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獣人の姫  作者: MTL2
最終決戦
753/876

限界を穿つ


一撃一撃が、必殺。

擦っただけであろうと、骨肉が削られる。

否、吹っ飛ぶ。衝撃が空虚を喰らうが如く、引き裂かれる。

最早、拳撃なぞという次元ではない。

砲撃さえ凌駕し、衝撃さえ破砕する。

慟哭は天を裂き、咆吼は地を穿ち。

破壊の獣と紅蓮の姫は、激突する。


「ァハハハハゲハハハハハハハハハハハハッッッ!!!」


ただ、嗤う。

獣にとって慟哭とは嗤叫であり。

獣にとって咆吼とは悦楽であり。


「まだまだァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」


ただ、振るう。

彼女にとって慟哭とは斬撃であり。

彼女にとって咆吼とは紅蓮であり。


「脆い弱い軟い温い緩い軽いィイイイイイイイイッッッッ!!!」


業火でさえ、万物を喰らう紅蓮でさえもその獣は止められない。

焔を裂き、牙より白の息吹を吐きながら、迫り来る。

如何なる刃より鈍く、重い、拳という武器を持って。


「まだなんだろォオオオオオオオオオオオオがァアアアアアアアアッッ!!」


紅蓮、剣閃。

拳撃、破槌。

衝突、崩壊。


「俺を楽しませろよスズカゼェエエエエエエエエエエエエエッッッッッッ!!!」


最早、回避など眼中にはない。

全撃を真正面から受けきり、一撃でさえ岩盤を微塵にする威力の物を真正面から受けきり。

全て、拳で返す。全て、殴り返す。


「とォオオオオオオオオオオオオ然だァアアアアアアアッッッッ!!」


刹那の、空白。

遠場で行方を刮目するオクス達の耳にさえ、それは届いた。

拳の合間を縫うように、ではない。

それこそ摺り抜けるように、薙ぎ祓いの剣撃がデモンの脇腹を穿ったのである。

筋肉の盾により、それが彼の肉体を傷付けることはない。

だが、それで良い。その刹那さえあれば、良い。

密接。零距離。防御無効の、一撃さえあれば。


天陰てんちーーー……、地陽めいどう


天空へ、爆炎が噴き上がる。

否、爆炎なぞではない。それは最早原初の焔。

太陽という名の万物を超える真焔。

骨肉? 岩盤? 虚空? 否。

それら風情が耐えられる云々の次元ではない。

少なくともスズカゼがそれを撃ち放ったとき。

残ったのはただ、地平の果てまで抉れ溶けた大地のみ。


「……ーーーか、はっ」


自身の魔力を収束し、砲撃が如く撃ち放つ。

それは彼女にとって絶息後に全力で疾駆するに等しい行為だ。

嘗ての魔力全てを撃ち放つ一撃全賭の技ではなくなったとは言え、この技が酷く消耗するのは変わらない。

尤も、この一撃に払う代償分だけの見返りはあるのだが。


「強かった、ですよ……」


今は亡き獣へと彼女は呟いた。

強かった。今まで戦ったどんな的よりも、真っ直ぐだった。

いや、愚直だったのだろう。あの男はただ闘争に生きた獣だ。


「……ホント、馬鹿みてぇに」


恐らくあの獣が真正面から突っ込んでこなければ。

真正面から撃ち合ってくれなければ、自分は負けていたかも知れない。

獣として、純粋な戦人として。

あの獣は、デモン・アグルスは、誰よりも強かったはずだ。

そう、誰よりも、誰よりもーーー……。


「喰い下がってくれるッ……!!」


スズカゼは絶叫に等しい慟哭と共に天空へと紅蓮を撃ち放つ。

先の天陰・地陽(てんちめいどう)と同等の、解放の一撃。

連続した次撃であろうとその威力が落ちることはない。

いや、それどころか上昇さえも。


「これでーーー……!!」


瞬間、彼女は気付く。

天空より飛来するその獣が。

必殺の拳を撃ち放って来る、その獣が。

嗤って、いないことに。


「……ちょっと」


一つ、誤算。

戦法ではない。戦況ではない。

魔術や魔法の類いではない。無論、デモンが何か仕掛けた訳ではない。

然れど、それは余りに絶望的な誤算だった。恐らくこの世界の誰もが、否、デモンでさえも知り得なかった誤算。


「嘘、でしょう……?」


単純な話だったのだ。

デモン・アグルスという男は、その獣人は完成されている。

素手の戦闘に置いて、接近戦に置いて彼の右に出る者は居ない。

それが神であれば、四天災者という人外であれば話は変わっただろう。

しかし彼は獣人という括りの中では、間違いなく最強に君臨する獣だ。

だからこそ、気付かなかった。誰もが気付くはずなど無かった。


「感謝するぜ」


絶対的な前提条件の叛逆。

何人さえも予想出来ぬ、破壊。


「俺はまた、戦える」


誰も知るはずなどない。

デモン・アグルスが。

未だ、成長途中ということを。


「この、戦闘馬鹿がァアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」


「褒め言葉だなァアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」


太陽に叛逆するが如き爆炎に暴嵐。

数多の雲が吹き荒び、晴天は紅空へと変貌する。

例えその一撃でさえも、獣を灼き殺すには充分だっただろう。

斬り刻むには充分であっただろう。

刹那より前の、獣であれば。


「……狂獣バケモノめ」


悪態を、吐きながら。

スズカゼはその一撃を刀剣の柄で受け止めた。

一撃は彼女の肉体を潰し、脚を潰し、腕をへし折り。

否、大地さえも陥没させて。地下深くの岩盤に到るまでを抉り取って。

一切の亀裂さえも赦さぬほどの崩壊の中に、彼女を叩き込み。


「言っただろうが」


獣の、嗤いはしない獣の。

頬が裂け、目元が歪み、牙を唸らせる獣の。

ただ一言が、全てを掻き消す静寂の中へーーー……、響く。


「褒め言葉だ」



読んでいただきありがとうございました

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