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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
773/876

雷撃は魔創を穿つ

【荒野】


「あーもー、マジ有り得ねぇ」


メタルにとって状況は最悪だった。

彼は単体戦闘型である。即ち、一対一でこそ真価を発揮する。

魔剣という武器のみに頼った戦闘による四天災者は、言ってしまえば酷く役立たず(・・・・)なのだ。

ダーテン・クロイツのように支援特化ではない。彼ならばきっと自身を強化して軽く天霊を吹っ飛ばすはずだ。宗教的に有り得ないけれど。

イーグ・フェンリーのように軍戦特化ではない。彼ならばきっと様々な方法を駆使して天霊共を追い込むはずだ。その前に自分で突っ込みそうだけれど。

メイアウス・サウズ・ベルフィゼリアのように広域戦闘特化ではない。彼女ならばきっと腕の一振りで天霊共を吹っ飛ばすだろう。この場には居ないけれど。


「……ったくよぉ」


彼はそんな事を思案しながら鮮血に塗れる片腕を抱える。

痛い。掠り傷からの血が止まっては新しい傷が増える。

外套は燃えるし髪先は喰い千切られるし、散々だ。十円禿とか出来てないだろうか。


「本当、有り得ねぇ」


繰り返す。彼は単体戦闘型だ。

だから天霊共を一体倒そうとすれば百体から攻撃を受けるし、百体を斬り飛ばそうとすれば千体から防御される。

散々だ。散々である。だから。

ーーー……彼は、一体を的確に殺し続け、既に千を超える天霊を殺していた。

幾千幾多の攻撃を受けようとも、狙いを定めた一体を執拗に殺す。

例えその者が逃げようとしても、確実に、絶対的に。


{…………!}


天霊からすれば恐怖の権化だ。

幾ら攻撃しても死なないし止まらない。

狙いを定められれば確実に殺される。

目の前で、同族が叫び声を上げながら逃げようとして、それを止めようとしても決して止まらない。

こんな事なら腕の一振りで殺された方がどれだけ良かっただろう。こんな恐怖を感じずに、ただの一瞬で殺された方が、どれだけ。


「メイアウスは大丈夫かなぁ」


ふと、恐怖の権化(・・・・・)は空を眺めながらそんな事を呟いた。

自分でこんな状態だ。まぁ、奴ならば大丈夫だとは思うけれど。

多分、メイアウスにとってあの男はーーー……、最悪の相性だろうし。



【平原】


{見事な物ではないか}


雷撃纏いし天霊は、口端を吊り上げて嗤っていた。

全身には裂傷と撃痕。息は酷く切れ、瞼は閉じることを拒否するが如く、極限まで見開かれている。

その歯牙でさえもまた、眼前にて大地に伏す女を嘲笑うように。


{やはり、予想通りだ。なぁ? [魔創]よ}


天霊は嗤う。全て読み通りだ、と。

彼は初手から全力だ。肉体を捨て、死終の天霊化さえ厭わなかった。

相手が四天災者という時点でそれでも足りぬのだが、それで良い。

何故か? 答えは至極単純。自分達が本気であろうと、奴等が本気を出すことは出来ないからだ。


{必然。貴様等が本気を出せばこの星が死ぬ。だが、我々のような星の生命である天霊は星を傷付けることが出来ない。それは裏を返せば星を壊さぬということでもある}


差だ。

四天災者の力は既に星の中で収まる次元ではない。

それに対し天霊達は星より生み出された存在だ。その物を壊す事はないだろう。

故にその差。全力を出せば済む者と全力を出せず微量な加減を強いられる者。

それは決して大きな差ではない。しかし、彼等の戦いの中では例え針先程度の差であろうとも、余りに大きい。

何よりもその差は、皮肉にも彼等が弱者故に成り得たこと。天霊の、弱者故の強さ。


{貴様と顔を合わせるのもこれで最後になりそうだな? 四天災者[魔創]メイアウス}


雷撃は天に轟き、曇天へ黄金を刻む。

ただ天を指差すその者の頬は酷く裂けていた。

傲慢と殺意に塗れ、恐怖と警戒に裂けた、その牙が。


{隙を突けると思うなよ。貴様と対峙した時から、油断などありはしない}


頬端に冷汗を垂らしながら、天霊の口端は僅かに歪む。

未だ信じられる物ではない。あの四天災者を、自分は殺せる立場にある。

何という傲慢、何という恐怖。これが現実かどうかさえ怪しい。

だが間違いなく現実だ。これは、決して違うことなき現実。


「忌々しい、天霊め……!!」


{呪言は地獄で吐け、女狐}


刹那、曇天より放たれし雷撃がメイアウスを穿つ。

然れど彼女は岩盤の盾を展開、同時に雷撃を打ち消した、が。

たった一発ならば耐えられただろう。或いはその威力であれば。

だが、天霊の放った一撃は、余波でしかなかった。

彼女の召喚した岩壁を木っ端微塵に粉砕した、それは。


愚天の奏者(レストグ・ドルネス)ッッッッ!!!}


絶叫は、確信を孕んで。

メイアウスの眼前は純白に染まり、否、無となって。

彼女の肉体は余りに呆気なく、余りに一瞬で。

灰燼となりて、消え、果てた。


{…………は}


引き攣った笑いが出る。

否、笑うな。ここで笑うべきではない。

現実を見ろ。まだ戦いは終わっていないのだ。

幾ら計算通りに進もうとこれは戦場。終わるはずなどない。

例え四天災者一人を殺したとて、こんな物で。


{まずは、サウズ……!!}


彼の殺意に呼応するが如く、曇天が轟いた。

或いは精神の嗤叫を代吼するように、ただ。

黄金だけが暗雲の中に、蠢いてーーー……。




読んでいただきありがとうございました

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