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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
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偶発にして必然の運命


四肢が慟哭し、喉奥が咆吼する。

力が溢れ出てくるのだ。魔力全てが己の肉体となるが如く。

この漆黒の中にある紅や白の輝きの中で、絶対的な個として君臨している。


{……これこそが}


偶発なる必然。

ならばこれは奇跡であり運命なのだ。

世界が己等による平定と安寧を望んでいる。

これは傲慢か? 否、確信である。

我が身に宿る力が猛るのだ。あの異端を殺せ、と。


{力だ……!!}


三賢者、天を司る者。

天霊ヴォルグーーー……、その者の超越せし力。


{集え、光よ}


闇の中に灯る星々の光が、彼の指先へ収束される。

曇天からでさえも雷撃が彼の指先、その極点へ集中して行くのだ。

斯くあるべし。猛れ光よ、集え光よ。

全てが我が心音を奏でる為の演具が如く嗤うが良い。

奏でよ奏でよ。我が魂の叫びとして、果てまで貫くが良い。


{未だ名も無き演具であろうがーーー……}


宙空の中に虚ろいながら、彼の姿は反転する。

その世界に重力という物は存在しない。必然、その姿もまた翻ることも。

ただ世界という星が彼の眼より逆さまに成り果てようとも、その照準が狂うことは、決してない。


{今こそは、喜悦として受け入れてくれよう}


全ての光が、彼の指先へ集った。

突き立てられた一差し指、正しく弾丸を装填した銃が如く。

その者は嗤いて、撃鉄を撃ち落とす。


天光の奏(ヘヴン・エンド)


僅かに、ヴォルグの腕が跳ね上がった。

彼の浮遊する肉体さえも微弱な震動を持って。

無音の光が一閃を描き、星の彼方へとーーー……、消えていった。


「…………」


メイアウスはふと、天を見上げた。

果ての世へ飛ばしたはずだ。あの男が生きているはずはない。

星の外、幾度か見たあの世界は正しく無果の世界。

人間や生物なぞが存在しうるはずもない、世界。


「……何か」


だが、その世界こそが。

蒼天の果てにある無限の世こそが。

彼女の頬端を裂く、閃光を堕とす。


「…………!」


自身の周囲には魔力の障壁を張っていた。

少なくとも奴の雷撃程度なら弾ける障壁を、だ。

それが威力を殺すことすら出来ず貫かれた。いったい、何が起きた。


「まさか」


天へ視線を向けた彼女の眼に映るのは隕光。

豪雨が如く降り注ぐ万天の光が、自身を貫くが如く。


「…………チィッ!」


片腕を振り払うと共に展開される幾千の障壁。

純銀のそれ等は重層を創り出し激流の奔走すら創り出して。

地層一片、然れど大地を遙かに凌駕する強靱を司りて彼女を守護する、が。


{愚策よなァ}


刹那、障壁が貫かれ、否。

障壁が渦沌し、逆に一閃は肥大化したのだ。

星を貫き、地脈を破し、メイアウスの足下を瓦解噴火させる程に。

その力を、一瞬で増強させたのである。


「まさか、魔力を……!」


嘗て半精霊であるスズカゼ・クレハがそうしたように。

様々な魔力を吸収した天霊が、魔力吸収を会得するのもまた、必然。

全てが偶発的な事より導かれし、運命。


{世界が叫んでいるのだ! 貴様等は害悪である、と!!}


果てなき闇界、重力なき外界に収束する幾千の光。

斯く在りて斯くなりて。斯く、あれかし。

運命という追い風の元に全てを得よう。運命という導きの元に永劫を喚かせよう。

世界は今、我が背にあり。


{去ねい、四天災者}


極点、一閃、収束。

一切の容赦はない。全ての魔力を込めた一撃。

魔力を喰らう輝閃を防ぐ術はなく、絶対無比なる一撃を避ける手立てもありはしない。

終焉。忌まわしき害悪なる者へ、解脱の祝砲なり。


{我は貴様を超えたぞォオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!}


咆吼の元に、メイアウスの視界は黄金に染まりて全身の力が消え失せていく。

これは偶発、しかし必然。全てが起こるべくして起こったことに過ぎない。

ならば、そうあれかし。なれば、そうあるべきなのだ。


「あぁーーー……」


今にして思えば、そうなのだろう。

この一撃でさえも、仕方無い。

諦めざるを得ないのだ。必然、故に。


「ドレスと髪が汚れるわね」


爆ぜ、失せる。

出来るだけ塵埃は上げたくなかった。ドレスが汚れ、髪に砂埃が付くから。

しかし、仕方あるまい。羽虫風情が無駄に足掻くから、火を炊かざるを得ない。

所詮自身の弱さを理解し、抗うのならば良かった。まだ奴に勝ち目は、まぁ、一匹の羽虫が生命を根絶やしに出来る程度の可能性はあっただろう。

しかし駄目だ。奴は抗った。抗ってしまった。

この自身に対して、抗いという術を見せてしまった。


「えぇ、これは偶発にして必然の運命よ」


メイアウスは両の手を合わせ、静かに広げる。

浮かび上がるのは白雲。純白の、雷雲の黒に対となる白。

彼女はその雲を浮かべ、容易く光撃を、閃光を飲み込んだ。

天霊が、ヴォルグがそれを理解出来るはずなどない。

確かに彼が放った一撃は魔力を吸収し、全てを貫く絶対無比の一撃だった。

然れど彼女はーーー……、メイアウス・サウズ・ベルフィゼリアは。

四天災者[魔創]は、余りに、容易く、無慈悲に。


「[斬滅]が全てを斬って滅すなら、[灼炎]が万物を灼き尽くす炎なら、[断罪]が総人の罪を断すなら」


やがて白雲は収束され、魔方陣となり。

原初にして最初の魔法と、成り果てる。


「[魔創]は天地の魔を創る者よ」


その一撃のみに特化した、その一撃を塞ぎ、喰らい、撃ち返すためだけの魔法。

四天災者という人外の異端が今この場で創り出した、魔法にして魔術。

原初の、魔。


「塵となりなさい」


天霊は呆然とその様を眺めていた。

星から、その大地から羽虫のように小さな女が放つ一撃を。

自身の視界全てを埋め尽くし、死そのものを形にしたような魔を。


{……異端め}


魔力も何もかも全てが。

一切の存在も一切の生存も一切の善悪さえも赦されず。

その天霊はただ、宇宙の塵芥と、成り果てた。



読んでいただきありがとうございました

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