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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
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【山岳地帯】


{……今更だ}


吐き捨てるように平温を取り戻し、天霊にして[傲慢]デュー・ラハンは深く息を押し出した。

落ち着け、今更現れたあの男に何が出来ると言うのだ。

確かに[闇月]は脅威。しかし、それはあくまで肉体を持っていた頃の話。

天霊化し天霊としてのコアをこの身に宿した時点で、大した脅威ではない。

それよりも重要なのはデモン・アグルスが甦ったこと。否、甦ったと言うよりは応急の処置により復活した、とでも言うべきか。

どちらにせよ厄介なのはデモンだ。そこに脅威ではないとは言え、ジェイドの加護が付けば尚更だろう。


{……と、なれば}


現状、厄介なのはあくまであの二人の組み合わせ。

ならば二人でなくしてしまえば良いだけのこと。個々に対処するだけの魔力は充分にある。

後にはスズカゼ・クレハも控えているのだ。ならば今此所で無駄に消費する理由もない。

迅速に、確実に、仕留め殺すだけ。


{まずは}


デューの大剣が振り翳され、黒炎の魔力を纏う。

余り傷付けたくはないが仕方あるまい。この一撃で、周囲一帯を吹き飛ばす。

無論、彼等はこれを回避するだろう。だが、それこそが狙いだ。


{貴様からだ、[闇月]}


黒炎による超高域攻撃には、敢えて穴を一つ開く。

無論、彼等がそこに飛び込んでくる事はない。罠だと知っているからだ。

故に被撃覚悟で何処からか突貫して来るだろう。

一カ所で良い。ただ意識外から外せるその場所があれば。

他の場所に集中出来る。


{爆ぜ墜ちろッ!!}


大剣が振り翳され、強大な黒き業火が大地一帯を焼き尽くす。

否、それ等は所詮呼び水、基、呼び火に過ぎない。

躱せるか。冥界の臓腑共の群々を。その静かなる闇の渇望を。


「暗殺者に」


気付けば。

振り翳したはずの大剣は墜ちていた。

否、その場に刺さっていたのだ。初めから、ずっと。


「戦いはないんだよ、デュー・ラハン」


影が、揺らめき。

黄金の獣の隣に居たはずの漆黒は消え去っていた。

否、彼だけではない。デモンでさえ、その場には居ない。

誰も居ないはずのその場所に、未だ、奇妙な感覚だけが残る。

姿無き存在感とでも称すべきかーーー……、空白の場所に感触だけが残る、感覚が。


「……マジかよお前」


獣は力の行き先を失った拳をぶらぶらと揺らしながら、獣はただ呆れていた。

一瞬だ。自分があれ程苦戦した男が、未だ全力さえ出し切っていないはずの男が。

こんなにも一瞬の内に、分解されて。


「暗殺者に真正面からの闘争でも期待したか?」


金属音をがなり立て、甲冑や兜が大地に散らばっていく。

全てが元よりそう存在したかのように、繋ぎ目一つさえ見せずに、転がり落ちていくのだ。

確かに奴の言う通り、今のは戦いなどでは無かった。

出現し、デューが一言を発すよりも前に、奴は兜の眼を掌で覆い、全身を白銀で撫でた。

その結果は今の通りだ。余りに呆気ない、終わり。


「一方的な初手。暗殺者なぞ反撃を赦した時点で失格だ」


尤も、と付け足しながら。

彼は兜を蹴り上げるように跳躍の後退を見せる。

刹那にしてその兜は影、否、闇に覆い尽くされ、凄まじい破砕音と共に拉砕された。

いや、拉砕ならば破片が周囲に散らばっただろう。或いはこれ程の破砕音は響かないだろう。

喰っている。何かが、岩々の狭間から流れ出す何かが、それを咀嚼(・・)している。


「来るぜェ、オイ」


ジェイドが着地した、その地点。

幾多と広がった瓦礫の山々は一瞬で漆黒に染まり上がる。

触れれば喰われる。引き裂かれ押し潰され抉り返されて、喰われる。

無限の闇に果てなどあるはずはなく、それ等は囲んだジェイドは勿論、回避したはずのデモンの元にさえ押し迫っていた。

このまま後退するばかりでは、いや、最早後退する隙間さえありはしないが、どちらにせよ喰われるのは必須だろう。

撤退や後退を繰り返そうとも、それが、意味を成すことはーーー……。


「よォ、おい。俺に提案があるんだけどよ」


「奇遇だな。私もだ」


彼等がその提案を照らし合わせることはない。

確かに共同戦線こそ張っている。それでデュー・ラハンを倒そうとも考えている。

だが彼等に、当然と言えば当然であるが、共同作業チームプレイなどというものは存在しない。

あくまで張るのは戦線であり、行うのは戦闘。

故に彼等が仲良く作戦を立て、互いに支え合いながら等という物は決して存在しないのだ。


「ヒャッハァッッ!!」


彼等は強いが、天霊には劣る。

例え全盛期の力を取り戻した闇月であれ、賢者の石を取り込んだ獣でさえ。

彼には勝てない。圧倒的に地力も魔力も、劣る。


「……ふん」


だが、彼等は知っていた。

デモンの拳が大地を穿って影を跳ね飛ばし、瓦礫は空を舞う。

ジェイドの脚が瓦礫を蹴って空を駆け上がり、漆黒は白銀を携える。

繰り返す。彼等は知っていたのだ。

隣に立つ者が如何なる存在なのか、何を成そうとするのか。

知っている。否、知るまでもない。

彼等に共同作業など存在するはずもないが、共に同じ殺意(・・)だけは純然と存在するのだから。


「中点を探る。瓦礫の足場を作り続けろ」


「うるせぇ。その前に俺が掘り当ててやるぜ」


拳が破砕し、刃は空を斬る。

決して協力などし得ぬ彼等が、殺意の中で、戦線の上に。

ただ大地を這う影を相手に、並び立つ。




読んでいただきありがとうございました

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