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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
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果たすべき二つの願い

「こんな}


心拍数が極限まで上昇する。

心臓の血管が張り裂けるのでは無いかという程、鼓動が高鳴っていく。

その癖に体は酷く冷え切り、まるで極寒に曝されているかのようだった。


「こんなっ……!}


何故だ。

自身は全能者として、創造の到る限り、全てを掌握することが出来る。

次元を断絶することも可能だし、世界を改変させることさえ難しくない。

だと言うのに、何故だ。

彼等に勝てる気が、しない。


「取り敢えずどうする? ツキガミとやり合うか」


「メイアウスが苦戦する相手だろう。是非やってみたいところだが」


「……いや、君達。世界の危機よりも自分の闘争なの?」


「偶には息抜きしたいし」


「当然だろう」


膝を折る少年を他所に平然と会話を続けるメタル、イーグ、ダーテンの三人。

ハリストスはそんな三人の隙を見て、瞬時に転移しようと僅かに魔力を込めた、が。

直後、彼の首根が吹っ飛んだ。否、吹っ飛んだように錯覚しただけだ。

殺気と言えばそれまでだろう。だが、こんなに恐ろしいものが、人間などに放てるはずがない。

放てて良いはずが、ない。


「何故……! 何故ですか!!}


彼の叫びに視線を向ける者は誰一人としていない。

否、その名を呼ばれた瞬間に、一人だけは。


「ダーテン・クロイツ! 貴方はツキガミとの契約を反故にするつもりですか!!}


「……ハリストス・イコン。全能者。君は、とても悲しい存在だね」


僕もそうだった。

確かに今でもフェベッツェには会いたい。彼女と話がしたい。

けれどーーー……、ラッカルの託してくれたものが、鬼面族とピクノ、聖堂騎士の皆が護ってくれているあの国があるから。

だからもうそんな約束は出来ないよ、と。


「君は人の命を軽んじ、何かの終わりにある刹那の輝きだけを求めた。それを悪と断ずる権利は僕にはないけれど、認めないという意志を示すことだけは出来る」


重圧が一層大きくなり、ハリストスは最早視線を上げることさえ敵わなくなった。

彼等からすれば、この重圧さえ無意識だというのか。

何故ーーー……、いや、違う。

まさか、自分達は、最悪の誤算をしていたのではないか。

その答えが今、ツキガミという存在により、明らかになってしまったのではないか。


「……ない}


僅かに吹き上がる、魔力の奔流。

メタルとイーグはそれを見逃すことなく、刹那に魔剣と灼炎の一撃を放とうとした、が。

敢えてそれを止めーーー……、ハリストスの瞬間転移を赦した。

その理由は数瞬後、明らかとなる訳だがーーー……。

それと同時、いや正確には数分前。彼女の場所まで、場面は戻る。


{…………}


{…………}


対峙する、ツキガミとスズカゼ。

その境界は驚くほどに静かで、一陣の風さえ、刹那の墜塵さえありはしない。

然れど、双衣に携えられた太刀と神槍の狭間には一切の隙がない。

刹那の切っ掛けさえあれば、その刃が激突することは明らかだった。


{…………}


{…………}


静寂。肌が焼け焦げるほどの、永劫。

彼等は動かない。その刹那を待ち侘びるが故に。

全く持って不動、だが。それを破ったのは意外な人物だった。


「……ッ!」


ツキガミの眼前に展開される、紫透明の結界。

それは十字架に咎人が如く打ち付けられた、ロクドウの放ったものだった。

刹那。本当に、一瞬にさえ満たぬほどの、刹那。

それでもスズカゼが疾駆し、その魔力を収束して放つには充分であった、が。

彼女の身体を掴む腕と、十字架に触れる指先があった。


{んなっ}


スズカゼが驚く暇もなく、ツキガミの眼前より彼等の姿は消え失せる。

そしてその刹那の後に彼の眼前にはハリストスが現れた。

つまり、入れ替わりだったのだ。瞬間的にスズカゼ達とハリストスが入れ替わったのである。

それは全くの偶然であり、必然でもあったのだろう。

彼等の決着という舞台の為の、必然。


「ツキガミッ……!}


酷く息を切らしたハリストスは己の喉元を抑え、彼の表情を仰ぎ見た。

何かを訴えるような視線であったが、ツキガミは静かに瞼を閉じ、僅かに首を振るう。

その意味が何を刺すのかハリストスが理解することはなかった。したくは、なかったのだ。


{……頼みがある、我が友ハリストスよ}


ツキガミが述べたのは至極単純なことであり、必然的に可能なことであった。

しかしハリストスはそれを否定する。彼が望むのは有終の美であり、そのものではなかったから。

しかしツキガミもまた引くことはなかった。その願いの為、友として最後の頼みだ、と。


{我々は永く存在しすぎたのやも知れぬ。人の輝きを観測することに願い果て、いつしかそればかりを望む傀儡になっていた}


それはこんなにも近くにあったのに、と付け足して。

彼は己の胸元を覆うように、掌を当てる。

彼等の願いだ。天霊達が望んだ、世界。

その願いにあるーーー……、輝き。


「諦める……、と言うのですか}


{いや、そうは言わん}


彼等の願いは、まだ此所にある。

この胸に、彼等の魂はある。


{望み敗北などせぬ。我は勝利しよう。この世に、彼等の願った世界を創ろう}


神としてではなく、ツキガミという一つの存在として。

天霊達が崇め、讃えてくれた一つの神霊として。

この槍を、振るおう。


{……だが、同時に果たさねばならぬ決着もある}


ツキガミの眼に宿る、灯火。

其所に映るのは、一人の女。

紅蓮の太刀を構えるーーー……、たった、一人の。


{故に、頼もう}


ツキガミは頭を下げようと顎を引く、が。

ハリストスの手が彼の肩を掴み、それを引き上げた。

友の願いならば仕方ありませんね、と。その言葉だけを述べて。


{……願いを、叶えましょう}


無限の境界を背に、彼等は並び立つ。

対するは天災なる四人の者。そして、紅蓮纏いし一人の少女。

最終決戦。真に最後の戦いがーーー……、始まる。




読んでいただきありがとうございました

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