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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
755/876

因果は雫の元で

《王座謁見の間》


「シャーク王、この度は」


「堅苦しいのは構わん。それより顔を上げてくれ」


玉座の前にて、彼女は片膝を突いたまま顔を上げる。

嘗てのサウズに比べれば余りに質素な一室だ。無駄な装飾はなく、それどころか作戦会議室のような武骨ささえ感じられる。

いや、三年前の大戦では事実、作戦会議だった場所だ。

彼がその装飾をそのまま残しているのが自戒か惰性かは、解らないけれど。


「……髭を生やされたのですか」


「似合う?」


「似合います」


「ごめんこっち見て言って」


ですよねぇと微笑みながら、モミジは苦笑した。

一方、寂し気に髭先を擦るシャークは取り敢えずちょっとぐらい余裕はあるようだなと取り直し、隣のスモークに命じて彼女の眼前に地図を広げさせる。

尤も、老父は地図を広げるばかりでなく、ファナを見定めるように眺めた後、にぃっと真っ白な歯牙を見せた。


「悪くない眼だ」


「……ふん」


彼女が鼻を鳴らすと共に、老父は二人の獣人の元へと戻っていく。

いや、正しくはひらひらと手を振ったりにこやかに微笑む獣人達の元へ、だ。


「さて、懐かし同窓会やってる場合じゃねぇのは解ってるな? 今重用なのは戦況だ」


シャークの、傷だらけの指が地図の上を添ってく。

シャガル、サウズ、スノウフ、ベルルーク。嘗ての四大国を、円を描くように。

そしてやがてその指はシャガルとサウズの間に止まり、紙面に皺が出来るほど強く押し潰した。


「恐らくここでスズカゼ達が戦ってる。間違いないな? ツバメ」


シャークの確認に対し、ツバメは慌てながらも大きく頷いて同意した。

地図の上にてしてしと指を打ち付けながら、彼女は自身が感知する魔力の波動をなぞり上げていく。


「す、スノウフとサウズの間でスズカゼさん達が戦ってるのは間違いないよ。この魔力には覚えがあるもん!」


「……シャーク国王、これは?」


「四年前に鍛え上げられたのが功を奏したっつーこった。とは言え、感知型に仕上げたのはツバメの意志だがな」


少女は張り切るように胸元で両手をぐっと溜めながら、健々気しい意気込みを見せる。

四年前、シャガル王国での騒動の最中に居た彼女だ。半獣人という特殊体質の為に魔力操作が出来ず、人の心を無差別に見てしまうために存在を恐れていた。

しかしスズカゼの、八割ほど変態的な意欲による訓練の結果、彼女はこうして魔力の操作に成功した訳だ。

四年という月日を掛けて操作から応用へ、感知特化という領域に到った訳である。


「ほ、他にも幾つか大きな魔力があるよ。サウズに幾つかと、あっ、えっと、色々なところに移動してるのと、えっと、えっと」


モミジが彼女を落ち着かせようと肩を撫でる。

しかしそれに叛してツバメは段々と息を詰まらせ、全速力で疾走でもしたかのように、凄まじい量の汗を流し始めた。

無論のこと息は激しく切れ、指先は細かく震えていく。

明らかに尋常な様子ではない。タヌキバとキツネビが急いで治療に駆け付けようとした、その時。

彼女は、弱く、細く、小さく、呟いた。


「ここに、居る……」


刹那、ファナの魔術大砲がデッドの顔面を貫いた。

否、その顔面があった場所を、貫いた。


「おや、反応が良い」


転げるようにそれを回避したデッド。

彼の頬端には一筋の斬傷が出来ており、紅色の雫が静かに顎先へ落ちていく。

ファナの一撃による物ではない。彼の、背後より迫る一撃による物だ。


「彼ぐらいは始末して置きたかったんですがねぇ」


その男は、軽々しく。

切っ先に僅かな紅色を垂らす槍を構え、述べる。


「バルド・ローゼフォンッ……!!」


シャークの声と共に、デッドが跳ね退き、スモークが豪腕を構え、ファナが魔力を収束する。

完全な臨戦態勢。最早、何処から、どうやってなどを問うよりも前に、彼等は殺意をその刃に、拳に、魔力に、込めたのだ。


「えぇ、お久し振りです。シャーク王。……尤も」


然れど、その殺意は。


「今回は私だけではありませんがね」


容易く、折られる事となる。


王城の天蓋が吹っ飛び、崩壊音と共に燦々と輝く太陽が彼等へと差し向けられた。

急激な眩しさに目元を顰める暇さえ無く、その場に居た者達は彼女を見ることとなる。

美麗。天女かと見間違う程に美しく、清らかで、それ故に妖艶な女性。

ただ吸い込まれてしまいそうだった。その美しさは、老若男女関係無く、視線を彼女へと引き付ける。

然れど、皆が直感していた。直感せざるを得なかった。

その美しさの中に、余りに恐ろしい、悍ましさがあるのだ、と。


「天霊かッ……!!」


彼女は何も答えない。

冷淡でもなく、冷悪でもなく、冷静でもなく。

かといって慈悲も慈愛も慈護もなく、見下ろす。

それが摂理なのだ、と。蟲が己の為に、生きる為に葉を喰らうのに等しく。

意味こそあれど、感情が付随する物ではないのだ、と。

そう語るが如く、見下ろすのだ。


「貴方達は何かと邪魔でしてね。まぁ、この騒乱に紛れて私達が出て来たという訳です」


槍を、構え。

天に幾多の光を魅了する水球を作り出し。

彼等は、シャークたちと対峙する。


「さて、こちらも始めましょうか」



読んでいただきありがとうございました

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