目に見ても実力の差は明らかだった。星を護りつつ余裕を持って戦うツキガミと、最早手段を選ぶことはしないスズカゼ。

然れどこの勝負に決着は着かないのだろう。着くはずもない。


{星ごと?}


だが、まだだ。

決着は着かない。必然だろう。

スズカゼは未だ成長している。半身を、取り込んで、同調している。

彼女の血肉は神の欠片となり、その意志は万物を焼き尽くす焔となる。

未だ、不屈。その受け継がれ、紡がれた紅蓮の精神が折れるはずはなし。


{高が、星だ}


瓦礫から顔面を引き上げた彼女の口端より溢れ出る、瘴気の焔。

狂喜に裂けた牙が紅色に染まり、太刀は己の前に立ち塞がる万物を喰らう武となりて。


{テメェを殺すのに、星なんざ気にして何になりますか}


{……同族が、滅すとしてもか}


{滅すゥ? 馬鹿言っちゃいけません}


自分の力で、彼等が滅すなら。

疾うに星なぞ、人間も獣も、滅んでいる。

彼女は知っているのだ。自分なんかよりも、どんなに強い者よりも。

彼等は強い。幾年も受け継いできた意志を、心に持っている。

例えそれが刃を振るう者でなくとも、彼等は皆、生きている。

この星で、戦乱の中でーーー……、生きている。


{私なんかが、あの人達を殺せるもんですか}


スズカゼが、嗤う。

それは確信より来る笑みだった。

自分より強い人が、この星には何人も居る。

意志を、信念を、決意を、想いを。

彼等は弛まなく持っている。比類なく持っている。

その心に、刃を持っている。


{来いよ神様。この喧嘩(・・)を終わらせましょう}


紅蓮の衣より放たれる爆炎が、周囲を燃やし猛らせる。

歯牙より放たれる瘴気は紅色の蒸気となりて、空へと昇っていった。

神はその様を瞳に映すなり、静かに息を吐いて槍を構え直す。


{で、あるか}


{で、ありますとも}


嗤叫が呼応する。

世界に、天に、地に、海に。

神世の、世界さえも滅ぼしかねぬ喧嘩は。

未だ、始まったばかり。




読んでいただきありがとうございました

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