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獣人の姫  作者: MTL2
滅国の跡
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掘進


「マズいな……」


瓦礫の下で、ジェイドはそう呟いた。

どうにか手を背後に回せる程度の広さが保持されている、瓦礫の中だ。

いつ崩れてもおかしくないし、このままでは空気も危ういかも知れない。

何より、もし自分の予想が正しく三つ巴の戦いとなっているのならば、個々に留まるのが余り良い行為とは思えない。

そもそも、考えてみればおかしいではないか。

どうしてこうも都合良く、狙い撃ったかのように爆破に巻き込まれる?

三つ巴を前提とするならば、自分と撃ち合ったあの男も、もう一人の木の根を操る男も、ここに誘き出されたのではないか?

そして自分達も来たところで一網打尽の大爆発……。

そうだとすれば説明が付く。

あの男達ではなく、盗賊団は別に居たのだ。

彼等が何者なのかは未だ不明だが、敵の敵は味方。話し合えば協力出来るかも知れない。

……だが、まずはここから出なければ話にならないだろう。


「とは言え……」


上にのし掛かっている瓦礫は素手で動かせるような物ではない。

かといって刀剣で斬ろうにも、その刀剣がポッキリと折れてしまっているのだ。

これでは斬る事も出来ないし、それ故に脱出出来ない。

まさか、こんな所で危機を迎えることになろうとは……。


ガリッ


「……む?」


何だ、今のは。

壁を爪で擦るような、引っ掻くような音だ。

瓦礫同士が擦れたのだろうか。

だとすれば、この小さな空洞すらも危ういかもしれない。

早々に脱出しなければ本当に瓦礫に両手足と身体を潰される。


「ぐっ……!」


パワルの宝石を発動しようと、瓦礫が動く事はない。

周囲の、小さな石ころ程度は転がっていっても、上にのし掛かって居るであろう、巨大な瓦礫が動かないのだ。


ガリガリガリッ


瓦礫同士が擦れる音は、段々と大きくなっていく。

何が原因かは解らないが瓦礫が崩壊し始めているのは事実だ。

このまま無抵抗に押し潰される謂われはない。


「ぬっ……、がっ……!」


ほんの少し、瓦礫が持ち上がる感触はある。

けれど、それはあくまで数センチほどで、とても脱出出来る物ではない。

瓦礫の擦れる音はますます大きくなり、最早、耳元で鳴っているかのようなーーー……。


ガゴンッ


「あ、居た居た」


「発見デス!」


「無事か!? ジェイド!!」


だが。

ジェイドの目に映ったのは、モグラよろしく地面の穴を進んできた、スズカゼ達だった。

彼女達は全身を泥まみれにして、スズカゼとデイジーを筆頭に進んでくる。

先程までの瓦礫が擦れる音は彼女達が瓦礫を掘り進めている音だったのだ。


「姫……、それにデイジーもか。どうしてこんな所に居る?」


「説明は後! まずは脱出しますよ!!」


そう言って、スズカゼはジェイドを瓦礫の隙間から引っ張り出す。

彼がほぼ放り投げられる形で転がったのは、先程の空洞とは比べものにならないような、大空洞だった。

その大空洞には灯りがあり、まるで地下空間のようにも見える。

だが、その灯りがあるにも関わらず洞窟内部は真っ暗ではないか。

しかし、よく見ると、それは真っ暗なのではなく、周囲の壁面を黒い何かが覆っているのだ。


{……ゥォッ}


「お、おう」


ジェイドの足下を小さな、それこそ片手サイズの黒い何かが歩き去って行く。

自分を見上げて何か言ってきたので思わず返事を返してしまったが、邪魔だ、とでも言いたかったのだろうか。


「これは妖精[イングリアズ]デス。魔力に呼応して無限増殖するデスよ」


「……誰だ、貴様は」


「ピクノ・キッカーというデス! この使霊の主デス!!」


えへんと胸を張るピクノ。

現状を飲み込めていないジェイドからすれば、まずこの少女が誰なのか。

そして、どうしてこんな少女が瓦礫の下に居るのか、スズカゼ達と共に行動しているかが解らない。

この状況の説明を求めようにも、この少女は何処かメタルに似たアホの子の気配がするし、スズカゼ達は自分が居た場所よりもさらに奥を急いで掘り進めている。

全く、この現状は何だというのだろうか。




りん


キサラギの鈴音により、サラは薄れかけた意識を取り戻す。

既に瓦礫の山に埋もれてから数時間が経過した。

元々、自分とキサラギ二人がどうにか居られる場所だ。

決して空気は多くない。

さらに言えば、その空間に人二人。

空気が早々と無くなっていくのは必然だろう。


「……生きて居ようかや、サラ・リリエント」


「サラで大丈夫ですわ……。キサラギさんも辛いなら喋らなくても大丈夫ですのに」


「諦めるな。ツキガミ様の御導きがある限り、我々死す事や無し」


「フェアリ教徒ですのね……、貴方……」


「……無論だろう、我々は」


彼の言葉を打ち消すように、周囲の瓦礫がガラガラと音を立てて崩れ始める。

サラは虚ろな目でそれを見ていた。

自分の上部にある巨大な瓦礫が押し迫ってくるのを。


「……無念なり」


「ふふ……、笑えませんわぁ」




地鳴りのように鳴り響く、崩壊音。

スズカゼ達がそれに気付いた時にはもう、その音は鳴り止んでいた。

余りに一瞬の崩壊音だったが、それの距離は決して遠くない。

そして、小さくもない。


「……スズカゼ殿!」


「急ぎましょう!!」


スズカゼとデイジーは武器を使い、地下牢から掘り進んできたように、先への瓦礫を斬り飛ばしていく。

魔力によって無限増殖するイングリアズにより崩壊の心配はないが、瓦礫とて柔くはない。

時間が掛かるのは当然だ。

だからこそ、彼女達は間に合わなかった。

サラ達の居る場所が、崩壊するまでに。


読んでいただきありがとうございました

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