穴蔵の会議
「ーーー……って事は、だ」
[木根霊・ジモーグ]と妖精[イングリアズ]により支えられた、瓦礫の空洞内部。
そこにはスズカゼを始め、ジェイドやファナとデイジー、そしてガグルとピクノの姿があった。
彼等、双方の後ろにはそれぞれ気絶したサラとキサラギの姿もある。
彼等は一時停戦を互いに約束し、現状整理のために、こうして完全に補強した空洞に集まっている次第だ。
そして、そんな空洞の中の相談で会話を率先するのはガグルである。
「アンタ達はサウズ王国の第三街領主、と?」
「その通りですよ! だから言ったじゃないですか!!」
「いや、どうみても胸が無」
「え?」
「噂には愚かにも尾ひれ背びれが着く物だからな。仕方ねェか!」
「扱いを心得てくれて何よりだ。……そして再度確認するが、我々はサウズ王国第三街領主率いる調査団、とでも思ってくれれば良い。そちらは?」
「俺ァ聖堂騎士団所属、ガグル・ゴルバクス。こっちの小っこいのはピクノ・キッカー。同じく聖堂騎士団所属だ」
「聖堂騎士団と言えばスノウフ国の戦闘部隊か。聖堂騎士は……」
「我が国の英雄! ダーテン・クロイツ様デス!!」
「四天災者[断罪]のダーテン・クロイツか。確か、聖堂騎士というのは……」
「神に仕える刃、スノウフ国最強の証なのデス!」
「なるほど。……話が脱線したな、取り敢えずは現状をどう打破するか、だ」
「互いの勘違いで戦力を消耗しただけでなく、ホントの盗賊団に一網打尽にされかけたのは痛いですね……」
「その愚かな勘違いは今言っても仕方ねェだろ。俺達だって、まさかアンタ等がサウズ王国の調査団だとは思わなかったんだからよォ」
「ぶっちゃけてしまえば、本来の目的が互いの国に対する外交関係を有利に進めるための[媚び売り]でしたからね。我先にと手柄を取るために連絡しないことは当然なのですが……」
「そのせいで、こうして勘違いでの戦闘か。愚かすぎて笑えねぇ」
「互いに和解できただけでも良しとすべきですよ。気付かず殺し合ってたりしたら……」
一同は最悪の状況を思い浮かべ、各々の結果に辿り着く。
尤も、それが招くのは結局のところため息でしかないのだが。
「……ともかく、今すべき事は盗賊団を討伐して互いの国に無事に帰る事でしょう」
「とは言え、こちらはキサラギがやられちゃったデス! 私達の中じゃ一番強いのはキサラギなのデス!」
「本人の戦闘力はな!? 俺だって使霊を使えば相当なんだぞ!?」
「使霊を使うって何デスか! 使わせていただく、デス!」
「俺ァ信仰は深くねェの!」
「言い争うのは結構だが、まず会話を進めてくれるか? 盗賊団を倒す術を考えなければならない」
「……まず相手は私達が死んでるかどうかを解っているのでしょうか?」
「ここに来るまで、さっきのもそうだが、随分と派手にやったからなァ。愚かにも気付かれてるだろ」
「ふむ。では、相手の人数を把握した者は?」
「こっちは解らないデス」
「私達もそうですね。そもそも、ガグルさん達がそれだと思ってましたし」
「……戦力はどうだ? この際、互いに反する理由もない。手を取り合って仲良く盗賊団共を締め上げるとしよう」
「そうだな。いざ国の愚かなお偉方に手柄のことを言われれば、勘違いの一件を突き付けてやれば良い。愚かに狼狽えるだろうぜ!」
「そういう事だ。協力する点に関しては問題は無い。後は盗賊団の人数や配置だが……」
「……そう言えば、ここを爆破したのだから、それなりの人数は居るんですよね?」
「確かにそうですな。……スズカゼ殿、ナイスです!」
「ど、どうも……」
「魔術師か、それに準ずるジョブの者が少なくとも五人以上は居ると見積もるべきか。ファナ、貴様はどう思う?」
先程から一言も発していないファナに向けられた、ジェイドの質問。
魔術師というジョブという観点からファナは専門家とも言える立場だ。
質問が向くのは当然、なのだが。
「…………」
彼女が快くジェイドの問いに答えるはずもなく。
何処か不機嫌そうに視線を逸らしながら、舌打ちしている。
「……仲、悪ィの?」
「獣人嫌いなのだ、あの人は……」
呆れ混じりの言葉を零すデイジー。
彼女からしても、ファナの獣人嫌いは少し常軌を逸しているようにも思われる。
獣人暴動時の民を顧みない攻撃や、現状での反発。
とても一軍人が取る行動として目を瞑れる物ではないだろう。
「ファナさん」
スズカゼの、少し沈んだような声。
この状況下での言い分だ。ファナ自身もそれが我が儘である事は解っているのだろう。
彼女は舌打ち混じりに、やがて行うべき作戦を語り出す。
「……[魔術師]というジョブは主に魔術を使用する物に類定される。平たく言えば、そこで気絶している女の使っている狙撃も一部分的には[魔術師]のそれとも言えるだろう」
「そ、そうなんですか」
「では、これを前提にして言える事は相手は[魔術師]だけではないという事だ」
「その心は?」
「そもそも、この場を爆破するならば五大元素的に考えて火か雷だろう。貴様等が予想するように相応の人数が居るというのならば、その相応の人数は滑れそれらの属性を持つ事になる」
「その愚かな前提自体が有り得ない、って事か」
「一盗賊団であるにしても部隊構成を[魔術師]の、それも属性を限定した形で固めるとは考えにくい。つまり、連中は魔術師ではなく」
「爆弾を使った、と?」
「前提条件からすれば。同時に多方向を一瞬で、などという芸当をするならば、それの中心に居なければ難しい。だが、その中心に居たのは獣人共だ」
「……待てよ? じゃぁ、爆弾を使ったって事になれば、人数も」
「その前提も崩れる。相手は少人数で物資はあれど小心者。現状も仕掛けてこない事を見れば、奴等にとって最善の結果は我々が死んでいる事か我々が撤退する事だ」
「その上で作戦はどうするんだよ?」
「……小心者で少人数の盗賊団相手に、作戦が必要か?」
ファナの言葉に、ガグルの口元は醜くつり上がる。
白い牙を見せて、彼は目元も大きく揺らがせて。
スズカゼは木刀を握り直し、デイジーはハルバートを肩に担ぎ。
ジェイドはパワルの宝石を填め直し、ピクノは膝を突いたまま慌てて周囲を見回してーーー…………。
「行くぞ。次は奴等に沈んで貰うとしよう。ただし、瓦礫の海にではなく、血肉の海にな」
立ち上がる。
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