盗賊団討伐
《シーシャ国・国境地》
「準備出来ました」
「おう。アイツも呼んでこい」
「はい」
シーシャ国の外れにある国境地には、盗賊団の姿があった。
彼等は獣車に多くの荷物を積み込み終えた。
その量は非常に多いが、それらの殆どは食料などではなく、非常に頑丈な封をされた機材のような物だ。
盗賊団の一人が獣車を操縦するための席に着き、他の面々も、とは言え数人程だが、荷物を積み込んだ荷台へと乗り込んでいく。
そんな中、乗り込もうとしていた一人の盗賊が、頭らしき男へと歩み寄っていった。
「あの連中はどうなったんですかね?」
「未だ瓦礫の中、と思いたいがな。そろそろ脱出した頃だろう」
「ンな馬鹿な! 発掘用の爆弾、幾つ使ったと思ってんスか!?」
「相手が悪すぎる。スノウフ国の連中だけならまだ隠れ住むだけで大丈夫だっただろうが、サウズ王国の連中まで出て来たとなるとーーー……」
りんっ
彼の言葉に混じって鳴り響く透き通るような音色。
その音に気付いたのは、言葉を語っていた男だけだった。
部下は気付くことなく愚痴に耽っているが、男はすぐに周囲を見渡す。
だが、それで視界に映る物は何もない。
ただ広がる荒野と廃墟住宅の群れだけ。
「……ん? どうしたんですか?」
「今、何か……」
りんっ
「……何の音だ? これ」
鈴の音と共に現れたのは。
長刀を携え、藍色の長髪を靡かせる獣人。
にやりと口端を吊り上げ、犬のような牙を覗かせる男。
木刀を携え、黄金の隻眼光を唸らせる獣人。
両手に魔力を収束させた、桃色の髪を揺らす少女。
「始めるぞや」
「愚かな連中を殲滅と行こうか」
「了解だ」
「……ふん」
《廃墟住宅跡地・瓦礫洞窟内》
「あの二人に行かせて大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ」
スズカゼは不安そうに呟くデイジーに対し、キッパリと返事を返した。
彼女の目に迷いの色はないし、焦燥感もない。
全てを信じ切ったような、目だ。
「しかし、相手の人数も解りませんし……」
「こっちも手は打ってますし、戦術的にも最強の5人を送りましたからね。大丈夫でしょう」
確かに戦術的なこともある。
だが、実際のところはファナの提案もあったのだ。
秘匿すべき存在であるスズカゼを出来るだけスノウフ国の面々から遠ざけよう、と。
「……それは良いんですけど、私達は何をするんデスか?」
「さっきの話し合い、おかしいと思わなかった?」
「え?」
「何で、こんな所に居る盗賊団なんかが爆弾なんて……、それこそこの辺りの廃墟をぶっ壊すような爆弾なんて持ってると思う?」
「使うため……、じゃないんデスか?」
「その使うための爆弾を私達なんかに使っちゃうかな?」
「え、えーと……」
「……つまり、スズカゼ殿は盗賊団の目的は別にある、と?」
「予想ですけどね。いや、もしかすれば盗賊団ですらないかも知れない……」
「どういう事です?」
「だって、普通に考えればおかしいじゃないですか。国境付近の滅国って事もあるんでしょうけど……。そんな所に忍び込んだ盗賊団が偶然にも見つかったから、それを討伐してこい? 騙され続けた私の目は騙されませんよ!!」
「だ、騙され続けた……?」
「経験上の話です! ですので、私達がやる事は、今回の事件の真相を解明してメイア女王の鼻を明かしてやることですよ! ちょっとおっぱいがデカいからって調子に乗りやがって……!」
「そ、それは聞かれると非常にマズいので、ここだけにしておいてください……」
「……もしかしてなんデスけど、スズカゼさん」
「何? ピクノちゃん」
「ここに残ったメンバーって、皆、その、胸が小さい人デスけど、それは」
「さぁ、探しに行きましょうかァ!!」
「す、スズカゼ殿ーーーーーっ!?」
《シーシャ国・国境地》
「右だ、キサラギ」
「承知の上なり」
盗賊団の一人が放った斬撃は、キサラギの相対する一撃によって相殺される。
いや、相殺されるというのは語弊があるだろう。
刀剣同士が弾け飛び、その腕を押さえたのは盗賊団の男の方だったのだから。
「まず一人」
腕を押さえ、蹲っていた男の首は弾け飛ぶ。
血潮が白銀の刃へと舞うが、キサラギはそれを気にする様子など見せる事はない。
上を無くした身体はゆらゆらと揺れ、風に攫われてキサラギの方へと倒れ込む。
彼はその骸の切断面へと刀を差し込み、一刀両断した。
仲間の分断死体と頭を足下に転がされた他の盗賊団は思わず怯み、押し殺すような叫び声をあげる。
「余所見とは、余裕だな」
めきり。
骨肉の砕ける音と共に、盗賊団の一人の腕が明後日の方向へと拉げ曲がる。
彼は腕の伸びている方向を寸断する木刀を見ると同時に、凄まじい耳鳴りのような叫び声をあげた。
だが、それも骨が拉げ、木刀が内臓へとめり込んでいくごとに小さくなっていく。
パワルの宝石により強化されたジェイドの斬撃は、木刀という切断力を持たない武器によっては非常に強力な打撃となり得るのだ。
無論、それは一瞬で命を絶つ斬撃よりも非常に残酷な物で。
「止めろぉ!!」
それを止めようと飛び掛かった盗賊団の男は、ジェイドの頭部へと斧を振り下ろす。
斬撃は彼の頭部を切り裂き、頭蓋を二つに分けることだろう。
その手足に絡みつく、木の根さえ無ければ。
「愚か愚か愚かァ! 乱戦状態で敵を見逃すたぁ、愚か過ぎるぜェ!!」
手足を完全に封じられた男は必死にそれを解こうと藻掻き苦しむが、それを待つようなお人好しは居ないだろう。
その男の喉元に木刀の柄が突き刺さり、余りに衝撃に喉は潰れ気管は埋まり骨は砕き折れる。
木刀を翻し柄を男に当てたジェイドはそのままそれを引き抜いて、眼前で藻掻き苦しむ男の腹部へ突きの一閃を叩き込んだ。
「助かった、ガグル」
「愚かだぜ、ジェイド。油断大敵ってヤツだ」
「……全くだな」
ジェイドは自らの前で腹部を破壊され、呼吸を止めた男の首を掴み上げる。
彼の爪が男の頸動脈に食い込んで血飛沫を上げると同時に、ジェイドはその男をガグルへとぶん投げた。
空中を男の身体が血飛沫と共に舞い上がって、ガグルへと迫り行く。
「うォい!?」
勿論、彼はそれを避けるべく前転のように転がるが、その死骸の行き先はガグルではない。
彼の後ろに居た、ナイフを構える男だった。
「油断大敵、か」
「……うるせー!!」
ナイフを構えていた男は仲間の死骸を押しのけて立ち上がるが、その首から下は白き閃光に掻き消される。
何があったのかを理解する間もなく、その男の命はこの世から消え去った。
「……盗賊団風情が」
累々と積もる、死骸の山。
盗賊団の頭である男は、その光景を呆然として眺めることしか出来なかった。
余りに圧倒的。余りに絶対的。
これではまるで虐殺ではないか……、と。
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