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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
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弱者の末路



「クソ虫がクソ虫がクソ虫がクソ虫がクソ虫がクソ虫がクソ虫がクソ虫が!!!」


何故だ? 実力は圧倒的にこちらが上のはずだ。

ゴミクズが周囲を舞っているだけ。一発叩き落とせばそれで終わりのはず。

だと言うのに指先を摺り抜け顔の周りを飛び回り。

ブンブンと鬱陶しい羽音を掻き鳴らすだけのクソ虫。高がその程度。

だと言うのに、だと言うのに、だと言うのに。

どうして、殺せない。


「クソ虫がぁああああああああああああああああッッッ!!!」


果てしなき憎悪が身を染める。

鳥は再び竜の姿となりて牙を剥き、大翼を天へと広げて。

太陽を隠す巨体が蠢く中、デイジーはその背へと飛び乗っていた。

否、それを背と称すべきなのかどうかは定かではない。

竜の眼は今その大翼にあり、牙はその鱗背にあるのだから。

此所は死角ではない。むしろ真正面だ。

竜の牙が喰らう為の、死喰の牢獄。


「良い加減に死に晒せよ、クソ虫ィッ……!!」


眼球の鉄格子、最早武器さえ持たぬ女に業火の狩鎌が振り下ろされる。

足下より天へ吹き出る爆炎。白雲さえも掻き消すほどの、衝風が草原を揺らがすほどの、爆炎。

少なくとも華奢な肉体が感覚を無くし、空を吹き上げられるには充分な程に。

その爆炎は、凶悪であった。


「ケハッ」


羽虫の動きを止め。


「……終ォ~わりィ」


幾千の刃が、斬り刻む。


「ケハハハハハハハッッ!!」


勝負の決着は一瞬だった。

竜、いや最早異形と称すより他ない。

背に眼と牙を持つ異形は嗤いながら、嗤いながら、嗤いながら。

その違和感に、気付く。


「……あ?」


背中の牙に伝う、否、牙の中に何かがある。

牙? 口、喉? 肉体の、中?

否、これは、まさか。


「私はこの道から脚を外しはしない」


例え己の肉を引き裂こうと、骨を砕かれようと。

この身を吹き飛ばすに充分な爆風であろうとも。

今、道から背くことだけは、絶対に。


「まさか、テメェ」


業火と爆炎が巻き起こり、肉体を斬り刻む。

最早全身の感覚は消え失せ、肌が焼ける感触が恐ろしい。

逃げ出したい。今すぐ転げ回り、水底へ沈んでしまいたい。


「脚が離れるのなら拳を突き立てよう」


だけど。いや、だからこそ。

此所に立とう。此所に、この脚で。

この拳を突き立てて、立とう。


「私の誇りは、此所にある」


デイジーの拳が業火を吐き尽くす口腔を掌握していた。

その内部、即ちダリオの肉体に拳を突き立てたのだ。

全身を焼き尽くされながらも、彼女は、ただ。


「……あー、そう」


理解を、変える。

認識を、変える。


「アンタは羽虫じゃねぇわ」


異形は肉体を変化させ、人間の形へと戻る。

否、それを戻ると述べるべきなのかどうかは定かでない。

さらに言えば、それが人間であるかどうかさえも、定かではない。

眼球のみが残された骸が、全ての肉も臓腑も削ぎ落とされ、骨の翼を纏うその存在が。

生物かどうか、さえも。


{認めてやるわよ、クソ野郎(・・・・)


空を、落ちる。

彼女が先のように飛びつくことは出来ない。

いいや、飛びつくという選択肢はない。選択することが出来ない。

本能が警告するのだ。それに触れれば死ぬと。


{楽には殺さない}


軋み、爆ぜ。

何が起こったのか理解すら出来ない。

ただ自身の世界が反転し、空を舞っていることだけは解る。

攻撃を受けたことだけは、解る。


{弄び、嘲笑い}


彼女が大地に墜ちることはない。

否、落ちることは赦されない。


{ボロ布みたいに朽ち果てて}


骸の眼球がぐるりと天を向き。

頬端の奥歯がキリキリと鳴りながら。

骸は嗤っている。いや、嗤って、狂っている。


{死ねェ…………!}


鬱陶しい羽虫を捕らえた異形は、ただ殺しはしない。

脚を引き抜き、翼を千切り、尻から潰して臓腑を摺り出していく。

弄ぶのだ。自分を苛つかせた羽虫をいたぶり殺す。

そうすることで自身を満たすのだ。好きなように殺すことで自分の用意を証明する。

勝者であることを、絶対的優位であることを示す。それを、求める。

故に[強欲]。全てを示す、欲す故にその異形は[強欲]たるのだ。


「こ、のっ……!!」


抗えるはずなどない。

どうにか死なない程度の攻撃を、繰り返されている。

動くことすらままならないのだ。

弄ばれてーーー……。


{奇遇だよねェ?}


嘲笑われて。


{アイツも、そんな風に何も出来なかったわ}


ふつりと、デイジーの何かが切れた。

その嘲笑が誰を指すのか、誰を侮辱したのか。

故に、彼女は、叫び、拳を振り翳し。


{冷静さを欠いて真正面から来ればァ……、虫でも簡単に潰せる}


彼女の右腕は、大地へ落ちた。

右腕だけが、大地へ落ちた。


{でしょォ?}


鮮血が吹き出し、雨のように降り注ぐ。

苦悶の絶叫は響き渡り、紅色は草根を塗らし。

羽虫の腕が、まず一本。抉り捨て、斬り捨てて。


「か、ぁ」


掴んでいたはずの腕が、消えて。

その先にある物が、段々と、細く、小さく。


{ケハハハハハハハハハハハッッッ!!}


草原に響く絶叫。

舞うは彩紅、嗤うは異形。

ただそれは必然であり、弱者の結末であり、

当然の如く用意されたーーー……、最期なのだろう。


読んでいただきありがとうござました

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